元プロテニスプレイヤーの松岡修造さんといえば、暑苦しいほどのポジティブキャラで圧倒的な存在感をアピールする人物。そんな松岡修造さん流の習慣をドリル形式で身につけられるというユニークな一冊が、きょうご紹介する『解くだけで人生が変わる! 修造ドリル』(松岡修造著、アスコム)です。

"人格は繰り返す行動の総計である。それゆえに優秀さは単発的な行動にあらず、習慣である"

古代ギリシャの哲学者・アリストテレスはこう言いました。僕は、この言葉を「自分を変えるには、いい習慣を身につけること」と捉えています。(「はじめに」より)

つまり、いい習慣を身につけると人は変われるということ。逆に、人間関係、仕事、毎日の生活などでうまくいかないことが続いているときは、悪い習慣に気づいていなかったり、気づきながらも変えられなかったりしているからだと考えているそうです。とはいえ大人になればなるほど、身についた習慣を変えることは困難。

それを理解したうえで、松岡さんは「自分を変えるために意識していた7つの習慣を紹介しています。それは、「感じること」「工夫すること」「準備すること」「切り替えること」「受け入れること」「反省すること」「感謝すること」。

そして、そんないい習慣を身につけるために、自身が実践してきたことを本書にまとめたというわけです。きょうは「習慣その5 受け入れる」を見てみましょう。

[受け入れる]を実践する その1

間違っていたらすぐに○○

答えは、「間違っていたらすぐに『謝る』」。事実、松岡さんも間違っていると気づいたら、すぐに「すみません!」と謝るのだといいます。以前はそれがなかなかできなかったそうですが、グズグズしていると事態は自分の手に負えない状況になっていくもの。でも、すぐに謝れば事態を悪くすることはないということ。

それに近いこととして、すぐに対応することで結果を出し続けているテニスのトッププレイヤーの話題も紹介されています。彼らは試合内容が悪いと、勝敗に関係なく試合終了後すぐに練習場に向かうのだそうです。とはいっても、できなかったところを特訓するのではなく、試合中に崩れていた部分を修正するため。

プロの試合は勝利が絶対条件なので、自分のテニススタイルを崩してでも、試合中は勝つ可能性を探るもの。しかし、それで勝てたとしても、自分のテニスをして勝てたわけではない。そのままにしておくと悪いクセがつき、やがて自分のスタイルを見失うことになる。そこで、修正作業を試合直後の練習で行うということです。(133ページより)

[受け入れる]を実践する その2

戦う相手にも「○○○○○○○!︎」

この7つの○に入るのは、「ナイスショット」。たとえば錦織圭選手も相手の好プレーに拍手を送ることがよくありますが、これは相手への皮肉ではないのだそうです。また、悔しがっているのでもないといいます。テニスの場合は相手のプレーを認めることで、「自分のミスでポイントを失ったわけではない」と気持ちを切り替えることにもなるのだということ。「ナイスショット!」と相手を讃えると、それ以上そのプレーに引きずられることがなくなるというわけです。

同じように、自分のナイスショットも見逃すべからず。ここでは、あるジュニア選手ことを引き合いに出しています。その選手は正しいフォームで素晴らしいコースに打っていたのですが、1球だけ外してしまったのだそうです。でも、このことについて「正しいショットでわずかにミスしたときはナイスショットです」と松岡さんは断言しています。だからすぐに駆け寄り、「ナイスショット!」と声をかけたのだとか。

自分が一生懸命正しいことをしたうえで結果が出なかったときは「ナイスショット!」。自分で納得できるパフォーマンスだったら、結果はどうあれ、そういえるようになってほしいと主張しています。(137ページより)

[受け入れる]を実践する その3

解決できないことは○○ない

当然ながら、答えは「悩まない」。そして、このことについては、「ほぼ不可能なものに対しては、受け入れるしかない」と断じています。なぜなら、不可能なものごとに対して「もしも~だったら...」と考えてみたところで、現実はなにも変わらないから。そんな思いは、次のひとことに集約されています

僕が生きているのは、目の前にある現実だからです。(143ページより)

現実を受け入れれば、そこには新たな発見があるもの。でも現実を受け入れずに考え込んでしまったら、どんどん負のスパイラルに陥っていくだけ。そこで松岡さんは問題に直面するたび、「これは解決できる現実だろうか」と心に問いかけるのだそうです。(141ページより)

[受け入れる]を実践する その4

失敗は○○○さない

ここに入るのは、「ごまかさない」。松岡さん自身もテニスやテレビの仕事で何度も試合し、失敗を通して学んだことがたくさんあるのだといいます。つまり失敗したり、挫折したりしたあとにどう立ち直るかで、より強い自分になれるかが決まるということ。そのために大事なのが、失敗した理由を探すこと。そしてその過程で、「もっとできるんじゃないか」というアイデアも湧いてくるそうです。そうすると、以前よりも仕事ができる自分になれるということ。

でも失敗したとき、「俺はできない男だなあ」など失敗そのものとは関係ないことで落ち込んだりイライラすると、また同じ失敗を繰り返すだけ。でも失敗したときこそ原因をしっかり分析すべき。そうすれば、必ず解決策は見えてくるものだといいます。(145ページより)

[受け入れる]を実践する その5

自分を応援してくれる最も身近な存在は○○である

松岡さんらしい考え方ですが、この○○に入るのは「自分」。がんばって最後までやり遂げていることは、誰にでもあるもの。企画書を仕上げる、報告書を書き上げる、大量の資料を整理する、宿題をやる、朝のジョギングをする、ダイエットのためにケーキをがまんするなど。

そんな小さなことをやり遂げても、誰も褒めてくれなくても当然ですが、松岡さんはここで、「すぐ近くに褒めてくれる人がいる」と記しています。つまり、それが自分。自分だけはがんばっていることを知っているのだから、だったら自分に褒めてもらおうという考え方です。事実、松岡さんも自分を褒めることを大事にしているそうです。どんなに些細なことでも、やり遂げただけで終わりにせず、自分を誉め讃える。すると、「もっといい結果を出したい」と、いい意味で自分の気持ちをさらに高められるというわけです。(149ページより)

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本人がああいうキャラなのでお笑い系かと思われるかもしれませんが、本質は至って真面目。「強い個性はこうしてつくられたんだな」と実感でき、同時にその価値観を学ぶことができる良書だと感じました。

(印南敦史)