仕事の速い人は150字で資料を作り3分でプレゼンする。「計って」「数えて」「記録する」業務分析術』(坂口孝則著、幻冬舎)の著者は会社員時代、「仕事は教科書どおりにいかない」と上司からいわれるなか、「仕事をうまく進めるなんの手段もないのだろうか」と悩んだ経験があるのだそうです。

その結果たどりついたのが、「自分だけの教科書」をつくること。交渉上手といわれていた先輩たちの隣に座ってICレコーダーで会話を録音し、その仕事を徹底的に分析したというのです。

上司がやってきて、「お前なあ、そんなことやっとる奴、ほかにおらんぞ」といった。「そりゃそうでしょうね」とぼくはいった。ぼくはぼくが極端だと思った。ふつうひとは、(中略)交渉上手な先輩がいたとして、わざわざ録音して言葉と内容を確認しようとはしない。ぼくは極端なことを通じて、よのなかの仕組みを解明したかった。(「はじめに」より)

その結果、仕事をはじめて5年たつころには、仕事の分析ノートや走り書きがダンボール何箱ぶんもたまっていたのだとか。以来、「仕事を分析しては本にする」という作業を数十回も繰り返してきたのだそうです。

仕事を分析してはじめてわかることがある。多くのひとは、中小企業診断士の勉強をしたりだとか、MBAを取得したりだとか、自分の知らない世界に仕事の答えを求めようとする。でもぼくは自分がまさにやっている仕事そのものにヒントが隠されていて、誰もそれに気づかないと思ってきた。(「はじめに」より)

つまり、そのような考え方に基づいて書かれたのが本書だということ。仕事において「計る」「数える」「記録する」の重要性が語られているといいます。きょうは第3章「営業がうまい人は、1ヶ月に何回顧客に会いに行くのか?」のなかから、「交渉や対話では必ず4W2Hを聞き出す」に焦点を当ててみましょう。

具体的な質問内容は4W2Hが基本

特に提案型業務において大切なのは、「4W2H」を聞き出すこと。それが著者の主張です。しかも、とても重要なことなのに、これを聞き出している営業マンはほとんどいないと指摘してもいます。一般的には「5W2H」が有名ですが、著者のいう「4W2H」にひとつ抜けているWは「Why」だそうです。たとえば「なぜ、企画を募るのか」などにあたる部分ですが、それは雑談として話せばいいことだという考え方です。

  • What:なにが悩みごとなのか、なにを欲しているのか?
  • Who:誰が決定権者なのか?
  • When:いつからはじめるのか。なぜその時期なのか?
  • Where:どこでそれが必要なのか?
  • How:どのようにサービスが必要なのか?
  • How much:いくらくらいで必要なのか?

(146ページより)

これらを、それぞれ聞き出すことが重要だということ。どれも見積依頼書や提案依頼書を読めばわかりそうですが、そこに書かれているのは建前だけで、本音がわからないからだといいます。(145ページより)

4W2Hで本音を聞き出す

「お客さんは商品を気に入ってくれたけれど、予算が合わなくて買ってもらえなかったようです」「競合他社に価格で負けたようです」などと敗因を述べる営業マンについて、「それは絶対にありえない」と著者は断言しています。むしろ、商品を気に入ったら、価格が負けていたとしても買おうとするもの。だいいち価格だけが重要なら、営業マンの存在意義などないというわけです。

では、どういうことなのでしょうか? この点については、「商品が選ばれなかったときは、相手の心をつかんでいないだけだ」と著者。先方の希望や困りごとを把握していないだけだということで、それどころか、勝負は見積書や提案書を受け取る前に決まっていると考えてもよいとすらいいます。

ここで上記の4W2Hを具体例で考えてみましょう。たとえば、お客さまに新しいお弁当を売り込んでいるとします。お客さまから出された提案依頼書に書かれているのは「あまりカロリーの高くないお弁当を提案してください」ということだけ。こうした場合、他の仕出し業者は提案依頼書を見て、運を天に任せるように提案を考えるもの。しかし4W2Hの質問が重要だとわかっていたら、すぐお客さまに会いに行き、次の項目をヒアリングするといいます。

  • What:低カロリーってどの程度のもの? そして、どんな食材をメインに使えばよいかについての希望は?
  • Who:お弁当の提案をジャッジする人は誰?
  • When:いつまでにお弁当の提案をすればいい? いつからお弁当を納入開始すればいい?
  • Where:お弁当はどこに持っていく必要がある?
  • How:お弁当はどのようにして持っていけばいいのか? 一括? 分割? 梱包や配送の条件は?
  • How much:1個あたり何円なら検討してもらえるのか? あるいは、何円以上なら話にならないのか?

(149ページより)

このように、4W2Hをきちんとヒアリングすれば、他社よりも優位に立つことが可能だということ。ヒアリング終了時には聞いた内容を繰り返し、WhatからHow muchまで相手の条件を確認。そして最後の最後に、次の3つのフレーズを(自分なりにいいやすく変えたうえで)相手に投げかけるといいそうです。

・私がお聞きした内容は間違いないですね?

・法律的かつ専門的観点から述べますと、◯◯に関しては満足させられませんが、よろしいですよね?

・その他、これらの深い満足条件をお聞きした他社はないと思いますが、私の提案がこれらの深い満足条件に合致していたら受注できますか?

(152ページより)

2番目は、法的に問題のある要求をされた場合(時速900キロで走る車をつくってほしいなど)に、相手の満足条件がそもそも不可能だと伝えるためのもの。そして3番目の確認時に相手が納得していないようであれば、それは「ヒアリングに不備があった」か「そもそも買う気がない」かのどちらかだそうです。

「ヒアリングに不備があった」ならWhatから質問を繰り返せばいい。「そもそも買う気がない」ときは、次の潜在顧客に向かう方が効率的だといいます。(148ページより)

4W2Hを提案書や見積書に盛り込み続ける

そして提案書や見積書を渡しに行くときも、渡す前に同じく、「こういう条件をお聞きしました。よって、今回はこのような提案書や見積書を持ってきました」と、4W2Hを確認することが大切。相手は「この条件なら買う」といってしまったので、それを満たした提案はなかなか断りづらいもの。だからこそ、確認することによって確率が1%でも常勝するなら、それは積み重ねたときに大きな力になるというわけです。(153ページより)

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ここで一部をご紹介した営業の仕方のみならず、プレゼンテーションのポイント、文章術、講演の仕方まで幅広い内容。しかも自身で分析したデータが基本になっているだけあって、強い口調で語られる説明は的確。大切なポイントを確実に身につけることができそうです。

(印南敦史)