私は、20代の頃、外資系企業や日本のグローバル企業で外国人と一緒に働くチャンスをもらいました。その後自ら海外で就活をし、現在は海外で外国人を雇って起業をしています。
そして、数年前からウェブ上や著書において「海外にはチャンスがある!」と言い続けているのですが、2015年現在、チャンスは海外だけではなくなりました。日本に来る外国人とのビジネスをすることもチャンスなのです。
昨今ニュースになっている、中国人観光客の「爆買い」をはじめ、韓国、台湾、香港だけでなく、ビザ緩和の影響でタイやベトナム、インドネシアからもたくさんの観光客が訪れ、日本を楽しみ、お金を落としていってくれます。また、インド人や中国人をはじめとする留学生や社員として日本で働く人もどんどん増えています。
その影響から、「外国人のお客様」や「外国人の同僚」と働ける力というのが、日本国内の企業でも求められており、その力を持った人の価値が急速に高まっています。
そこで、「外国人にものを売ってひと儲けしたい!」「外国人と働くのはおもしろそう!」自分が「外国人と働ける人」だと思ってもらうために必要なものは何だと考えますか?
語学力や業務面でのスキルももちろんですが、それと同様もしくはそれ以上に大切なのが、今回紹介する3つのスキルです。
「技術は日本で身につけさせて、3年後に海外に飛ばそう」と考えている新卒採用担当者や「最低限のスキルさえ持っていれば、自社で育てられる」と考えている海外支社の支社長が重視するのが、この3つのポイントなのです。
1.貧乏慣れ

日本は、世界で屈指の清潔な国です。そんな環境で20年以上育ってしまうと、「途上国での不衛生な生活なんて無理!」と考えてしまう人は多いです。でも、その程度のことで海外のチャンスを摘んでしまうのはもったいないです。
実際に海外に来て生活してみると、衛生面や不便さに関しては8割以上の人が1週間で慣れます。
たとえば、私がプノンペンで人材育成のカリキュラムとして経営するカレー店「サムライカレー」に、先進国にしか旅行をしたことがない女子大生が1カ月間、インターンとして来た時、当初は「ゴキブリが出た!」「シャワーのお湯が少ない」などと毎日のように騒ぎ、「帰国まであと28日もある...」「2日に1度はイオンに行って身体を浄化しないと...」と泣いていました。
それが、1カ月後の彼女は「あの時の私、バカみたいでしたね」と笑っていたのです。「日本で生活をしていると、極端に許容範囲が狭くなっていたんですね。平和ボケですかね」という分析を彼女はしていましたが、これは非常に的を射ています。
ゴキブリが出たら駆除ツールを買ってきて設置すれば出なくなります(3日で解決)。湯船に入らないでシャワーだけでも結構リフレッシュできます(日本でもそういう生活している人多いですよね)。ちなみにプノンペンには銭湯のような湯船には入れるジャグジーもありますよ。

運転手が道を知らない、価格交渉がめんどくさいなど、慣れるまでは結構疲れます。
その他「日本よりは」不便なところがたくさんありますが、ほとんどのことは「慣れ」で解決できます。人によって慣れることができる範囲は違いますが、「日本以外絶対無理」という人はごく少数だと思います。特に若い人はこの「慣れ」の範囲が大きいです。
だから、若いうちに「慣れる」ことを体験し、自分が慣れることができる範囲を知っておくことが大切です。範囲が広ければたくさんのチャンスを見つけることができ、明確になっていればチャンスを掴める可能性が高くなるからです。
採用面接の際に、海外で働きたい! と言って応募する人のほとんどが「海外=アメリカor欧州」であることを面接官は知っています。そして、そんな所で人が必要な会社は限られています。
そこで、最初に来る質問が「途上国だけど大丈夫?」です。ここで、一瞬イヤな顔をしたり、素っ頓狂な発言をすると「こいつはムリだ。わかっていない」という判断につながります。求められているのは、実体験を踏まえた、現実的な回答です。
「自分は、東京とほぼ同じ生活ができるシンガポールはもちろん、多少インフラが整っていない街、たとえばベトナム・ホーチミンシティやカンボジア・プノンペンなら問題ありません。ただ、旅行で行ったバングラデシュのダッカやカンボジアの田舎のケップなど、極端に生活レベルが低いところになると、短期出張はともかく長期在住はちょっと厳しいです。なぜなら...」
このように、具体的に話せると、面接官は、ただあこがれだけで希望を語る候補者とは、まったく違う存在としてあなたを見てくれるようになります。そして、事前にきちんと説明しておけば、入社後、ミスマッチして「失敗した...」と後悔する確率を減らすことができるのです。
2.非常識許容力

外国人と働く際に一番大切なのがこの「非常識許容力」です。
当たり前のことですが、外国人の人は我々日本人とは違う常識の中で生活しており、違う価値観を持っています。
「日本でいいと思われているものが正義」「自分がいいと思うものは相手もいいと思うはずだ」という常識を外すことができないと、「だから外国人は...」と愚痴を言うだけの生活が始まってしまいます。

全然興味を持ってくれません...。普及には時間がかかりそうです...。
たとえば、カンボジアでカレーパンを作ろうとしたとき、カンボジア人に試食してもらった時の感想は「酸っぱい」でした(彼らはスパイスの味を悪い意味でこう評することが多いです)。
「では、どうすればおいしくなる?」と聞いたところ、彼女がはじめたことは「カレーに練乳を入れる」でした。日本人の我々にとっては胸焼けがするようなカレーパンなのですが、実際に多くのカンボジアの人たちに食べてもらったところ、こちらの方が評価は高かったのです。
ちなみに、とんこつラーメンを食べに連れて行ったときには、一口食べた後、スープに砂糖を入れ始めました。
日本人が好むオリジナルをいいものだと決めつけず、現地の人が何を好むかを知り、日本人のプライドを捨てて現地好みに変えられる勇気。これが現地の人、海外から日本に来てくれた観光客の人に受け入れられるポイントです。
もちろん、日本流を徹底的に貫いて「ホンモノの」味を現地に浸透させるまで押し続けるという選択肢もありますが、頑固に貫いても、それが定着するまでには時間と予算がかかります。そして、その間に資金が尽きたり、中国や韓国企業に市場を持って行かれてしまった事例もたくさんあります。日本企業に必要な人材は、頑固さと外国人への迎合のバランスがとれる人なのです。
こういう日本人が苦手な「非常識許容能力」があると、現地や外国人観光客相手のマーケティングや開発要員として抜擢される可能性がでてきます。
私は元々「日本のカレーはうまいから、カンボジアの人たちも好きだろう」という甘い考えでカレーを現地の人に提供してきました。しかし、彼らがカレーを食べたときの感想は「酸っぱい」でした。我々とは味覚か語感が違うのか、多くのカンボジア人の人が、スパイスの味を「酸っぱい」と表現するのです。そして、この「酸っぱい」は「不快」の感覚をふくんでいます。
「じゃあどうすればおいしくなると思う?」という問いに対して彼らが出した答えは、「カレーに練乳を入れる」でした。彼らにとって「甘い=うまい」なのです。
さあ「カレーに練乳」をどこまで受け入れるべきか? これを冷静に分析できる能力が「非常識許容能力」です。この状況に対してどう考えて、どんな行動をし、どんな結果が出たか。自分がマーケティング部門のトップだったら、その話を聞いてみたいと思いませんか?
3.証明できる実績

そして、動くとちゃんと結果が出ます。アウェイの環境で出した結果は、自信になり実績になります!
上記2項目の中でも触れていますが、自身をアピールするのに大切なことは「自分が実際にやったことを話すこと」ことです。
たとえば、英語力について自己PRする際は、「日常会話なら対応できます」よりも「TOEIC900点」。「TOEIC900点」よりも「英語で××しました」が有効です。ぼんやりした「できます」よりも数字。数字よりも結果が評価されます。
そして、海外で働くことへの動機や、海外ビジネスの今後の展望に関して、『ハーバードビジネスレビュー』や『社長島耕作』で読みかじった借り物の言葉よりも、小さくても自分で体験したことを自分の言葉で話すことが大切です。人から聞いた話、何かで読んだ話は、最初の一言はがんばればいいことを言えます。しかし、その件に関して質問をされたときの回答までを完璧に作ることは困難です。
人から聞いたことと自分が体験したことの違いは、体験したことは思い出せばどんなに細かいことでも語れることです。そして、面接官はそれを知っているので、興味がある話題はガンガン掘り下げて質問をしてきます。それに対して、自分が楽しかったこと、悔しかったこと、うまく行ったこと、失敗したことを包み隠さず伝えることができれば、きっと「こいつはホンモノだ」と思ってもらえるはずです。

違いを理解しつつ共同作業をしていると、すごく仲良くなれます。外人、コワクナイよ!
このような3つのポイント。あなたはこのような力はありますか? 周りを見回してみて、こういう人はいますか? 実際問題、日本人でこの3つを兼ね備えている人はほとんどいません。だからこそチャンスなんです。
英語に自信のある人が少なく、パスポート保有率が低く、海外を怖がる人が多い国民性。今後国内の人口が減っていき、内需が縮小していくこの国では致命的な問題なのですが、個人が生きていくことを考えればチャンスに他なりません。
組織人としてタコツボ型組織の複雑怪奇な人間関係を精密に調整するという、超絶難度の高いスキルを持っている人はたくさんいますが、こうやって外国で活躍できるスキルを持っている人は少ない。
乗車率200%の電車に乗り、台風の日も定刻出社し、終電まで働く忍耐力を持っている人はたくさんいますが、ゴキブリや停電やドブ川に耐えられる人は少ない。
だったら、みんなが持っていないスキルを、みんなとは違う方向の忍耐力を持って、それが評価される場所で活躍すればいいのです。海外に行く、行かないにかかわらず、「外国人と」働ける人を目指してみるのはいかがですか?
海外就職研究家。日本オラクル、日産自動車勤務を経て、ビジネスクラスで世界一周を経験。アジア7カ国で就職活動を行った経験を踏まえて、書籍執筆、Webや雑誌への寄稿、セミナー講師、海外就活・視察ツアーの催行などを展開中。著書に『セカ就! 世界で就職するという選択肢』(朝日出版社)『アジア転職読本』(翔泳社)等。