『日本一のセールスコンサルタント直伝 最高の営業デビュー』(佐藤昌弘著、日本実業出版社)は、著名セールスコンサルタントであり、これまでに20冊以上の書籍を出版してきた実績を持つ著者の新刊。「メンタルスキル」と「営業スキル」の双方から、営業マンのあるべきスタンスを論じています。
これは、「営業に出る前に準備をして、不安をなくしたい」とか、「最高の営業デビューがしたい」と願い人のための本です。この本を読めば、「営業ってこういうものだな」というイメージができます。(Chapter 1「超ブルー 配属先は営業部」より)
また新人だけではなく、先輩営業マンが読んだとしても基本を再認識できるはずだとのこと。きょうは、メンタルスキルに焦点を当てたChapter 2「自信ない やる気が出ません もうやめたい メンタル面を改善する5つのスキル」から要点を引き出してみます。
不安の正体とのつきあい方 〜メンタルスキル1.〜
最初のテーマとして設定されている「不安」は、営業マンにとっては避けて通れないもの。しかし著者は、「不安は、恐怖に変わると消えて無くなる」と結論づけています。そして、そこを探るためには、まず「不安」と「恐怖」の正体を理解することが必要だとも。どういうことなのでしょうか?
「恐怖」とは、対象の実体が明らかになっているときの不快な感情のこと。対する「不安」は、恐怖の対象がわからない状態。たとえばヘビが入っている透明なアクリルの箱のなかに「手を突っ込んでください」といわれたときに生じるのが「恐怖」で、中身の見えない箱のなかに手を突っ込むように指示されたときに襲いかかってくる感情が「不安」だということ。
そして「営業の不安」とは、「わからない」が答えなのだとか。営業デビュー前は、誰しも不安を感じるのが当たり前。営業の現場に出ない限り、不安は消えません。つまり、それが「営業の不安」の正体だということ。
ですから営業の現場に出はじめると、現実の壁が目の前に現れ、不安は消えてしまうことに。しかしここで大切なのは、営業の不安がなくなったとき、「どうやればうまくできるのか」という「疑問」へ気持ちを変化させ、さらに「上達」することだといいます。(28ページより)
仕事の「好き嫌い」と「成果」の関係 〜メンタルスキル2.〜
書店に並ぶ自己啓発書の多くには、「好きなことを仕事にすべきだ」というようなことが書かれていますが、著者は逆に「好きなこと」を仕事にしてはいけないと断じています。理由は、好きなことを仕事にすると嫌いになってしまうという、パラドックスのような現象が起きることが多いから。
たとえば、絵を描くのが好きな子どもは「絵を描くのが好きだから」描いている。しかし、よい絵を描いたときはほめて、下手な絵を描いたときには叱るようにすると、その子は「ほめられる絵」ばかりを描くようになる。すなわち、好きだったお絵描きが「ほめられる手段」に変わっていくわけです。仕事も同じで、クレームや怒り、降格・左遷などを意識しすぎると、「ほめてもらえる」ことを期待できるときだけしか仕事をしなくなるということです。
では、どうすればいいのか? この問いに対して著者は、「嫌いでもいいから得意なこと」を仕事にすべきだと主張しています。そして「大好きなことは、趣味にするといい」とも。いいかえれば、営業という仕事が好きでなくても、たとえ「嫌い」であっても、「得意」になることは可能だという考え方です。(34ページより)
自信のつけ方 〜メンタルスキル3.〜
よく「自信をつけるためには、成功体験を積めばいい」といわれますが、著者によれば、これは厳密にいうと正しくないのだとか。なぜなら、「失敗は努力によって克服できる」という学習体験こそが、「自信」となっていくから。だからこそ、次のような考えが成り立つといいます。
なんのチャレンジもしない人間は、当然ながら失敗をしない。失敗しないのだから、当然努力によって克服もできない。結局、チャレンジしない人は「自信」がつかない。(49ページより)
つまり自信をつけたいなら、どんどんチャレンジして失敗し、それを努力によって克服していけばいいということです。(47ページより)
やる気の出し方 〜メンタルスキル4.〜
仕事をしていると、やる気が落ち込む時期は必ずあるもの。そのため、著者はここで「やる気を出すための2つの処方箋」を紹介しているのですが、これは「普段からやる気のない人」には効果がないそうです。以前はやる気があったのに、「なにかの事情でやる気がガクンと減ってしまった人」に対して効果的だということ。
ひとつ目は、「これまでお世話になった人と、お世話になった内容」を思い出し、どんどんノートに書いていくという方法。いろんな人のお世話になってきたからこそいまの自分があるので、そういう人たちの名前が並んだノートを眺めてみれば、たくさんの人々に支えられていることを再認識でき、やる気がよみがえってくるというわけです。
もうひとつは、「過去から今日まで、自分がどんな困難を、どう工夫して乗り越えてきたか?」を、30分かけてじっくり具体的に思い出し、ノートに記していくという手段。この場合に大切なのは、「自分には、困難を乗り越える力がある」と自分自身で思い出すこと。そして、それをどんどん書き記しておくということだそうです。
つまり、「困難を乗り越える力がある」という気持ちがあるからこそ「次の困難だって乗り越えられる!」という心の炎がふたたび強く燃え上がる。著者はそう主張しています。(52ページより)
期待値のコントロール 〜メンタルスキル5.〜
どんな仕事でも、やめたくなるときはあります。そこで、やめずにがんばるために「やめたくなる心理を理解し、事前に対策を講じておく」べきだと著者。期待感を持って入社したものの、現実の自分はなかなか上昇できない。そうなると「自分への期待」と「現実の出来栄え」との間にギャップが生じ、そのギャップが「耐えられない領域」まで広がるとやめたくなるというわけです。
そして、そんなときは、「過度な期待」の部分がないかをチェックするといいそうです。「私は過度な期待をしていないか?」と自問自答した結果、過度な期待が見つかったなら、それを「適度な期待」に少しだけ修正する。一方、いままでのやり方で期待通りの結果が出ていないなら、「現実の出来栄え」を引き上げる工夫も必要。そうやって、「期待」と「現実」の両方を調整するということ。(60ページより)
軽妙で読みやすい文体の裏側に強い意志を感じさせるのは、累計3000件以上のコンサルティング実績があるからなのかもしれません。営業マンにとっては、あたかも先輩の助言を耳にしているような、心強い一冊だと思います。
(印南敦史)