『基本は誰も教えてくれない日本人のための世界のビジネスルール』(青木恵子著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者は、アメリカで大成功を収めた鉄板焼きチェーン「ベニハナ・オブ・トーキョー」のCEOを務める人物です。本書では、そんな経験に基づく考え方を披露しているわけですが、まず印象的なのは「はじめに」のなかにある次の一節です。
これから先、日本は人口がどんどん減り、市場が縮小していきます。(中略)もし日本で雇用を得られなかったり、キャリアアップがかなわなかったとしたらどうするか。そんなときは簡単です。テリトリーを外に広げればいいだけです。
日本で培った仕事のノウハウは、世界でも充分に通用するもの。つまり日本だけではなく海外もターゲットに入れると、いま以上に飛躍できるチャンスを見つけることができるということです。第2章「Work 仕事」から、いくつかを引き出してみたいと思います。
「ルール」をおぼえる
「ルール」がある場合、できる人は単純にそれを「そういうもの」として認識するのが上手だと著者はいいます。人はどうしても、自分の常識(ルール)が正しいと思ってしまいがち。しかし、「なんでこんなルールなの?」と悩んでもまったく無意味。考え方のギャップやカルチャーショックも同じで、ルールをおぼえてしまえばストレスもたまらないもの。それに子どもになったつもりで学ぶと、ルールは簡単に吸収できるそうです。
だから著者も、アメリカではアメリカ人に、中国では中国人になるようにしているのだとか。海外で日本のやり方を押しつけてもうまくいかないので、「これはおかしい」と文句をいうより、ルールをおぼえて結果を出す方が早いというわけです。
これからのビジネスパーソンに求められるのは、「郷に入ったら郷に従え」を実践できるフレキシビリティ(柔軟性)だと思います。そしていったんこれがわかってしまえば、行く先々で違うルールに従うことも、案外難しくはないものです。(54ページより)
なお相手のルールをおぼえる大切さは、日本人同士でも同じ。どんなときにも自分を優先するのではなく、相手のルールを理解し、それに乗ってしまった方がビジネスはうまくいくということです。ルールに対して(52ページより)
タブーを心得る
日本では問題ないことでも、異なる国ではタブー視されることがあるもの。特に訴訟社会のアメリカでは、不用意な発言は訴えられるため注意が必要だそうです。特に気をつけたいのは、次の3つだとか。
1.人種と宗教
まず、絶対に触れてはいけないのは「人種」と「宗教」。「どこの出身ですか?」と聞くのは問題ないものの、人種が話題になったとき、「黒人だから◯◯ですね」「ヒスパニックだから◯◯ですね」といった決めつけは絶対に避けるべき。また、相手の宗教を批判するのもご法度。戦争につながるほどセンシティブな問題なので、軽々しく口にしてはいけないということです。
2.年齢
採用の際なども、「年齢」を聞くのはタブー。また、「結婚しているかどうか」「誰と同居しているか」「家族構成」も聞くべきではないといいます。それも、差別を避けるためなのだとか。
3.性の嗜好
仕事上のつきあいで、「アー・ユー・ゲイ?」などと聞くことも禁止。「ゲイっぽい」もだめなのだそうです。日本だと気軽に「オネエ」などということばを使いますが、アメリカではそれを匂わせただけでも訴訟を覚悟する必要があるのだとか。
つまり、プライバシーに触れることは基本的にだめだということ。そのぶん、ビジネスをするときは相手のタブーを事前によく調べる必要があるといいます。自分の尺度でものごとを測っていると、とんでもないところで痛い目を見ることに。自分の常識はすべてに適用しないということです。(67ページより)
会議では必ず発言する
ミーティングでは黙っていると、参加していないと判断されるもの。本人は遠慮しているつもりでも、意思表示をしなければ、その人はそこにないも同然だそうです。そこでミーティングに出たら、次のことに気をつけるべき。
1.とにかく発言する
日本と違って、いろいろな意見が飛び交って全員が発言するのがアメリカの会議。当てられたときになにも発言しないと、「いてもいなくてもいい人=どうでもいい人」とみなされ、次からは呼ばれなくなるそうです。
どんな話題でも、いいたいことのひとつやふたつはあるもの。「意見というほどのことじゃないけれど、私はこう思う」というのもひとつの意見だという著者の主張には説得力があります。それによく聞いていると、外国人もたいした意見をいっているわけではなく、感想や思いつきをいい合っているだけだったりするそうです。
2.賛成/同意でも意思表示する
日本では、前の人の意見に賛成/同意の場合は、あえてそれを口にしません。しかし一般的には賛成なら賛成と表明しないと、「意見なし」とみなされるのだとか。「彼の意見に賛成です」「彼女の意見に同意します」も立派な意見だということ。「好きか嫌いか」をいうだけでも、黙っているよりははるかにマシだといいます。
3.どっちつかずの意見はいわない
日本人にありがちなのが、「賛成でも反対でもない」グレーゾーンの意見。ところがそれも通用しないので、黒か白かをはっきりさせるべきだとか。
4.担当外でも意見をいう
ファイナンスのことはファイナンス担当者が、マーケティングのことはマーケティング担当者が報告して終わり、というのが日本のやり方。しかし海外では、そういう会議はあり得ないといいます。なぜなら門外漢だからこそ、思ってもいないようなアイデアが出るから。ひとつの問題に対して全員が担当を超えて意見を出し合えば、会議も実りのあるものになるという考え方です。
5.出し惜しみをしない
会議では、出し惜しみをしないことも大切。自分のアイデアを全部出せば、他に人からもどんどんアイデアをもらえることに。またたくさんのアイデアを出せば、それだけ存在感も増し、さらなるアイデアも生まれるというわけです。
特に出し惜しみをしないのはエグゼクティブで、「これは自分だけのアイデアだから他の人に教えるのはやめておこう」などという中途半端な考えの人は伸びないと著者は断言しています。逆に出し惜しみせず、常に全力で問題解決に当たっていると、どんどんアイデアが膨らみ、「あの人は発想が豊かでおもしろい」と評判になることに。
たしかに日本のやり方とは違うことばかりですが、世界を相手にするためには忘れるべきでないことであるはずです。(81ページより)
他にも「人脈」「自己ブランディング」「キャリア」「コミュニケーション」「余暇」と、さまざまな角度から、世界におけるビジネスルールが解説されています。これから海外進出を考えている人にとっては特に、役立つ内容だといえるでしょう。
(印南敦史)