最強のコミュニケーション ツッコミ術』(村瀬健著、祥伝社新書)の帯にある「さあ、ツッコミを取り入れよう!」というフレーズを見たとき、「芸人じゃないんだし、仕事にツッコミを取り入れるだなんて...」と感じたのも事実です。が、「会社の社長が次のようにボケてきたら、どうツッコミを入れますか?」という問いかけから始まる「はじめに」を読んだら、妙に納得し、そして笑ってしまいました。

社長「最近のノートパソコンはどんどん薄くなっていくね」

あなた「そうですね」

社長「まるで、俺の髪の毛みたいだわ」

いかがでしょうか。おそらく、なんと返せばいいかわからず、ほとんどの人が言葉に詰まってしまうでしょう。(中略)そこで、次のツッコミを入れてみます。

「じゃ、最新ですね!」

(「はじめに」より)

ここまでシャレの効く社長がいるかどうかは別としても、たしかにこれはよいツッコミかもしれません。ただ、よいツッコミをするには才能が必要な気もするのですが、著者はツッコミに才能は不要で、努力と経験で上達が可能だと断言しています。だとしたら、そのスキルは身につけておきたいところ。「たとえ」を用いてツッコミをいれる方法を説明した第五章「最強のツッコミ・たとえツッコミの作り方」から、いくつかのポイントを引き出してみます。

パターンをおぼえる

「たとえツッコミ」は共感させることが大切。そこで、テレビ番組、映画、新聞、漫画、小説など、普段からあらゆることをインプットしておく必要があるといいます。文章を書く際の語彙力と同じで、普段の生活のなかで見たものや経験したことでないと、ツッコミとしてことばにできないわけです。

たとえツッコミは、ボキャブラリーの量が鍵。トーク番組やバラエティ番組を見て、プロの芸人がどのようにたとえツッコミを入れているかを勉強することを著者は勧めています。その際、特に意識すべきなのは、プロがたとえツッコミを入れているパターンを、次のようなテンプレートに変換しておぼえること。

「ひどいな! おまえ、しゃぶしゃぶで言うたらアクやで!」

→◯◯で言うたら◯◯やで!

「気になるわ! 靴のなかに入った小石ぐらい気になるよ!」

→◯◯ぐらい◯◯だよ!

「全然イメージと違う! イメージの高低差ありすぎて、耳キーン!ってなるわ!」

→◯◯しすぎて◯◯するわ!

(123ページより)

これらをインプットしておけば、普段の生活のなかでも次のように応用できるということです。

◯◯で言うたら◯◯やで!

手柄を横取りしようとする先輩に→「裏切らないでくださいよ、先輩! 歴史でいったら本能寺の変ですよ、これ!」

◯◯ぐらい◯◯だよ!

部下のコピーが遅いことに→「遅いよ! 雨の日の宅配ピザぐらい遅いよ!」

◯◯しすぎて◯◯するわ!

経費節約のためクーラーの電源を切った上司に→「勘弁してくださいよ、部長! 汗かきすぎて蒸発しますよ、僕ら!」

(124ページより)

実際にここまで極端なことを口にしたら確実にトラブルになりそうですが、場の雰囲気に見ながら応用すれば、似たようなアプローチも効果的なのかもしれません。(122ページより)

ツッコミのスイッチを事前に入れる

テレビ番組で芸人のたとえツッコミを目にして、「よくこんなことを思いつくよな」と感じることは少なくないものですが、それは彼らが「隙があったらたとえよう」と身構えているからだと著者は説明しています。つまり、ある程度身構えておかないと、いいツッコミはできないということ。たとえツッコミは特に難しいので、たとえツッコミで笑いをとるときは、脳のスイッチをオンにしておくことが大切。

加えて、「きょうはたとえツッコミ一本でいく」と決め打ちにした方がいいのだとか。なぜなら、その制約があることで、脳がたとえることにフォーカスされ、語彙をキャッチしやすくなるからだといいます。(126ページより)

たとえるジャンルをひとつに絞る

現実的に、世のなかのあらゆることから瞬時にたとえを見つけ出すことは困難。そこで難易度を下げるために、たとえジャンルをひとつに絞るといいそうです。多くの人が共感できるカテゴリーをひとつに決め打ちし、そのなかから見つけるようにするということ。

著者のオススメのひとつが、食べものの話題。人は毎日食事をしているので、共感を引き出しやすいということです。ここで紹介されているのが、フットボールアワー・後藤氏の例。

◯キーワード:煮詰めるのが足りていない

「おまえ、ようそんなギャグ出せたな! おでんみたいにもっと煮込んでから人前に出せよ!」

◯キーワード:歯ごたえがない

「おまえ、ようそんなギャグ出せたな! おかゆでも、もうちょっと歯ごたえあるぞ!」

◯キーワード:中身がない

「おまえ、ようそんなギャグ出せたな! ピーマンより中身スカスカやぞ!」

(132ページより)

お笑いの才能とは「つくる能力」のこと。対してお笑いのセンスとは、なにがおもしろいのかを「選ぶ能力」だと著者。才能はどうにもならないものですが、センスは磨けば光るもの。だからこそ、ジャンルをひとつに絞る制約を課し、ことばを選ぶ作業にまで落とし込めれば大丈夫。そのセンスも後天的に伸ばすことができ、並行してインプットを行えば必ず力がつくそうです。(131ページより)

✳︎

著者は、放送作家・漫才作家として2000組もの芸人を指導してきた実績を持つ人物。本書には、そんな経験に裏打ちされたツッコミのスキルが凝縮されているわけです。前述したとおり現実のビジネスシーンで応用するにはリスクが多すぎるものもなかにはありますが、要は「使い方」なのではないでしょうか?

(印南敦史)