こんにちは、ウォンテッドリー株式会社の平野です。「より良い働き方(=ココロオドル働き方)」をしている企業を取材する本連載も、5回目を迎えました。

この度、お伺いしたのは、「フィットする暮らし、つくろう」をビジョンに掲げ、ECサイト「北欧、暮らしの道具店」を運営している株式会社クラシコム(以下、クラシコム)です。

暮らしを支える道具を扱う、人気のECサイト

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「北欧、暮らしの道具店」は、北欧の暮らし方や働き方に魅せられた兄妹2人が2007年9月にスタートしたECサイト。北欧発のプロダクトをはじめ、日本を含むその他さまざまな国の暮らしを支える道具たちを取り扱っています。

また、商品の販売だけではなく、「朝ごはん特集」や「料理家さんの定番レシピ」、「スタッフの愛用品」などの読みものコンテンツの更新、リトルプレス「暮らしノオト」を発刊、オリジナルジャムの製造・販売と、ECサイトの枠に留まらない活動が注目されています。サイトの月間PVは約1000万、Facebookページ「いいね!」約29万、Instagramのフォロワー約12万人と、ひとつのメディアとしても人気を得ています。

「18時全員退社」のワークスタイル、5つのポイント

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今回は、クラシコム代表取締役の青木耕平さん、取締役の佐藤友子さんにお話を伺いました。

彼らが北欧に関するECサイトを始めたきっかけは、佐藤さんが北欧旅行をしたときのことでした。当時、インテリアコーディネーターとして仕事をしていた佐藤さんは、興味をもっていた北欧デザインを直に体感。シンプルながら奥深い北欧デザインに一層関心を持ったのだそう。佐藤さんは「北欧には、もともと自分が潜在的に好きだったスタイルや暮らし方に原点回帰させてくれるような魅力がある」と言います。

青木さんは「北欧は自然が厳しく、日本は社会が厳しい。だからこそ、北欧の人たちが厳しい自然の中でも機嫌良く生きてきたことは、日本のストレスフルな社会で生き残っていくために援用できる考え方だし、家で感じたいことも似てきているから、スタイルとして受け入れられるのかな」と笑顔を見せます。

その後、青木さんと2人で訪欧して雑貨の買い付けを行い、それらの販売先を考えていたときに、「オークションでもなく、骨董市でもなく、その後に何か資産として残るようなことがいいのでは」と、行き着いたのがECサイトでした。そうして始まったクラシコムでは、必ず心がけていることがあります。それは「18時に帰る」こと。それでも、創業以来、毎期160%ほどの成長を続けているといいます。

他にも働き方に関して伺っていくと、どうやら「クラシコム式のワークスタイル」があるように感じました。今回は、そのエッセンスをみなさんにお伝えできればと思います。

そもそも、どうして18時に帰れるの?

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クラシコム代表取締役 青木耕平さん

とても長いのが印象的な、クラシコムの「人材採用」プロセスのページにも書かれている「僕たちは全ての職種において基本的に勤務時間外に残業することはありません」といった言葉。クラシコムの勤務時間は9時から18時までだそう。いまのクラシコムの働き方は、会社をはじめる際の「出発点」と、その後の「運用」で形作られています。

青木:この業態として、クラシコムは女性中心の会社になることは見えていました。パートナーである佐藤は僕の実妹ですが、当時彼女も結婚していて、僕にも妻がいて子どももいた。その状況の中で、佐藤にも数年以内に子どもができ、産休をとったり、子育てと仕事を両立させながら働いたりする可能性があることはあらかじめわかっていたんです。なので、自分たちの給料が取れるより前に人を雇って組織作りに取り組み、佐藤に限らず社内の誰かが産休に入ったり、子育てをしながら仕事をしたりすることになってもサポートしうるチームと仕組みをつくることを、最初の一歩目からやってきました。

そして、大事なのは、ときどきではなく、絶対に18時で帰ることだと言います。そのためには「他社の支配を受けない」という前提条件があるそう。たとえば、自分たちにとって大きなクライアントから17時ごろに電話があり、「明日までに見積もりをください」といわれたら対応せざるを得ません。

青木:ビジネスのスタイルとして、BtoBで、少数の大きな案件を抱えながら18時で帰るには相当のブランド力が必要になります。当初、そういうブランド力を持ち合わせていなかった僕らは、まずBtoCで基盤をつくることだけに集中しました。自由が効くところで十分な収益をとりきるところまでいく。そのあとで、僕たちの働き方にご理解頂けるクライアントとだけBtoBをやるという順序で取り組む必要がありました。そこの基盤が脆弱なまま、BtoBにいこうとすると死活問題になって、結果的には思い描く働き方の実現は難しかったと思います。

では、どのようにクラシコムは基盤をつくり、収益を上げていったのか。そのための思想やルールを、以下5つのポイントに分けて紹介します。

クラシコム式ワークスタイルを推進する、5つのポイント

1.本当に必要なの?と考える

2.仕事を詰めすぎない

3.エラーには寛容に

4.お互いに影響を与え合う

5.自由・平和・希望の土壌を整える

1.本当に必要なの?と考える

青木:最初に考えるべきなのは、「それ、本当に必要なの?」なんです。時間が限られているので、そもそもやらなくても成立する方法があるのかどうかをまず考えています。

青木さんは「ECRS」というフレームワークを用いて説明してくれました。最初に考えることは「排除(Eliminate)=そもそもやらなくてもいいのでは?」。次に、「統合(Combine)=この業務とあの業務を一緒にやればいいのでは?」。その次に、「順序の変更(Rearrange)」を行い、それでもこれまでの方法で解決できないときだけ、業務の合理化や効率化を図る「単純化(Simplify)」をするという流れです。

青木:なにか成果が上がっていない業務があると「どう効率化するか?」から検討することが多いのですが、最初に考えるべきなのは、検討の対象となっている効率が上がっていない仕事をそもそも「なくしてしまえないか?」と考えることです

仕事を担当している個々にとっては、やめたら成立しないと思っているような仕事でも、時間が経つうちに重要性が下がっていたり、そもそも別の部署の人がよく似た仕事をしているからどちらかはやめてよかったりといったことがたくさんあります。なので「この仕事はそもそもやめられないの?」から問い始めることはとても重要です。なぜなら「やめていい仕事」を「効率化(単純化)」するのに取り組むことほど無駄な仕事はないからです。

北欧の企業や、ビジネスパーソンの考え方として、この「そもそも」を問い直す力があるのは、個人的には1つの特徴だと感じています。北欧へ旅行すると、誰もが知っているようなグローバル企業のビルが19時には真っ暗になっているようなことがあるわけです。北欧について日本に帰ってきていろいろ調べてみると、1人あたりのGDPは日本よりもはるかに高い。そういう成果は彼らが僕ら以上に優秀だからというよりは、少ない人口でも大きな成果が出せるように「やらなくていいことをとことんやらない」という姿勢や取り組み方によるものであると感じます。

2.仕事を詰めすぎない

「18時に帰るためにみんな業務を詰め込んで、ひとりあたりの稼働率を極限まで高めてしまうと、かえって全体の生産性を低くしてしまう」

そう話す青木さんは、続いて一見矛盾するような発言の真意を説明してくれました。

青木:仕事量は常に一定ではありませんから、稼働率の標準を高く設定しすぎてしまうと、何らかの理由で業務量が一時的に多くなった時に現場がオーバーフローしてしまう。そうすると仕事は進まなくなり、お客様にはご迷惑をかけ、たくさん残業しなくてはいけなくなっているのに見合った成果が出ないということがよく起こります。

なので、稼働率を低めに、一定の利益が確保できる範囲で設定しておけば、突発的な業務量の増加に対しても十分なバッファが取られているわけですから、慌てず騒がず対応することができます。

僕らのように限られた時間で仕事をしなければいけない組織にとっては、個々の稼働率を極限まで高めるより、どんな時も計算できるアウトプットを出し続けてもらうことの方が重要です。

稼働率を低めに想定している分、通常の業務量で安定している時期には担当者に余分な時間が生まれるので、それぞれの力量にあわせて大小様々な部門横断的プロジェクトに参加してもらい、クリエイティビティを育んだり、新しい企画を練ったりといったことに時間を使ってもらいます。たとえば、メイン業務がカスタマーサービスでも本の制作プロジェクトに関わることもあるので、そのための時間に充てる。逆に繁忙期ではそのバッファの時間を棚上げして、お客様対応にすべての時間を割くことで、急なお話にも18時までに対応できる余裕を持つことができるのです。

3.お互いに影響を与え合う

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クラシコム取締役 佐藤友子さん
佐藤さんは「北欧、暮らしの道具店」の"店長"も務めている

「18時になったら帰る」。この言葉を聞いたときに最初に思ったことは、終わりの時間が明確に決まっていることで、社員間のコミュニケーションが希薄になってしまうのではということ。実際、どのようにしてメンバー間でコミュニケーションをとっているのか聞いてみました。

佐藤:FacebookやInstagramでスタッフ同士つながっているので、アップロードしている料理やお花の写真、出かけた場所や観に行った映画についての投稿などをきっかけに、あちこちで突発的に会話が生まれて盛り上がることが多いですね。

私たちの仕事は、こういう言い方はおこがましいかもしれませんが、商品や暮らし方、文章を通じて、「人に影響を与える」仕事をしているわけです。だからこそ、私たちは「一番影響を受ける人」でないといけないのだとスタッフによく伝えています。自分がどういうことに惹かれるのか、どういうときについ行動に移してしまうのかを振り返ってみると、そのままコンテンツとして使えることも多いんです。

普段の生活を発信して影響を与え合うことは、スタッフ間で互いの「人となり」を理解し合うコミュニケーション手段になっているのはもちろんのこと、仕事にも役立つエッセンスがたくさん隠れているように思います。

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今回訪問した中で印象的だった場所が、オフィスの真ん中にある大きなキッチン。料理家のフルタヨウコさんが腕をふるって「社食」を実施したり、スタッフがお昼ご飯をつくるために使ったり、商品の写真撮影をしたりと、さまざまな用途で役立っているのだそう。

佐藤:先日は、私が外でランチをして帰ってきたら、サンマを焼いたであろう匂いがすごくて(笑)。社食がない日もキッチンでつくって食べながら話ができるスペースがあることで、同時にコミュニケーションの場としても機能してくれています。

4.エラーには寛容に

新しい企画やコンテンツを作成する途中で発生する、思わぬエラーやスケジュールミス。エラーが起きれば、修正のために時間が必要になります。この点について、青木さんは「ある程度までのエラーを許す」と考えているそう。

青木:人間は思わぬエラーを起こしてしまう生き物なので、何%のエラーまで許すのかを決める必要があります。たとえば、一次チェックでAというミスが起きたときに、二重チェックをする手間をかけることでどのくらい効果があるのかを試算するんです。もし1.0%のエラー率を0.5%に下げるためにチェックを重ねたとしても、その仕事を増やすのに値するリターンなのかを考えなければなりません。人手をかけてチェックすることは、コストがかかっているということを理解しないといけません。それではじめて、仕事の適正量がわかるんです。

オフィスあるあるとしては、過剰に「気をつけろ」って言うんです。でも、人間は気をつけられない生き物ですから、気をつけるための「仕組み」がいるわけです。気をつけていなくても、気をつけたことにならないといけない。でも、あれもこれもって気をつけていたら、仕事なんかできないですよね。みんなが視野を狭めて、集中して課題に取り組めるから、いいんです。気をつけなくてもできるように仕事を編み上げないといけない。それが「経営」だと僕は思っています。

クラシコムの仕事の進め方について、佐藤さんは次のように語ります。

佐藤:私たちには、会社の中で工数を管理する仕組みがほとんどありません。事前チェックはチームのマネージャーに任せているので、私自身はほとんどの記事を掲載後に確認しています。事後に読んだうえで言葉遣いや構成のダメ出しをすることもありますが、自分も一読者の視点で見られるので、心に響いたことや良かった部分についてもキチンと共有するようにしています。

エラーが起こってしまうことは仕方ありません。ただ、仕方ないで終わるのではなく、どうしてエラーが起きてしまったのかを現場で問うようにしています。上司の見積もりが間違えていたのか、不測の事態で担当者が対応できなかったのか。同じエラーを繰り返さず、次に活かすためにひとつひとつ確認しています。

また、エラーに対する寛容さについて、青木さんがおっしゃったことが印象的でした。青木さん曰く、「うまくやる」ためには「うまくいった」経験をすることが必要で、エラーを怖がっていては「うまくいく」きっかけを逃してしまう。だからこそ、エラーを許容することで「うまくいった」チャンスが増える。それが「うまくやる」余裕を生み、新しい「うまくいった」が生まれ、どんどん地盤が盤石なものになる。それこそ、いい循環が起こる仕組みなのだそうです。

5.自由・平和・希望の土壌を整える

クラシコムが掲げる「フィットする暮らし、つくろう」というビジョン。これを支えるものとして、青木さんは前述の前提条件にもつながる、「自由・平和・希望」の3つを挙げます。

青木:「自由」は、他社に支配されずに自分たちでやりたいことをやれる土壌をつくること。「平和」は、価格競争などの参加したくない競争に引きずり込まれないこと。「希望」は、今日より明日、明日よりも来年というように、未来が今より良くなっていることを予期して、今日を過ごすための裏付けを生む力のことです。

たとえば、「大きなクライアントに依存している状態」や「ビルのディベロッパーからのテナント出店の誘い」は、営業日や営業時間が相手方のレギュレーションに縛られてしまうので、「自由」の観点から断ります。「今は儲かるけれど、来年うまくいくかどうかわからないビジネス」は、「希望」に抵触するから手を出さない。他社がどんな分野で競争を仕掛けてこようと「自分たちが満たしたい顧客満足の本質とは違う」と思ったら、「平和」を犯して同じ土俵で競争に応じようとは思いません。

もちろん、「今期は何億円の売り上げを達成した」というのも指標として持っています。しかし、より重要な自分たちの成果を測る指標は「自由・平和・希望」という3つの観点から僕らの会社がどのレベルにあるのか、前進しているのか、後退しているのかということだと考えています。

そのためにはどのような方法論を持つことが大事なのでしょうか。青木さんは、ビジネスのインパクトを生むための戦略を、野球に喩えて説明します。

青木:ビジネスも野球と同じです。一打のホームランを狙うのではなく、事業のすべてのベクトルをひとつの方向に合わせ、「ヒットを連続して打つことだけ」を目標にするのです。そうすれば、ホームランを打たなくても、何点でも点が入るんです。しかし、どこかで一発逆転を狙ってしまうと、年俸の高い外国人選手や規模の大きい球場、選手たちの訓練施設が必要になってくるわけです。

もののけ姫の「タタラ場」こそが理想の姿

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今回お話いただいた言葉の節々には、「生きること」や「暮らすこと」を商品やコンテンツにしている働き方の土台には、一見ふんわりとした印象を持つ雑貨店の想像を遙かに超える、考えに考えて練られた「最初から変えないアイデアやルール」が存在していました。

最後に伺いました。青木さんはどんな会社をつくりたいと考えているのでしょうか。

青木:僕の理想は、もののけ姫の「タタラ場」です。あそこで描かれているのは、室町時代末期の応仁の乱などがあった頃に、里から逃げてきた農民が山の上に集まって、技術力と経済力を背景に自治を獲得していくという姿です。それが独裁的、経済的な機構を持った上でキチンと運営されている。まさに会社そのものじゃないですか。すごい人が集まっているわけでもないし、女の人や子どももいる。それでも、みんなが技術力で貢献している。なんだか、日本の会社のあるべき姿のひとつを指し示しているような気がしています。

部族や宗教などの「帰属できるコミュニティ」が日本では崩壊しているので、イデオロギー的ではなく、「土着的なもので器になり得るもの」は何かというと、会社しかないわけです。だからこそ、一定の自衛力を獲得し、自分たちで資本を貯めて、その「器」を作っていくことが素晴らしいなと思っています。僕にとって会社というのは、デザインした一個のプロダクトですからね。

いかがでしょうか。クラシコムの取り組みから見える「平和・自由・希望のある働き方」、あなたのチームにも今日から少しずつ取り入れてみませんか。それでは、次回もお楽しみに!

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(文・平野太一/Wantedly 写真・長谷川賢人)