あたたかな季節の到来は散歩気分を盛り上げてくれます。下町散歩ブームのきっかけとなった「谷根千エリア」は、谷中・根津・千駄木周辺の古き良き日本の伝統が残る地域。この街では、生活する人々から直接話を聞くことで、その魅力をより深く知ることができます。普段の生活では何でもすぐにスマホで検索する癖がついているのですが、今回はあえて、スマホを置いて出かけることにしました。自分の足で好きなものを探し、街の人々とのコニュニケーションを大切にすることで、新しい発見が得られるのではないかな、と感じたからです。

そして、街と積極的に向き合うために、FUJIFILMから新しく発売されたプレミアムコンパクトデジタルカメラ「FUJIFILM X30」を持って行くことにしました。「FUJIFILM X30」はクラシックなボディにハイクオリティな機能を搭載し、さらに快適な操作を追求しているため、こだわりのある写真を楽しみながら撮るのに最適なカメラです。実際に使ってみた感想は、出会った人から教えてもらった街の魅力を、機能を駆使して写真に残すことで散歩がより楽しくなること。

普段デジタル機器に囲まれた生活を送っている方は、スマホを置いて出かけることで、いつもとは違う特別な時間が過ごせると思うので、ぜひ試してみてください。

旅の始まりは、情緒溢れる「カヤバ珈琲」から

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カヤバ珈琲のレトロな外観。撮影日は平日にも関わらずオープンとともにお客さんで賑わっていた。

カメラ片手に週末散歩をするにあたって、まず簡単なのが、歴史を感じる建物とおいしい食べ物を探すことです。そこに街の情報に詳しい人がいれば、その日の散歩はより楽しいものになるはず。この日は、民家を改修して作られた横尾忠則の美術館「豊島横尾館」を手がけたことで知られる建築家の永山祐子さんがリノベーションした「カヤバ珈琲」からスタートしました。

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カヤバ珈琲の2階に座る筆者。ちゃぶ台の下がガラスになっていて、一階の景色を見ることができる。

大正5年に建てられたこの建物で喫茶店が始まったのは昭和13年のこと。その後70年近く地元の人々に愛されてきたこの店は店主がこの世を去り、一度は閉店したのですが、アートギャラリー「SCAI THE BATHHOUSE」と「NPO法人たいとう歴史都市研究会」の協力によって、2009年に永山さんのリノベーションで生まれ変わりました。

一階は古き良き喫茶店という雰囲気を残し、ニ階は畳の和室を解放したゆったりとくつろげる空間です。

リノベーション建築を撮るときに大切なのは、何を残して、何を刷新したかを見つけることです。カヤバ珈琲の2階は、木造建築の良さである柱と窓枠などを残し、時代を感じさせるちゃぶ台がレイアウトされています。そして畳0.5畳分がガラスになっていて、1階の様子や、1階と2階の間にある柱を見ることができるようになっています。こっそり一階の様子を眺められる仕組みにうきうきしながら、その場所の魅力を残しながら、ちょっとした遊び心で来る人を楽しませてくれる点が、永山祐子さんらしいデザインだと感じました。

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(左)抹茶ラテ。(右)お茶付きのあんみつ。料理を撮るときは真上から撮る「真俯瞰」のアングルだと料理写真を並べたときに統一感が出て、斜め上から撮ると立体感が出て料理の良さを伝えやすい。「FUJIFILM X30」は、約0.5秒の高速起動が可能。おいしそうな料理のできたてのシーンを撮るにも便利。

店内では、エスプレッソマシンを導入して本格的な珈琲を提供するとともに、あんみつや抹茶ラテなど、「和」を感じるメニューが揃っていました。店長の村上さんは、「地元の人たちを大切にしながら、近くにある東京芸大の学生や、外国人観光客にも開かれた場所にしたい」のだと言います。

メニューひとつにも、そこに関わる人の想いが込められている。スマホで人気メニューを検索するのではなく、その想いに気付くことが、旅を豊かにするコツなのだなと感じました。スマホ・デトックスは、ちょっとしたことに気付く、ゆとりを与えてくれるのだと思います。

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「FUJIFILM X30」の特徴は、様々な機能をスピーディに使える手軽さと、このクラシックなデザイン。マグネシウムのボディと金属削り出しのダイヤル類、レンズ鏡筒と、武骨な印象がユーザーの心を惹きつけてくれる。

村上さんに近隣のおすすめスポットを聞くと、「珈琲を飲んだ後はアートや、地域の人との交流も楽しんで欲しい」と、200年の歴史を持つ由緒ある銭湯「柏湯」を改装してオープンしたアートギャラリー「SCAI THE BATHHOUSE」と、3月14日にオープンしたばかりのコミュニティ複合スペース「上野桜木あたり」を紹介してくれました。

「上野桜木あたり」は、雑貨、谷中ビール、オリーブ、パンなどを扱う店が集まっています。このページでも紹介したいと思ったのですが、地域に住む人を大切にゆっくりと広めたいからと、今回は撮影できませんでした。でも、そうやって街とそこに住む人々を大切にするスタイルだからこそ、谷根千エリアは文化と共存できるのだと勉強になりました。どちらも素晴らしいスポットなので、ぜひ、訪れてみてください。

職人の手による日用品「荒物」を、現代に伝える松野屋

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日本と世界の生活の道具を販売するお店「松野屋」の代表、松野弘さん。

続いて訪れたのは、職人の手によって作られた「暮らしの道具」を販売するお店「谷中松野屋」。軒先には、自然素材で編まれたかごや、アルミの掃除道具などが立体的にレイアウトされていて、古くからあるいいものを、時代を越えて伝えようとするお店の考えが伝わってきます。

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松野屋では、商品が立体的にディスプレイされていて、どこを撮ってもフォトジェニック。撮影したいときはスタッフの方に一声かけて、ほかのお客さんの邪魔にならないようにしてくださいね。

店主である松野弘さんは3代続くカバンの卸問屋に生まれ、若き日には京都の老舗の帆布カバン店で学んだ経歴の持ち主。帰京してからはご自身で手掛けたカバンを販売するとともに、職人が手掛けた暮らしの道具「荒物」をセレクトして卸していたそうです。現在は日本だけでなく世界の職人が手掛ける道具たちが店内に並んでいます。近年では、なんとパリの見本市、メゾン・エ・オブジェにも出店し、海外からも高い評価を得ています。松野屋のアイテムは、日本に住む私たちこそ、その魅力を再確認する価値のあるものです。

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(左)自然素材のかごや、味噌こしなど、伝統的な生活の道具たち。(右)学校の給食を思い出す、アルミの食器。赤い蓋のやかんは、世界のインテリアや雑貨が集まるパリの見本市メゾン・エ・オブジェでも人気だったアイテム。

「昔の荒物雑貨は頑丈で使い勝手が良くて、手に届く値段のものが長年愛されていました。それを現代に広めたいと思ったのが、この店を始めた理由です。いまでは、日本だけでなく海外のセレクトショップからも仕入れたいという声が多くて、日本も欧米もいいものの価値観は変わらなくなってきたと感じています」

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(左)ライトやかごなどが、壁にかけられた内観のディスプレイ。(右)以前は本屋だったことがわかる当時の看板。「FUJIFILM X30」は高感度性能と高度なノイズ低減処理によって、光の少ない室内でもざらつきの少ない鮮明な画像を撮ることができるのが魅力。

松野屋の建物も大正建築をリノベーションしたもので、元々は書店と碁会所(囲碁を有料で打つ場所)が入っていたそうです。「入り口を入ってすぐに上を見てごらん。当時の看板がかかっているでしょ?」。改装当時の話を聞いていたら、松野さんが嬉しそうに教えてくれました。伝統ある商品を今に伝えるとともに、当時の風景も大切に残したい。そんな松野さんの想いが見えない場所にも隠されていて、僕自身も嬉しくなりました。

いつもお世話になっている「google先生」もいいけれど、人生の大先輩から直接学べることこそ、谷根千散歩の魅力です。いつか子供ができたら、松野さんの話を一緒に聞くことで、その文化を子供にも伝えてあげたいなと感じました。

スイーツを食べ歩くのも、谷根千散歩の醍醐味

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谷中満天ドーナツの店長、岩本さん。人気の種類はメープルとかぼちゃのドーナツで、しっとりとした食感を楽しんでみてください。

「谷中松野屋」を出て、「夕焼けだんだん」と呼ばれる階段をくだると、スイーツの店や揚げ物屋、カフェなどが集まる「谷中銀座商店街」があります。昭和20年頃に自然発生的に生まれた商店街は、いまでは昔ながらの個人商店と新しいお店が共存していて観光客と地域の人々で賑わっています。

谷中銀座の楽しみ方は、気になるものを物色しながら食べ歩くこと。この日はメンチカツをほおばった後で、「谷中満天ドーナツ」に向かいました。すべて店内で作っている焼きドーナツは、油を使わないライトな味わいが人気です。また、この日は、ネーミングに引かれて、「飲むかりんとう」を頼んでみました。

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谷中満天ドーナツの「飲むかりんとう」とメープルのドーナツ。「FUJIFILM X30」はズームリングを回すとスイッチが入る仕様になっている。コントロールリング操作ひとつで絞りやシャッタースピードを変更することができる。

アイスや生クリームなど、時間が経つとカタチが崩れてしまう食べ物は、素早く撮影したいもの。「FUJIFILM X30」は、ズームリングを回すとスイッチが入る仕組みになっていて、起動が早いのが魅力です。露出もシャッタースピードも操作リングひとつで簡単に変えられるため、「きれいな写真を撮って、ご飯もおいしいうちに食べる」、欲張りなスタイルを実現してくれる点がいいなと感じました。

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(左)台東区を走るワンコインバス、めぐりん。(右)谷中銀座の細い路地で、通行人の邪魔にならないように写真をチェック。

谷根千エリアには、レトロな100円バス「東西めぐりん」も走っていて、改めてフォトジェニックな街だと感じました。しかも、めぐりんの運転手がとても粋な方で、バスが赤信号で止まるときに、道を挟んたお店の撮影をしていたら、写真のアングルに入らないポイントで停車してくれました。そんな粋な心遣いが嬉しくて頭を下げてからカメラを向けると、運転手の方がピースサインで応えてくれました。観光客や写真を撮る人を快く受け入れてくれる谷根千エリアの素晴らしさを肌で感じるとともに、こちらも写真を撮る際には一言、許可を取ってからカメラを向ける心遣いを忘れないようにしたいと思いました。

散歩エリアを広げてくれる「tokyobike gallery 谷中」のレンタルサイクル

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「tokyobike gallery 谷中」の古風な入り口。写真はモノクロで撮影。

谷根千から少し足を伸ばせば、上野、浅草まで行けるので、レンタルサイクルも行っている「tokyobike gallery 谷中」にも訪れてみました。谷中で300年以上つづく酒屋「伊勢五本店」で使われていた築80年の木造日本家屋をリノベーションした建物は、建築当時は釘や金物を使わずに建てられたそうです。入り口にかかっている球体は、杉玉(または酒林)と呼ばれるもので、酒蔵や酒屋さんの軒下に「今年も新酒が始まりました」という合図として吊されるもの。tokyobikeのチームが吊るしたというこの杉玉からは「伊勢五本店」へのリスペクトが伝わってきます。

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(左上)「tokyobike gallery 谷中」の壁にはカラフルなフレームがかかっている。(右上)海外から輸入しているという、オレンジの動物が口を開いた自転車用ライト。スーパーマクロモードを使って近接撮影(1cm)することで迫力を出した。(左下)何でも親切に教えてくれる店長の橋本さん。(右下)ギアが重なってベルが鳴る仕組みがわかる、スケルトンの自転車用ベル。

「tokyobike gallery 谷中」には、カラフルな自転車フレームや、ユーモアのあるライトなど、都会の自転車生活を楽しむアイテムが揃っていました。カラーバリエーションのあるアイテムは並べて撮ると画になりやすいのと、小さくて個性的なアイテムは、マクロモードにして接写で撮ると迫力のある写真になるので、楽しいと思いますよ。

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tokyobikeの谷中店でレンタルできるのは、ゆったりとした乗り心地が特徴のTOKYOBIKE BISOU 26。道が細く、入り組んでいる谷根千エリアを自転車で動くときは、歩行やお店の邪魔にならないようにすることがルール。

店長の橋本さんに自転車でのおすすめルートを聞くと、「tokyobike gallery 谷中」の近くにあるヒマラヤ杉を見て、その向いにある「みかどパン」でパンを買ってから谷根千エリアを周遊したり、1日あれば、浅草やスカイツリーまで足を伸ばすのも人気のルートだそうです。営業時間内であればいくら乗っても1000円という料金形態は、きっと、お客さんに、街と自転車の魅力を知って欲しいから。建物だけでなく、江戸の日本を感じる「粋な心意気」が残っているのも、「tokyobike gallery 谷中」の魅力だと感じました。

世界の旅人と出会えるゲストハウス&バー「toco.」

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「toco.」のバースペース。お洒落な空間では自然と会話も弾みそう。

谷根千に訪れる外国の方とのコミュニケーションに興味がある方には、ゲストハウスとバーが併設されている入谷にある「toco.」がおすすめです。「常(とこ)」と寝る場所を示す「床(とこ)」という両方の意味をとり、「常(つね)に在る」という思いを込めて名付けられたこのゲストハウスには、世界中から旅人が集まります。運営しているBackpackers' Japan統括マネージャーの宮嶌智子さんは、世界中のゲストハウスに泊まった経験をもとに、ゲストが安心して滞在できる場所を目指しています。

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古民家をリノベーションしたゲストハウスは、滞在者の約8割が外国のお客さんという国際派スポット。写真はフィルムライクな深みのある色合いが表現できる「クラシッククローム」で撮影。

このエリアは特に、ゆったりした生活感のあるエリアで、スタッフも「生活する」ように働いているのが印象的でした。ほぼ毎日満室という人気ぶりのため予約が必要ですが、19時から開店するバーには自由に入ることができます。

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「FUJIFILM X30」では、3つのフィルムシュミレーションで同時に撮影することも可能。左からスタンダード、ビビッド、モノクロのモードを選択。

バーでは外国からのゲストはもちろん、地元の人も利用していて、毎晩、「どこの国から来たの?」とコミュニケーションが生まれ、他の店に連れ立っていくということもあるそうです。1泊することで時間をかけて谷根千の街を見たり、バーで海外の方と街について語り合うことで、また新たな発見があると思いますよ。

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クラシックなカメラデザインは、撮られる側の気分も盛り上げてくれる。

FUJIFILM X30」とともに1日かけて谷根千の街を歩いてみて感じたのは、カメラというツールを持つことで、被写体を探して行動し、その被写体のことを理解するために自分なりに考え、積極的に地元の人との会話を楽しむようになること。それによって、スマホ検索では出てこない歴史や背景を知ることができるのが嬉しかったです。

また、ファインダーを覗くことで、被写体である相手と丁寧なコミュニケーションができるのも魅力的でした。ファインダーを覗く行為は、相手と「真摯に向き合う」気持ちが伝わるなと感じました。また、「現実世界の一瞬を切り取る」という写真の楽しさを味わう原点だと思います。

今回あえてスマホを置いてみて感じたのは、カメラだけを持ち歩くことで得られる自由さや気軽さです。確かにスマホは便利ですが、目の前のものから集中力を途切れさせてしまうものでもあります。スマホがないからこそ、小さなことに気づき、小さなことに疑問を抱き、小さなアイデアでもやってみようと思える。とても単純に見えて、旅を豊かにする重要なポイントだと思いました。

みなさんも、カメラだけを持って普段気づかないことに気づく、特別な旅へ出かけてみませんか? きっと、新しい学びがあるはずですよ。

FUJIFILM X30|富士フイルム

(文/市來孝人 写真/大崎えりや 文・構成/松尾仁、大嶋拓人)