こんにちは。「福岡移住計画ラジオ」DJの市來孝人です。このラジオ番組では「福岡に実際に移住した人」「福岡に移住して一緒に働きたくなるような、地元の面白い人」というコンセプトでゲストをお迎えし、福岡・天神にスタジオを構える「COMI×TEN」より第1・第3日曜日の16時よりお届けしています。前回、ライフハッカーの記事で「アメリカ西海岸のようなスタイルで、福岡で働く人々」というテーマで、海辺エリア「糸島」のことをご紹介させていただきましたが、今回は、福岡市街地での仕事・生活について、ラジオにご出演頂いた方々の言葉を紡ぎながら、ご紹介していきます。

行政とクリエイターが協力して、未来の街作りを目指す。

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私、市來(右)とラジオ出演頂いた山下龍二郎さん(右)。

本番前の一コマ。番組が日曜日なので、私服でお越しいただきました。

福岡に移住して働きたい人々をサポートする「福岡移住計画」については、前回の記事でご紹介しましたが、そのメイン活動の1つに、福岡市主催の「ぼくらの福岡クリエイティブキャンプ」への参画があります。福岡市内のクリエイティブ企業と、福岡で働きたい人をマッチングするこの取り組みでは、2カ月間、「トライアルワーク」としてキャンプ事務局から給与を受けるカタチで、福岡市内の企業で働くことができます。現在、募集は終了しましたが、3月1日に福岡をはじめ、全国に移住して活躍する人々が集まる「地方移住クリエイターサミット2015 in Tokyo」が開催予定なので、興味のある方は、まずこちらに足を運んでみてください。また、Ustreamでの配信も予定しています。

福岡のベンチマークはシアトル。優秀な人材を育てる教育機関が強み

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移住者による体験談もじっくり聞くことのできる、「ぼくらの福岡クリエイティブキャンプ」説明会。

「ぼくらの福岡クリエイティブキャンプ」をはじめ、福岡市に進出する企業の誘致を担当しているのが、福岡市の「企業誘致課」で働く、山下龍二郎さんです。企業誘致課では企業の業種別に担当を分けていて、山下さんは、福岡の強みである分野、ITやデジタルコンテンツをはじめとする、いわゆるクリエイティブ関連の企業を担当しています。それらの分野の企業は、どんな点に魅力を感じて福岡に拠点を置いているのでしょうか。

山下さん:IT、デジタルコンテンツなど、いわゆるクリエイティブ業界は今急成長している分野でもあるので、東京だけでは優秀な人材を確保しきれないという悩みをお持ちの企業様が多いです。そのため、福岡に拠点を設置し、福岡で優秀な人材を確保して、今後の事業拡大につなげたいという声が多いですね。その背景には、福岡には大学や専門学校などの教育機関が多く、将来、IT、コンテンツ分野で活躍する可能性の高い人材を多く輩出できる点、また既にIT、コンテンツ関連企業が集積していて産学官が連携してクリエイティブ産業を盛り上げているという点が魅力なのだと思います。

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ラジオでのゲストの方々も口を揃えてその近さを絶賛。

市街地に近い福岡空港(提供:福岡市 ※トップ画像含む)

また、アジア諸国に近接している点も、福岡の魅力の1つだと、山下さんは続けます。

山下さん:福岡には、海外展開を重要視する企業様も多いですね。福岡の土地の利としては、上海と東京の中間にあって、どちらに行くにも飛行機で約一時間半。アジアも日本国内もカバーできるという点で期待が高まっているのだと感じます。そのため、福岡市としては、"アジアのゲートウェイ"を目指すという目標を掲げています。

前回の記事では、福岡が、アメリカ西海岸に近い空気感を持っていると紹介しましたが、福岡市としても、アメリカ西海岸の北部・ワシントン州にある都市、シアトルをベンチマークにしているそうです。

山下さん:福岡市は、政府が進めている国家戦略特区に選定されています。国家戦略特区には、都市によってテーマがあり、福岡市は「グローバル創業・雇用創出特区」。世界一起業しやすい、チャレンジしやすい街を目指しています。そのベンチマーク、お手本として考えているのがシアトルです。シアトルは一定規模の市街地がコンパクトにまとまっていて、近くに海と山があるため、環境もいい。そして、優秀な教育機関、優秀な人材が街を支えている点が、福岡と似ているんですよね。シアトルにはマイクロソフトやアマゾンをはじめ、世界的な企業が数多くあるので、我々もそんな街を目指しています。あえてベンチマークを「シアトル」と言っているのは、「ニューヨーク、東京を目指すわけではない」というのもポイントです。福岡なりの良さを突き詰めていきたいんですよね。

特定のIT、デジタル関連企業には、家賃の1/3を1年間、支援

では、具体的な福岡市の誘致策にはどのようなものがあるのでしょうか?

山下さん:立地交付金という制度があります。市外の企業が初めて進出する際に、オフィスの家賃の一部を支援させていただく制度です。IT、デジタルコンテンツの開発拠点であること、面積が100平米超という要件はあるのですが、それを満たしている場合にはオフィス家賃の1/3を1年間、つまり最初の4カ月分を支援させていただくイメージです。

福岡に移住した人が街をどんどん好きになったり、最初は出張で来ていた人が福岡異動を希望したり。そんなふうに、関わる人々が徐々に「福岡ファン」になっていくのを肌で感じられることが、山下さんの仕事のモチベーションに繋がっているそうです。山下さんに「福岡移住計画ラジオ」でゲスト出演頂いた際、街の将来像について、楽しそうに語る姿が印象的でした。

家賃相場は東京の1/2から1/3。東京、アジアに近い利便性も魅力

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休みの日はこの地で過ごす人がとても多い。中心地の天神。(提供:福岡市)

福岡の魅力については、「福岡移住計画ラジオ」でも毎回ゲストの方に伺っていて、ほぼ共通するのが「街がコンパクト」「環境が良い」「綺麗な人が多い」「ご飯が美味しい」ということ。特に仕事をするにあたっては「コンパクト」な面が大きなメリットになっているようです。

福岡の住環境についてのエキスパートであり、「福岡移住計画」中心メンバーとしても活動している「福岡R不動産」の片岡美智明さんに、その「コンパクトさ」の魅力について改めて伺ってみました。

片岡さん:東京での通勤は『ドア to ドア』で1時間なんてことも多いですが、福岡では30分以内が一般的です。オフィス街の近くに住宅も多いので、通勤10分なんてこともよくある話で、こういうケースは自転車か徒歩で通われている方が多いですね。また、空港が市街地からこれだけ近い都市は世界的に見ても珍しいと思います。中心部の天神や博多から10分前後ですから、出張が多い方にはとても便利です。そして、家賃の面でも住みやすいのが、大きなメリットではないでしょうか。仮に、博多を東京駅、天神を新宿、西新を吉祥寺と置き換えて、同じスペックの物件で比較してみると、福岡の賃料は東京の大体1/2、場合によっては1/3くらいになったりします。

仕事柄、片岡さんは福岡へ移住される方と知り合うことが多く、その方々がとても魅力的だったので、「福岡移住計画」のメンバーとしても活動するようになったそうです。

片岡さん:不動産の仕事を通して出会う移住者の方々は、とにかく面白い人が多いんです。移住って、そこそこパワーがいることなんですよね。住む場所はもちろん、仕事も変えなくてはいけないケースもありますから。他にも、友達は?保育園は?とか、もっと言えば収入はどうなるのか?とか、単身ならまだしも、家族がいるとやっぱり大変で、ひとつひとつその問題をクリアしていかないといけない。まれに「どーにかなるでしょ!」と、勢いで移住しちゃう方もいらっしゃいますが、いずれにしても、環境はガラっと変わるわけで、そのハードルを乗り越えた人が面白いのは、ある意味、必然なんでしょうね。福岡移住計画に携わっているのは、そういう方々に刺激をもらえるからなんです。

これからの移住者のためにSNSやイベントで情報をシェアする

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SNS上やイベントで積極的に福岡の情報を発信する、カズワタベさん。

移住というハードルを乗り越えられる人々は、自分の描くビジョンを実現するパワーのある人なのかもしれません。そして、ハードルを乗り越えた先にある未来が楽しいからこそ、そのノウハウを共有することで、次に続く人を応援したいのではないでしょうか。1回目の記事にも登場いただいた、スマートフォンアプリ、ウェブサービスの開発・運営を行う「ウミーべ」代表取締役CEO・カズワタベさんは、TwitterやInstagramで、福岡の情報を発信し続けています。

ワタベさん:僕の場合、SNSは「自分が好きなことを、好きになってくれる人が増えたら嬉しい」という考えで活用しています。例えば、福岡と東京の二拠点生活であったり、地方でスタートアップを創業することであったり。まだこういう生き方はマイノリティかもしれませんが、「こういう方法もあるんだ」と、1つの選択肢として認知されていくといいなと思っています。また、Twitterなどを通じ、日々の出来事や福岡での楽しい生活を共有していると、友人や知人が福岡に来る時に「案内して」と声をかけられることが多くなります。彼らと時間を共にすることで親睦も深まりますし、東京との情報格差を埋める上でも効果があります。そして、来てくれた人たちはできる限りの歓迎をするようにしています。実際に訪れた人が「福岡すごくよかったよ」と、SNSなどで発信することで、福岡に興味を持つ人がいくらかは現れるでしょうから、そのきっかけを作れたらと思っています。

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「ぼくらの福岡クリエイティブキャンプ」にて移住体験談を語る「首突っ込み業」の今岡佐知子さん(右から2人目)。

東京・京都での勤務を経て、福岡でレンタルサーバー「ロリポップ!」のディレクターをしている「GMOペパボ」の今岡佐知子さんも、名刺にもう1つの肩書き「首突っ込み業」を記載して、移住希望者に対して、自らの移住経験を積極的に伝えています。また、大学時代を福岡で過ごした彼女は、イベントなどで大学生と話をする機会もあるそう。現在の福岡の大学生について、話を伺いました。

今岡さん:最近は学生のうちから起業して、プロダクトやサービスを作る人が多くて、若い世代も盛り上がってきている気がします。30代から40代の人が面白いことをいつまでも面白がる気持ちを忘れずにいるのも福岡のいいところ。学生たちも、そういう大人の姿を見ているから「自分たちも負けられない」という気持ちになるのかもしれません。福岡って、人と人との距離が近いんですよね。相手のことを自然に受け入れてくれる人が多い気がします。例えば、自分のプロジェクトで人やアイデアを求めていると、協力や紹介してもらえる機会が多い。だから、社内外の繋がりが作りやすいんですよね。これから卒業する学生たちにとっても、動きやすい環境ではないでしょうか。

九州の魅力を他県と共有する、カルチャーイベントも開催

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2014年10月に鳥飼八幡宮で行われた「肉フェス」の模様。

福岡では、IT企業だけでなく、移住者によるカルチャー・ムーブメントも動きはじめてきています。東京ではアパレルメーカーに勤務し、福岡移住後は子ども向けのフォトスタジオ「Acestudio」などを経営している貞末真吾さんは、昨年の10月に「肉フェス」というイベントを主宰しました。鳥飼八幡宮神社で開催されたこのイベントは、九州の人気肉料理店による屋台出店、Fantastic Plastic MachineのDJ、トークイベントの開催など、食とカルチャーが融合したイベントでした。

貞末さん:東京で生活していた頃の仲間が、福岡に遊びにきたくなるようなイベントを企画したかったんですよね。もちろん、福岡、九州の魅力を活かしながら。「肉フェス」には、東京の仲間をはじめ、県外からも多くのお客さんが来てくれました。福岡の魅力を他県の人々に知ってもらって、今度は福岡の人が他県に行って交流をすれば、コミュニティの輪が広がっていくと思います。また、ゲストハウスも立ち上げたので、泊まりに来てくれた人と話をして、スキルのある方と福岡企業をつなぐプラットフォームを作れたらいいなと思っています。福岡ではIT系の人材採用が盛んですけど、仕事以外の同じ時間を共有することでも、お互いに信頼できるパートナーを見つけられるといいですよね。

「面白いモノ好き」が多いので、チャレンジ企画も実現しやすい

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眞鍋さん(写真左)が手がけた動画、「ラバー」撮影中の模様。

ここまでは、東京から移住した方々を中心に紹介してきましたが、福岡には、地元や九州出身で活躍されているクリエイターも多くいらっしゃいます。移住者の視点だけでなく、福岡と九州をよく知る方のお話も伺いたく、福岡市内に本社を置く広告代理店「BBDO J WEST」のコンテンツプランナー・眞鍋海里さんにもラジオに出演していただきました。

宮崎県出身の眞鍋さんは、鹿児島の大学を卒業後、タワーレコード、WEBプロダクションを経て、現在の会社に就職しました。福岡県北九州市のタイヤ通販会社「オートウェイ」のYouTube動画「雪道コワイ」(動画を見るとビックリするかもしれないので、気をつけてくださいね)が960万以上の再生数を記録して、広告界で話題になった方です。また、最新作「ラバー」では、福岡を拠点に活動するモデル奈緒さんや、福岡発のバンドCanvasを起用するなど、福岡のカルチャーシーンをサポートするひとりです。眞鍋さんには、移住者を快く受け入れる福岡の人々について、話を聞きました。

眞鍋さん:福岡には面白いモノ好きの人が多いですね。普通、新しいことに挑戦しようとすると二の足を踏みがちだと思うのですが、『面白さ優先』で動いてくれる気質があります。例えば、「雪道コワイ」のような斬新な企画も、クライアントの方に「こんな新しいことに挑戦したいんですよ」と熱意を持って説明をしたら、面白さに共感していただけて一緒にチャレンジしてくれたんです。また、福岡は人材についても優秀なクリエイターやスタッフがいる土壌だと思います。これまでは、東京と比べてスポットライトが当たりづらかったけれど、ネットが発達したいまの時代においては、面白い仕事はどんどん拡散される。これからは、東京や地方、海外からも仕事が増えるんじゃないですかね。僕も、お陰様で東京と福岡を行ったり来たりすることも増えています。SNSがこれだけ普及しているいま、面白いものを作って知ってもらうのに、場所は関係ないんですよね。

豊かな人材が生まれる教育機関、日本とアジアをカバーする利便性の良さ、条件の割に安価な地価。そして、移住者や面白いものを受け入れてくれる、地域の人々の度量の良さ。これらの魅力が、福岡移住希望者の背中を後押しし、その後も福岡をどんどん好きになる要因になっているのだと感じました。「行政」と「クリエイター」、「企業」と「働き手」、それぞれが一緒に「動き」を生み出している福岡の街作りは、発展のまっただ中。そんな中、福岡で活躍する方々の話が刺激的なのは、彼らが常に、自分が描いたビジョンを実現するために前進しているからなのだと思います。そして、ほかの地方都市でも同じような動きが出てきています。インターネットをはじめ、テクノロジーの進化によって社会の仕組みがリデザインされようとしているいま、改めて新たな「街作り」や「働き方」を考える時期が来ています。それぞれの都市の魅力が育ち、横のつながりが出てくる未来を楽しみに、福岡レポートを終えたいと思います。

市來孝人(Takato Ichiki)

PR会社勤務を経て独立後、東京を拠点にラジオDJ・ナレーター・ライター・PRプランナーとして活動中。「ラジオを拠点に、地域を盛り上げる」取り組みをしたいと考え、福岡のローカルFM・COMI×TEN「福岡移住計画ラジオ」を企画し、DJとして出演している。XFM日本語ラジオ番組「FM 96.3 SMILE WAVE」(シンガポール)レポーターとしても出演。「PR Table」では「福岡移住計画ラジオ」番組立ち上げの経緯を連載中。

(文/市來孝人、編集/松尾仁)