「キャリアダウン」でもない、「田舎暮らし」でもない。キャリアを加速させるためのチャンスは、いま九州にあるのかもしれません。

先日も「アメリカ西海岸のようなスタイルで福岡で働く人々。彼らが語る福岡の魅力」の記事でお届けしたように、福岡を中心とした九州地方に熱い視線が集まっています。

主要大都市の中で福岡市は開業率第1位、また47都道府県の開業率ベスト20以内に九州5県がランクインしたことからも、九州における「新しい風」の勢いを感じられます。なぜ、いま福岡は熱いのか。その理由の一端を、2015年2月17日に開催された「九州ベンチャー企業 キャリアフォーラム」にて見ることができました。

基調講演では、宮崎を拠点にECサイトの構築・運営などを手がける「アラタナ」の土屋有氏、福岡市を拠点にレンタカープラットフォーム「Veecle!」の開発・運営を行う「リーボ」の松尾龍馬氏、そして現役の福岡市長である髙島宗一郎氏などが登壇。それぞれの観点から、九州で働くこと、そして盛り上がりを見せる福岡市の魅力が語られました。

社員の3割をU・Iターン組が占めるアラタナ

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株式会社アラタナ 執行役員 サービス開発統括本部長 土屋有氏

現在、子会社を含め150名ほどの社員を持つアラタナ。本社は宮崎県宮崎市で、最初期は地場の銀行から融資を得ていたといいますが、現在はベンチャーキャピタルからも融資を受けながら、ECサイトの構築や運営支援を手がけます。およそ800社のサイトを構築し、ニューバランスやジュビロ磐田などの大手クライアントを抱えます。

アラタナの特徴に、役員を含めたU・Iターンの人材が多いことが挙げられるそう。社員の約3割がU・Iターン組で、登壇した土屋有氏もUターンで参画。宮崎はサーフィンや釣りなどマリンスポーツが盛んなことから、趣味を決め手に転職をする人も多いとのこと。

ただ、土屋氏によると、特に首都圏からの応募者に対して「イメージの齟齬」を感じることが多いのだとか。たとえば、以下のような内容です。

・東京に疲れた(地方ならラクそう)

・スキルも経験もないが、田舎ならなんとかなる

・田舎でゆっくり毎日すごしたい。けれど、今までと同じか、それ以上の報酬が欲しい

こういったイメージに土屋氏は、「地方であってもライバルは東京、そして世界。スピードはマーケットに合わせているため、田舎だからゆっくりということはない。欲しいのは一線級の人材で、個人の市場価値はどこで働いても変わらない。しかし、働き方は進化できる。九州や宮崎でも成長する環境、キャリアアップのチャレンジとして、九州を考えてみてほしい」と呼びかけます。

適している人材を直接採用するリーボ

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株式会社リーボ 代表取締役社長CEO 松尾龍馬氏

「人生を豊かにする」を企業理念に、2011年に創業したリーボ。福岡市を拠点に、社員は7名ながら、ベンチャーキャピタルからの調達も経て、新事業で拡大期に入っていくフェーズといいます。

現在はレンタカー予約サービス「Veecle!」の開発・運営が主軸。Veecle!のメリットは「国内最多車種、再安値のプラットフォーム」であること。大手レンタカー事業者ではなく、日本国内の中小レンタカー事業者が所有する自動車を対象に、約2000年台を取り扱っています。一例を挙げれば、オープンカーの「MINI CONVERTIBLE」や、小型のキャンピングカーなど、ユニークな車種がそろいます。

リーボの松尾龍馬氏は、新たにメディア事業部を立ち上げるにあたり、取材を通じて知り合った26歳の女性エディターをヘッドハンティング。直接会うことでの採用活動を重視しているそう。「コアメンバーになる人材を、3カ月や半年といったスパンで会って入社してもらう」

「最近、福岡が熱いらしい」について、福岡市長が自ら語る

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福岡市長 髙島宗一郎氏

現役の福岡市長である髙島宗一郎氏は、現在40歳。若きリーダーは快活に、福岡市の魅力を語りました。

「コンパクトシティ・福岡」は50年前にはじまっていた

目指すのは「人と環境と都市活力の調和がとれたアジアのリーダー都市」。特に都市機能においては、福岡空港、博多港、博多駅の半径が2.5km以内にあり、世界でもなかなか見られない機能集約型のコンパクトシティであることを強調。もっとも、このコンパクトシティ構想は地形的な問題はもとより、国家戦略よりも早い50年前にマスタープランをつくり、はじまっていたのだとか。

地下街や地下鉄の発展をはじめ、クルーズ船の停泊は博多港が全国最多、東京に次ぐ全国2位の国際コンベンション開催地となるなど、現在も着々と実を結んでいるようです。特にコンベンションに関しては、交通の便の良さだけでなく、その後の懇親会(アフターコンベンション)が飲食の環境を含め充実していることもあり参加率が高く、昨年度は受け切れないほどのイベント開催数だったといいます。

髙島氏は「中洲や天神を楽しんだ後に、深夜タクシーなのに2000円以内で帰れるのもコンパクトシティの良さ」と笑顔を見せます。また、今後30年以内に予想される震度6弱以上の地震発生率が非常に低いのもポイントです。

祭りや伝統文化に育まれた、暮らしの環境

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髙島市長の講演でも印象的だったのは、若年層を含めた人材についてのデータでした。総務省の発表では2014年1月1日時点で「人口の伸び率」が第1位、政令指定都市中で「人口に占める若者(15~29歳)の比率」と「(15~29歳のうち)の女性比率」が第1位、また「人口に占める大学生数の割合」が第2位と、今後を担う人材が多くいることが想像できました。

そして、特に「祭り好き」な福岡人の持つパワーは大きいようで、「クリエイティブな部分をどんどん出している。たとえば、街中のいたるところでライブが行われていたり、占有基準を緩和したことで道路上でお酒を飲みながらDJイベントをやったり、市庁舎を貸し出してアイドルがイベントを行ったりもする」と髙島氏。

また、イギリス発の世界的なカルチャー誌『モノクル』が発表した住みやすさのランキングで、世界10位に選ばれたことにも触れ、「東京は世界2位だがメガシティ。福岡はそれを目指しているわけではないし、価値観が違う。別軸を打ち立てていきたいし、特に暮らしやすさにはこだわりたい」と言います。食に関しても、「まちがいなく東京より断然に低コストでおいしいものが食べられる」と自信を見せます。

創業や誘致などのビジネスにおけるメリット

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前述したように、開業率の高さも福岡市の特長ですが、コスト面でも東京とはかなりの開きがあるようです。1坪当たりの平均オフィス賃料は約9.2万円で東京のおよそ半額。また住宅賃料も2LDK~3LDKの平均でみると、東京の約1/3とリーズナブル。

「TSUTAYAブックストア天神」に設けられたスタートアップカフェを中心に、起業相談やセミナー開催なども日々開催。首都圏にある企業が福岡市に拠点をつくったり、イベントを通じたお試し就業などでの移住者募集をしたりと、創業促進、企業誘致、人材の環境整備に注力しています。

そして、「国家戦略特区」に選ばれたことでビジネスだけではなく、都市開発においても大きな追い風が。「近々、大きな構想を発表する」と髙島氏。実は基調講演でオフレコとして語られたその構想は、街の風景が一変するほどのインパクトに満ちた可能性を感じさせました。

なぜ、創業に髙島氏がこだわるのか

基調講演の最後に、髙島氏は福岡市の指針と、創業にこだわる思いについて語りました。

髙島氏:地方が自ら元気になる。地方が自らチャレンジする。地方が日本全体を牽引する。「国がやってくれない」のではなく、自分たちで、地方で独自にできることを、行政と民間と大学が連携して、一緒にガンガン面白いことをやっているのが福岡市です。そして、福岡市だけでなく、このムーブメントを、自発的な自治体のみなさまとつくっていきたい。

都市を成長させて、その富でもって、市民の生活の質を向上させる。そうすればさらに人が来る。これが私の市政方針の根本です。税収伸び率、人口伸び率はいま日本一になりました。だからこそ、子育てを含め、より快適で暮らしやすくなるような予算案も出しました。最先端となる「とがり」をつくっていて、もっと都市を成長させていきたいのです。

最後に、私がなぜ創業やチャレンジにこだわるかをお話します。私が生まれてきたとき、「日本が世界で一番」だと聞いて育ってきました。大学を出る頃、私の世代は就職難で、いつの間にか日本全体が暗くなっていた。年金が持たない、成長ではなく成熟だともいわれる。いつになったら「自分たちが主役になる時代が来るのか」と思っていた。

でも、自分より上の世代の人たちは、自分の手で時代を切り拓いたんです。だからこそ、自分たちも「与えられる」のではなく「勝ち取って」いかなければならない。自分の時代を、自分で勝ちとるという思いを持つ仲間と、昨日までなかった価値やサービスを創りださなければ、新しい時代は来ません。そういうものに抗いたい思いがあるからこそ、創業に力を入れているのです。東京というメガシティではできない創業を、福岡でしてみませんか。

いま、九州に求められるリーダー職のキャリア

本フォーラムは、転職支援をはじめとしたサービスを手がける「ビズリーチ」と、ベンチャー企業の成長支援などを行う「トーマツベンチャーサポート」が共同開催。現在、九州の優良ベンチャー企業の求人情報をビズリーチ上で掲載すると共に、今後は地方自治体や現地企業とも連携し、首都圏の優秀人材に対する転職支援への展望などが発表されました。

登壇したビズリーチの加瀬澤良年氏は「地方創生の実現に向けて、プロフェッショナル人材と地方企業に、選択肢と可能性を提供します」と意欲を見せます。

また、髙島氏も記者からの質問に対し、「福岡市には創業したての人が非常に多いので、関東で活躍するリーダー層が引っ張っていってもらえたらとも思います。ものを変えていくのは、"わかもの、ばかもの、よそもの"とも言われるが、(特に"よそもの"のリーダーたちにとっては)当たり前のことであっても、福岡だからこそ新しいことができるという発想をもってもらいたい」とコメント。

ビジネスの現場で働く僕らにとっての選択肢として、果たして福岡市を中心とした「九州経済圏」は、どのような魅力を持つのか。ライフハッカーでは今後も情報をお届けしていきます。

(長谷川賢人)