Inc.:ゆっくり眠るのは死んだとき、とつぶやいている人は、その日が来るのをずっと早めるような行いをしていると気づいてください。
夜更かしをすると健康も生産性も損ないます。ハーバード・メディカル・スクールの睡眠医学部によれば、睡眠をとらずに仕事をすると短期的には生産性が向上しますが、あっという間にそれも帳消しになります。翌日以降は睡眠不足が気分や、集中力や脳の高度な機能に悪影響を与えるからです。睡眠不足からくる悪影響は大変大きく、酔っぱらっている人のほうが睡眠不足の人よりも高い能力を発揮できるぐらいです。
成果をあげるには適度な睡眠が必要である理由
睡眠が脳に良いことはすでに知られていますが、ロチェスター大学の新しい調査により、脳細胞が睡眠を必要としている理由(しかも適切な方法で睡眠をとることが必要です。これについては後述します)を示す直接的根拠が初めて提示されました。その研究により、目覚めている間に行われる神経活動の副産物である神経細胞から有害なプロテインを除去する作業を脳は睡眠中に行っていることが発見されたのです。
不幸にして、脳はこれを眠っている間にしかできません。だから、十分な睡眠がとれないと、有害プロテインが脳細胞の中に残ってしまい、カフェインをいくらとっても取り返せないレベルまで思考力が損なわれてしまいます。
徹夜をすると全般的に脳の機能が低下します。情報処理能力、問題解決能力が低下して、創造力がなくなり、ストレスレベルが高くなり感情的になります。
睡眠不足が健康におよぼす影響
睡眠不足は、心臓発作、脳卒中、II型糖尿病、肥満などの深刻な健康問題と結びついています。睡眠が足りないと、ストレスホルモンのコルチゾールが体内で過剰分泌されるので、ストレスが高くなります。コルチゾールが過剰になると、免疫力が低下して健康に悪影響を及ぼします。
また、肌の滑らかさと弾力を保つコラーゲンを破壊するので、外見も老けて見えるようになります。特に男性の場合は、睡眠が足りないと、男性ホルモンの一種であるテストステロンの分泌が減り、精子の数が減少します。
十分な睡眠をとれている人の方が長く健康的な人生を生きることを示す研究結果は枚挙のいとまがありませんが、これだけでは十分な睡眠を取る動機としては不十分かもしれません。よって、こんなふうに考えてみてはどうでしょう。睡眠不足だと肥満になると。
睡眠不足は、糖質の代謝と食物摂取コントロールを低下させます。睡眠が少なくなると、食べる量が増える上に消費カロリーを燃焼しにくくなるのです。さらに、食欲刺激ホルモンのグレリンの分泌が増えることにより、空腹感が強くなって、満腹感を感じさせるホルモンのレプチンが減少するので、なかなか満腹になりません。1晩に6時間未満しか眠らない人は、7時間から9時間眠る人と比較して30パーセントも肥満になる可能性が高いのです。
どのぐらいなら十分な睡眠か
ほとんどの人の場合、十分に休めたと感じるために1晩に7時間から9時間眠る必要があります。7時間未満でもベストコンディションでいられる人は少なく、逆に健康に問題がない人であれば9時間以上必要な人も少数派です。ということは、多くの人が睡眠に関する問題を抱えているということになります。というのは、国立睡眠研究所によれば、アメリカ人の過半数が毎晩7時間未満しか眠っていないからです。
さらに劣悪な状況にある、やり手ビジネスマン
Inc.が500人のCEOを対象に最近行った調査により、500人のCEOの半数は6時間未満の睡眠しかとっていないことがわかりました。問題はそれだけに留まりません。連邦防疫センターによれば、アメリカの労働者の3人に1人は毎晩6時間未満の睡眠で、睡眠不足はアメリカの実業界で年間630億ドル以上の生産性を損なっていることになります。
何か対策を取る
睡眠をしっかりとると、思考が明晰になり健康を維持できることは明白です。感情をコントロールして、プレッシャーがあっても冷静でいられる能力は仕事の成果に直結します。TalentSmartが100万人以上を対象に調査したところ、トップクラスの業績をあげている人達のうちの90%が高いEQを持つことがわかりました。彼らは理解力が高く、有意義に感情を使うことに長けています。そして、良好な睡眠衛生を意のままに使える最強のツールにしています。
EQが高い人達は睡眠の長さだけではなく、眠り方も重要だということをわかっています。十分な睡眠量を生活に取り入れられたら、次は良好な睡眠衛生が保たれた状態で睡眠の質を向上させることが必要です。質の良い睡眠に関しては、誤解による隠れた危険がたくさんあります。以下の10の対策に従い、そうした危険を認識して睡眠衛生を良くしましょう。それにより、正しい長さと質の睡眠をとることになり、パフォーマンスと健康状態が向上します。
1. 睡眠薬に手を出さない
ここでの睡眠薬とは、眠りを誘うあらゆる鎮静剤のことを意味します。アルコール、総合感冒薬のナイキル、抗ヒスタミン剤のベナドリル、鎮静剤のアンビエンなどは、脳が自然に睡眠に入るプロセスをおおいに妨害します。
鎮静剤を飲むと強烈な夢を見るのに気づいていますか。睡眠中に脳が有害物質を排除するとき、一連の精巧な段階を巡り、昼間の記憶を何度もふるいにかけて保存しておくものと処分するものとに分類しています。これが夢を見る原因です。鎮静剤による鎮静作用はこのサイクルに干渉して脳の自然なプロセスを変化させてしまいます。
脳が自然に睡眠に入るプロセスに干渉するものなら何であれ睡眠の質に悪い結果をもたらします。以下に続く対策の多くは、脳のこの回復プロセスを邪魔する要因を排除するものです。睡眠薬をやめるのが難しいようなら、カフェインを減らすなど別の方法を必ず試みてください。そうすれば、自然に眠りに落ちるのが楽になり、鎮静剤依存を減らせるでしょう。
2. (少なくともランチの後は)カフェインをとらない
カフェイン摂取を減らすと長く眠れて睡眠の質も大きく向上させられます。カフェインは脳の中でアドレナリンの生成を増加させ睡眠導入化学物質をブロックするので、睡眠に干渉する強力な刺激となります。カフェインは6時間で半分の効力があるので、摂取すると体外に出るのに24時間丸々かかるのです。
朝8時に1杯のコーヒーを飲むと、夜8時にはまだ25%のカフェインが体内にあるということです。正午以降に飲んだものなら何であれ、寝る時間にはまだ50%近い効力が残っているということになります。血流の中のカフェインは、カフェイン摂取量が多いほど悪い影響を及ぼし、眠りにつくのも、眠りを維持するのも難しくなります。
やっと眠りに落ちても、最悪なのはその先です。カフェインは、体が一番回復する深い眠りのレム睡眠を減らして睡眠の質を低下させます。カフェインが眠りを妨げると、翌朝目覚めたとき認知力も感情も良くない状態になっています。ついついコーヒーの入ったカップやエネジードリンクに手を伸ばして、覚醒を促そうとしてしまいがちですが、これはあっという間に悪循環を発生させてしまいます。
3. 夜はブルーライトを避ける
PCやスマートフォンからも発するブルーライトが眠りに与える影響は大変大きいのですが、ほとんどの人がそのことを知りません。短波長のブルーライトは、気分やエネルギーレベルや睡眠の質に関して重要な役割を果たしています。
朝、太陽の光はこのブルーライトをたくさん含んでいます。それが直接目に当たると(窓ガラスやサングラス越しではだめです)、そのブルーライトがメラトニンという睡眠を誘導するホルモンの生成を停滞させるので、ぱっちり目が覚めた気分になります。これにより、午前中に太陽の光を浴びると気分もエネルギーレベルも上がります。太陽光を浴びられない状況なら、ブルーライトを発する機器を試してみてください。
午後になると、太陽光線はブルーライトを失うので、体がメラトニンを生成できるようになるので眠たくなり始めます。夕方までには、脳はブルーライトを浴びるつもりがないので、むしろブルーライトに対してとても敏感になります。そのため、ラップトップ、タブレット、テレビ、携帯電話など、夜に使いたい機器の大半は短波長のブルーライトを発するので、睡眠に問題を生じさせてしまいます。
ラップトップやタブレットや携帯電話の場合、たいへん明るいブルーライトを顔に向かって発しています。これにより、メラトニン生成が阻害され眠りにつきにくくなり、せっかく眠りに落ちても睡眠の質が劣化します。眠りのサイクルは脳が丸1日かけて辿るプロセスであることを覚えておいてください。どうしても夜にそういう機器を使わなければならないときは、フィルターや目を保護するアイウェアを着けてブルーライトを浴びる量を少なくしてください。
4. 毎日同じ時間に起きる
規則正しい生活は夜中の良好な睡眠をとる鍵です。特に、起床が大切です。毎日同じ時間に起床すると、24時間周期の生理的リズムが整って、気分が良くなり、睡眠の質も向上します。起床時間が決まっていると、脳がこれに合わせて睡眠サイクルを通して休息を取れた気分にさせてくれて、起床時間には覚醒するようにしてくれます。起床する1時間ぐらい前に、ホルモンレベルが次第に高くなり(それに連れて体温と血圧も上がります)、ますます目が覚めるようになります。目覚まし時計が鳴りだす直前に目覚めることが多いのはこのせいです。
毎日同じ時間に起床しないと、脳は睡眠プロセスをいつ終わらせたらいいのか、いつ覚醒させたらいいのか、わかりません。太古の時代、太陽の光が起きる時間を決めていました。現代では、目覚ましだけしかそれができません。そして、毎日決まった時間に起きるには、たとえ疲労感があり眠り込みたい誘惑があっても、それに抵抗する必要があります。起床時間を一定に保つ方が気分が良くなると知っているからです。
5. 週末に寝だめしない
週末に眠り込むのは不足している睡眠を補う方法としては逆効果です。起床時間が不規則になるせいで、24時間周期のリズムが狂うからです。仕事があるウィークデーには毎日同じ時間に起きていて週末はその時間を過ぎても寝ていると、脳が体を目覚めさせる準備をしないので、結局は頭がぼーっとして疲労を感じます。休みの日にこの状態でも大したことではないかもしれませんが、月曜日の生産性が悪くなります。睡眠サイクルがダメになって再び規則正しいスケジュールに戻るのが辛くなるからです。6. 自分に本当に必要な睡眠の量を知る
自分に必要な睡眠の量は自分ではコントロール不可能であり、睡眠時間を決めている遺伝子が科学者により発見され始めています。問題は、ほとんどの人は自分が本当に必要な睡眠量よりずっと少ない睡眠しかとっておらず、それで十分だと思っていることです。
これは大変なことだと考えている人達もいます。Ariana Huffington氏はある日の午後、疲労から突然倒れるまでは、短い睡眠で過剰な仕事量をこなして成功を収めていました。倒れて以来、彼女は睡眠の習慣を変えたおかげで今日の成功と幸福があると言っています。「1晩につき30分長く眠るようにし始めました。それから徐々に7時間から8時間の睡眠になるまでそれを続けたのです。結果は目覚ましいものでした」とHuffington氏は言います。「十分な睡眠を取ると、健康、精神力と明晰な思考、人生の喜び、悪いことが起こってもいちいち反応せず生きる能力、など、全てが改善するということを、あらゆる科学が今や明確に示しています。」とも述べています。
Huffington氏だけではありません。Jeff Bezos氏、Warren Buffet氏、Sheryl Sandberg氏も十分な睡眠を取ることの素晴らしさを唱えています。夜更かしで悪名高いBill Gates氏さえ、自分が本当に必要な睡眠量を知ることの利点を強調しています。「私は毎晩7時間の睡眠をとりたいと思っています。シャープで創造性に富み、陽気でいるにはそれだけの睡眠が私には必要だからです」自分が最高のパフォーマンスを収めるのに必要な魔法の睡眠時間数が見つかるまで、辛くても我慢して早目にベッドに入るのをそろそろ始めるときでしょう。
7. 仕事を切り上げる
夕方仕事をしていると、仕事がノリノリの状態にあるときに睡眠の準備をするために仕事を切り上げてリラックスしなくてはならないかもしれません。最近の調査によると、約60%の人が眠るまでスマートフォーンで仕事のメールをチェックしていることがわかりました。毎晩ある時間以降はブルーライトを発する機器を遠ざけることが仕事をするのを回避するのにも最適の方法で、これによりリラックスして眠りにつく準備ができます。しかし、質の高い睡眠をとりたいなら、どんなタイプの仕事も就寝前は避けるべきです。
8. 睡眠を中断しない
小さい子供がいる人は仕方がありませんが、睡眠が中断されると、睡眠の質が低下します。できる限り睡眠を中断させるものを排除するのが鍵です。騒々しい隣人がいるなら、ベッドでは耳栓をしましょう。お母さんが夜中に電話してきたがるなら、ベッドに入る前に電話のベルを無音にしておきましょう。普段より朝早く起きなければならなかった日の夜は、寝る前に目覚まし時計をいつもの時間に戻しておくのを忘れないでください。夜に水を飲みすぎて深夜トイレに行くことにならないようにしましょう。パートナーが鼾をかくなら、うーん、自分で考えてください。本気で考えれば、睡眠が不必要に中断されるのを避けるためにできる細かいことがたくさんあります。
9. 瞑想を学ぶ
瞑想することを学ぶ人の多くが、瞑想により睡眠の質が高くなり睡眠時間を著しく増やせなくても必要な休息が取れるようになったと報告しています。スタンフォード・メディカル・センターでは、不眠症患者が6週間のマインドフルネスを使った瞑想と認知的行動セラピーのコースに参加しました。
この研究の終わりには、参加者が眠りに落ちるまでの平均時間が半分に短縮され(40分から20分になりました)、被験者の60%がもはや不眠症とは呼べない状態になりました。被験者達はその後丸1年間その状態を維持したのです。マサチューセッツ医科大学で実施された同じような研究では、マインドフルネスと睡眠セラピーのコース参加者の91%が睡眠に必要だった薬の量が減ったか、薬がまったく必要なくなりました。マインドフルネスを試してみてください。枕に頭を乗せたときのリラックスの仕方と心を静める方法を教えてくれるので、少なくとも、前より早く眠りにつけるようになります。
10. 何をやってもだめときは昼寝をする
メラトニン生成のピークの1つは午後1時から3時の間にやってきます。それで、午後眠くなる人が多いわけです。GoogleやZapposのような会社は社員に短い午後の昼寝をする機会を与えて、このニーズを満たすことで良い結果につなげています。夜に十分に眠れないと、午後にものすごく眠りたくなることが多いでしょう。そうなったときは、15分でも短い昼寝をした方が、カフェインを摂取して起きていようとするよりいいのです。短い昼寝で必要な休息が取れると、その後の午後は乗り切れますし、カフェインを飲んだり、長い昼寝をしてしまうよりは、夜にずっとよく眠れるでしょう。
団結する
この記事を読んでいる人の多くがこんなふうに思っているのはわかっています「でも、いつも一晩中起きていて仕事をしたり社交したりしている人を知っているけれど、その人はうちの支店ではトップの成績をあげているよ」とね。それに対する私の答は簡単です。その人は実力を十分に発揮できていないです。誰でも最大限に発揮されるべき潜在能力があります。
私の仕事は、人が潜在能力を最大限に発揮するのを助けることです。現在優秀な人が、パフォーマンスの邪魔になっている目に見えないバリアを撤去することでもっと素晴らしくなるのを助けることです。あなたの支店で成績が1番なのは1つの達成ですが、この人は、睡眠不足のせいで潜在能力をフルに発揮することができずにいるためにまだ達成できていないもっと大きな目標を間違いなく視野に入れているはずです。この記事をその人に送ってあげてください。はっと気づいてくれるかもしれません。
結局のところ、夜中に不足や後れを取り戻そうと頑張っていいのは、睡眠を取ることだけなのです。
Sleep Deprivation Is Killing You and Your Career|Inc.
TRAVIS BRADBERRY(原文/訳:春野ユリ)
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