ウェブサイトの収益性やユーザー登録数などを、A/Bテストなどの改善によって高めていく「グロースハック」。それを手がける人たちである「グロースハッカー」たちが活躍しています。企業やサービスを成長させる仕掛人であり、そして「新たな職業」としてより脚光を浴びる可能性があることは、以前の記事でも紹介しました

1000名を超すグロースハッカーのネットワークを持ち、改善ツール/プラットフォームを提供する「Kaizen Platform」がこのたび、日本一のグロースハッカーを決定すると共に、この業界を活性化すべく「日本グロースハッカー大賞」を創設。

2015年2月10日、代官山・グラナダスィートを会場に、昨年度にKaizen Platformを通じて実際に成果を上げたユーザーを対象に、「スマートフォンサイト」「女性向けサイト」「勝率」などの複数部門に分けて、優秀な成果を収めた人を表彰しました。

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「Japan Growth Hacker Awards 2015」と銘打つ受賞式後に行われたパネル・ディスカッションでは、Kaizen Platform, Inc.の鬼石真裕氏をモデレーターに、今回の受賞者から、井浦英太郎氏、雨宮史朋氏、平田啓介氏、ゲストとして株式会社ロフトワークの代表取締役社長である諏訪光洋氏が登壇。

短い時間ではありましたが、「結果を出すグロースハッカーとは?」「地方創生×あたらしい働き方の未来とは?」といったテーマで、自らの体験を交えながらコメントを述べ合いました。

グロースハッカーが持つ、新しい4つの価値

Kaizen Platform, Inc.の鬼石真裕氏は「Kaizen Platform」を通じたグロースハッカーは、新しい4つの価値を持つといいます。

1.仮説検証・スキルアップの能力が発揮できる

2.場所を選ばない働き方ができる

3.大手企業・クライアントの実績を得られる

4.新しい収入の手段になる

これらの価値はグロースハッカーを職業として見た際の「強み」とも言い換えられそうです。今回登壇した3名のグロースハッカーのコメントにも、4つの価値にかかわるポイントが見られました。

特に「場所を選ばない働き方」については、井浦氏と雨宮氏は福岡、平田氏は沖縄を拠点に活動をしており、東京などの首都圏での募集がかかる案件に対して、それぞれの土地から改善案を提出し、結果を出している実績があります。

グロースハックは数字がすぐ出るところが魅力

福岡を拠点に活動する井浦英太郎氏は、もともとはグラフィックデザインを行っていたところ、ウェブの可能性を感じて転向、現在はウェブ制作をメインの仕事としています。ある時、鬼石氏と出会いグロースハック、そしてKaizen Platformを知り、チャレンジ。「企業ウェブサイトをつくっていると、結果がなかなか出ないところもあるけれど、グロースハックはすぐに成果がわかり、指針も出せるところが魅力。しかも、報酬も最後にもらえて嬉しい」と笑顔を見せました。

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井浦氏が手がけたウォーターサーバー企業のPRページにおける改善では、申し込みのCVR(コンバージョン率)が71%も向上した事例があります。

「この改善では、まず『ウォーターサーバ-はどういう家庭で利用されるか』を考え、ページを見に来てくれたユーザーにアピールするために、イメージを実際に挿入し、コピーを考えた。ボタンも押しやすいように立体化させ、水なので『水色』にして、しかも水っぽいテクスチャにして押しやすくし、印象を残したかった」と、井浦氏は振り返ります。

結果を出すために気をつけることを聞かれると、「Kaizen Platformでは他のグロースハッカーがつくった改善案が見られるので、採用されるものと採用されないものを見て、なぜ採用されるのか、自分を含めた他の案がなぜ採用されなかったのかを分析して、結果がでるように振り返ること」と井浦氏。

結果を出すことに集中した改善案をつくる

雨宮氏も福岡を拠点に活動するグロースハッカーのひとり。もともとはECサイトで起業し、ウェブ制作やディレクションをやる中で、Kaizen Platformに出合います。

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雨宮氏は、ワンコインで使えるサービスの会員登録ページで、CVRを10%向上させた実績があります。この仕事は雨宮氏が最初にKaizen Platformで投稿したもので「意外と思い切れた」と言います。ユーザーの顔がたくさん並んでいるという、やや既視感のある画面をガラリと変えるために、「サービスのセールスポイントである500円の部分を取り出して見せ、全体的に黒でレイヤーをかけてメッセージを打ち出した」。そのおかげで、余計な情報がなくなり、コピーが際立つように見えるようになりました。

普段から心がけていることとしては、「クライアントが求めるゴールがあるので、そこをまず理解した上で、グロースハッカーに何を求めているかを整理して落とし込んでいきます。なるべく余計なものを省くというか、結果を出すことに意識を集中した改善案をつくる」ことと雨宮氏。

コンバージョンを得るための近道を探す

平田氏は沖縄県生まれ、沖縄県育ち。現在も沖縄に在住し、地元企業をクライアントにウェブ制作事業を行っています。アパレルのECサイトを担当し、調べているうちにグロースハックに出合い、興味を持ってKaizen Platformに参加します。

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平田氏の手がけた中には、カップルマッチングサイトのスマホ向けページで、会員登録CVRを11%向上させた改善事例も。「改善する前のページも素晴らしかったのですが、クライアントの求めるものは大幅なデザイン変更でした。そこで、コピーから考え、そこからデザイナーと落としこんでいった。結果的には、メリットや強みを大きく3つ、打ち出していくデザインを考えました」とのこと。

成果を出すために気をつけていることについて、平田氏は「改善前のサイトを細かく分析して、コンバージョンを得るための近道を見つけます。そのために、長いページは短くする、ユーザーの感覚になって押したくなるボタンはなにかを考えています」と言います。

また、「どのような基準で企業からのオファーを選んでいるのか」という質問に関しては、「自分の得意分野を活かせるところ、勝負できるところを探す」と、登壇者3名とも共通の視点を持っていたのも印象的でした。

グロースハッカーと地方創生の良い関係

先にも述べたとおり、井浦氏と雨宮氏は福岡、平田氏は沖縄を拠点に仕事をしています。その点で、「場所を選ばない働き方ができる」ことに対するメリットも、それぞれ感じているようです。

井浦氏:自宅でもできる、どこでもできるのが良いですが、私は旅行が好きなので、海外旅行先であっても、「生活の中に仕事を取り入れられる」のもメリットかなと思います。

平田氏:私は沖縄でやっていて、生まれ育ちも沖縄で、地元のお客様も魅力的な仕事をさせてくれますが、Kaizen Platformは日本全国の誰でも知っているような、ナショナルクライアントの仕事にチャレンジできる機会があるのが魅力です。

雨宮氏:「場所を選ばない働き方」も当たり前になってきていますが、それよりも、東京の仕事を福岡で受けられるという点で、地方創生につながる価値を感じています。特に福岡にはクリエイターが多く、福岡市も創業特区などに積極的なところですが、まだ人が足りていないところがあります。そこで、Kaizen Platformであったり、新しいスタートアップも来ていますし、そういったところとの関わりで刺激を受けることで、どんどんクリエイターも洗練されていき、地方が活性化していくのがいいかなと思っています。それから、ビジネスをやっていく上で、これまでの仕事にプラスして、ヤフーやソフトバンクといったクライアントの案件に関わっているところは、通常業務をやっていく上でも営業ツールとして使えます。それが生活のところでも生きてくるのかなと。

地方創生の観点について、ロフトワークの諏訪光洋氏は「現在も地方では、能力やクリエイティビティが不足しているというソーシャルイシューがあり、もっと若い才能がほしい、そして一度地元を離れたけれども戻りたい人もいる。しかし、若い人が戻る拠り所や生活基盤がないので戻れない事情がある。そこでベースになる仕事、稼げる仕事をしながら、それぞれの地域に戻って『農業のECをやってみよう』なんていう人が出てくるんじゃないかと思います。このツールに依存してばかりいると能力が偏っていくのでよくないとも思うけれど、特に普通の業務内、あるいは地方だと、大きな仕事ができる経験もなかなかないからこそ、このシステムでないとできないこともある」とコメント。

「グロースハッカー養成カリキュラム」も開講中

いま、なぜグロースハッカーがなぜ必要なのか。そこには「競争過多」「広告費を投じても従来と同じように伸びがない」「変化そのものが早い」という3つの要因があるといいます。その時代の中で、いかにして結果を出せるグロースハッカーとなれるのか。その近道は、すでに成果を出している事例や先達に学び、実践することにあるはずです。

現在、オンライン学習サービス「schoo WEB-campus」と「Kaizen Platform」が共同で、全9回にわたるグロースハッカー養成カリキュラムを開講中です。生放送での授業と併せ、過去の放送分は録画授業としても公開されていますので、グロースハッカーに興味が出てきたら、ライフハッカーの過去記事も併せて、チェックしてみてください。

UIのA/Bテスト事例から学ぶ最新のグロースハック傾向と成果を出すための制作法【WebサイトPC編】|schoo(スクー)

国内初のグロースハッカー大賞受賞者を決定 | Kaizen Platform, Inc.

(長谷川賢人)

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