通信キャリア「au」を有するKDDIは、革新的なサービスのアイデアを持つスタートアップ企業やエンジニアを対象に、インキュベーションプログラム「KDDI ∞ Labo(ケーディーディーアイムゲンラボ)」を主催しています。
アイデアを応募し、選ばれたプログラム参加者たちは、パートナー企業のアセット(資産・財産)やノウハウを活用、メンターからの指導を受けながら、3カ月間をかけてアイデアを実際のカタチにすべくサービスを開発していきます。
このプログラムからは、過去にも学習サービス「アオイゼミ」や「mana.bo」、レシートから家計簿を作成できる「Dr.Wallet」などをはじめ、さまざまなアイデアがカタチになっていきました。
2015年1月27日、渋谷ヒカリエ内のヒカリエホールにて、第7期プログラム参加者によるプレゼンテーションが行われました。合計5社による発表から、今回は私たちの「生活」をより良く変えてくれそうに感じた2社のサービスを紹介します。
医師と患者の「利益」が増える:Dr.JOY(ドクタージョイ)

今回、第7期プログラムで最優秀賞に輝いたDr.JOY。発案者は現役医師の石松宏章氏です。1年間病院に住み込み、医師や看護師などの医療スタッフ、そして医師とMR(医薬情報担当者)を結ぶための機能を考え抜き、KDDI ∞ Laboで開発したといいます。
Dr.JOYを言い表すなら、医療スタッフのための「病院専門プラットフォーム」。各病院の医療スタッフがコミュニケーションをしやすくするためのツールを取り揃えます。また、医師たちがDr.JOYを使うことは、めぐりめぐって患者である私たちにもメリットが出てくるサービスなのだとか。

医師のシゴトを「治療」するサービス
病院へ行ったのに、待ち時間が長くてイライラした経験はありませんか。しかも待った割に、診察が一瞬で終わってしまって肩透かし...ということも。実は、これらは「医師の時間不足」にそもそもの原因があるのだといいます。
医師たちは「医局」というグループ組織に属しており、多くのバックオフィス業務をこなさなくてはなりません。患者の治療法をめぐってカンファレンスが長引いたり、紙資料をまとめたり、看護師からの急な質問にPHSで答えたり...と、患者である私たちには「見えない仕事」が多くあるのです。そのせいで、本来の外来治療にあてる時間も減ってしまうという負のスパイラルがありました。石松氏は「(病院内にある)これらのアナログで非効率な業務フローをDr.JOYで『治療』する」と言います。
Dr.JOYで何ができるのか

たとえば、「院内タイムライン」で患者の治療法をディスカッション。「院内カレンダー」を見て当直担当者をすぐに確認。「院内タスクリスト」を使って、院長がタスクを振り分け、担当者はスマートフォンやPCからタスクを随時こなしていく。コミュニケーションには"医療スタンプ"も充実の「チャット機能」と、医療の現場で働く人をサポートするための機能が数多く用意されています。

トップ画面やチャットを見ると、FacebookやLINEなど既存のサービスにベースが置かれているようにも感じます。石松氏は「あえて同様のスタイルにすることで、幅広い利用者がとっつきやすくなり、参入コストを下げる狙いがある」と答えてくれました。

ちなみに、医療スタンプは、Dr.HOYのスタッフであるイラストレーターの菊池さんがすべて制作。「LINEには医療者向けスタンプなんてありませんから...」とはにかみつつ、その作品たちを見せてくれました。どれもユニークで「これならスタンプだけでも会話できる」と思わせる仕上がり。
つまり、Dr.JOYを使い、バックオフィス業務や無駄な作業フローを減らしいけば、本来大切にするべき「患者との時間」を増やすことにもつながっていくわけです。実際に、山口県のとある病院でテスト利用したところ、連絡ノートを使わなくなった、電話が減った、タスク管理が圧倒的にラクになったと評価も高く、すでに東京医大、東京女子大などでは現場での採用が決まっているといいます。
実家の診療所のような、アットホームな現場を増やしたい
石松氏はサービス開発の経緯を、「父親が開業医で、小さな診療所をやっていて、そこでは患者との距離も近かった。やがて私も医者になりました。大病院で働いてみると、スタッフ間のコミュニケーションがうまくいっておらず、ギスギスした現場も見てきた。私は、実家の診療所のように、アットホームなチーム医療を増やしたい。医師である自分だから、それができると思っています」と振り返っていました。
想定ユーザーは総合病院を主軸に、地域の診療所や介護施設での利用も見込みます。治療履歴などを含めたデータをオープンにすることで、医師や患者、その家族がコミュニケーションできるような環境を作っていきたいとのこと。病院の業務効率化だけでなく、私たちと病気の向き合い方も変わっていく可能性に満ちたサービスではないでしょうか。
花を通じて、「愛」を贈る:sakaseru(サカセル)

もともとは、エンジニアの小尾龍太郎氏が発案。六本木で花屋を営んでいた西山祐介氏と、数々の「花屋×IT」のサービスを試行錯誤するも、失敗が続いていたといいます。そこで、最後のチャンスと申し込んだKDDI ∞ Laboで、まさに「花開いた」のがSakaseru。
Sakaseruは「フラワーデザイナーにアプリから花束をオーダーできる」サービス。予算は8000円からとプレミアムな価格ですが、フラワーデザイナーと直接やり取りをしながら、記念日や贈り物に最適な逸品をつくれるのが特長です。

手渡しでの受け取りもOK、サプライズにぴったり!
たとえば、あなたが結婚記念日に、愛する妻へ花を贈りたいと考えたとします。まずはSakaseruにログインし、20名(※順次増員予定)の中からフラワーデザイナーを指名します。
次に、予算、どのような記念日か、花束の種類、贈る相手のイメージカラーや好みの色、雰囲気といったヒアリングシートを答えていきます。回答をもとに指名したフラワーデザイナーが花束をアレンジ。デザイナーと写真を交えたチャットで直接やり取りする細かい相談を経て、だれでもオンリーワンの花束をつくり、贈れるのです。
現在、東京都内であれば、希望の場所や時間にスタッフが花を届けてくれます。場所は指定でき、手渡しも可能。レストランや店舗に預けることもできますので、サプライズのプレゼントにもぴったり。もちろん、通常の運輸業者による配送も頼めます。
誰かのために花を贈りたい。けれど、どこに頼んでいいか、どんなふうにオーダーしていいかもわからない。そういった悩みを、Sakaseruは多くのフラワーデザイナーとユーザーをマッチングさせ、きめ細やかなサービスで解決してくれるのです。また、一般の生花店ではなく、フラワーデザイナーのみを集めることで、既存の大手花通販サイトとの差別化を図る狙いもあるといいます。

ちょっとドキドキする、「愛を贈る」サービス
今後は、個性あふれるフラワーデザイナーがさらに集うことで、私たちはよりステキで高品質な花束を手に取れるようになるそうです。「ITを活用した花屋」ともいえますが、Sakaseruは自分たちを「愛を贈る」サービスと強調していました。
贈りたい相手のことを思いながら、花束をつくっていく...たしかに、ちょっと、ドキドキする時間ですよね。花というものの価値を、あらためて見なおせるサービスに感じます。
現在、第8期プログラム参加者を募集中

第7期プログラムは他にも、ウェアラブルデバイスとARでつくる"テクノスポーツ"を楽しめる「HADO」、写真からビジュアルを認識して検索する人工知能システム「Ingram」、ブログを書くように本の執筆や出版が簡単にできる「∞books」と、それぞれに特徴を持つサービスが生まれています。
KDDI ∞ Laboは現在、第8期プログラムの参加チーム募集を開始しています。第8期ではパートナー企業は総勢15社になり、さらに強いアセットやノウハウを結集したといいます。つくりたい未来のアイデアを、熱く投げかけてみる格好のチャンスでしょう。
一般公募だけでなく、「学生応募枠」も用意しているとのこと。応募期間は2015年1月27日〜2015年2月20日まで。プログラムの参加に必要な条件など、詳細は公式サイトを見てみてください。
KDDI ∞ Labo | KDDI Ventures Program
プログラムエントリー | KDDI ∞ Labo | KDDI株式会社
(長谷川賢人)