子どものころ駄菓子にハマッた経験は、誰にでもきっとあるはず。そして数ある駄菓子のなかでも、時流に左右されることなく普遍的な人気を維持しているアイテムといえば、やおきんの「うまい棒」ということになるのではないでしょうか?

きょうご紹介する『うまい棒は、なぜうまいのか?国民的ロングセラーの秘密』(チームうまい棒著、日本実業出版社)は、その人気の秘密を解き明かしたユニークな書籍。17の「うまい理由」が紹介された第1章「うまい棒は、なぜうまいのか?」から、いくつかを引き出してみたいと思います。

とことんこだわっている

たとえば、うまい棒の「たこ焼味」は、一度タレをつけて焼いたあと、粉をかけて、もう一度焼いているのだそうです。コストがかけられない10円のお菓子であるにもかかわらず、あえて手間暇かけて「二度仕上げ」をしているということ。このように、とことん味にこだわるところは、うまい棒が売れ続ける理由のひとつだと著者は説明しています。

「駄菓子だからといって、手を抜いたら、選んでもらえなくなる」という考えがあるからで、その前提は、「子どもは、大人が思うより、はるかに味がわかっている」「子どもだましの味なんて通用しない」という考え方。だからひとつひとつの味はいいかげんにつくれないし、細かいところにもこだわっているということ。

原材料選びもそうで、同じ野菜の品種をいくつか提案された場合は、コストがギリギリでも少しでもよいものを使うのだとか。(36ページより)

次々と斬新なアイデアが出てくる

うまい棒の魅力のひとつが、ほかでは味わえない斬新な味が楽しめること。たとえば、いまでは定番になっている「めんたい味」や「サラミ味」も、発売当時は画期的な商品でした。また最近も「シュガーラスク味」「牛タン塩味」「エビマヨネーズ味」など、ユニークな味がたくさん発売されています。大手のスナック菓子と真正面から勝負するのではなく、ニッチな風味を開拓したからこそ、生き残ってこられたということかもしれません。

しかし、だからといって企画会議を定期的に行っているわけではなく、基本的には「アイデアを思いついたら、やってみる」というスタンスなのだそう。しかもアイデアを思いつくきっかけは、本当にふとした瞬間なのだといいます。たとえば「サラミ味」は、お酒を飲んでいるときに出てきたオードブルのサラミを見たとき、「よし、サラミ味をつくるか」ということになってできあがったもの。ただし、ラフなように思えますが、実際には常にアンテナを張りめぐらせていなければできないはずです。

そして大変なのは、そのアイデアをどうかたちにするか。いままで誰もつくったことがない味ほど、つくるのは困難。うまい棒は味へのこだわりが強いだけに、試作したものの、世に出なかった製品も数多いという話にも納得できます。

それに、そもそも「なにがおいしいか」を判断するのは非常に難しいこと。そこで1年に1~2種類の新商品を出し、売れないものは躊躇せずにやめるようにしているのだといいます。見切りを早くすることによってリスクを最小限に抑え、斬新な味を次々と生み出してきたというわけです。(39ページより)

まんなかの穴には秘密がある

うまい棒の中心にある穴にも、いくつかの理由があります。まずは、食感がよくなるようにとの配慮。穴が空いていると、空いていない状態よりもサクサク感が増すのだそうです。ちなみに「シュガーラスク味」には穴がないのですが、これはラスクの食感に近づけるための例外的なもの

そして、穴が空いていることのもうひとつの理由が、耐久性。穴が空いていると衝撃に強くなり、壊れにくくなるのだそうです。工場でつくられたうまい棒は、配送センターを経由して問屋さんに送られ、そこから二次問屋やお店に送られ...と長距離輸送されることもしばしば。海外にも輸出されていますし、そもそも子ども向けなので、振り回してなにかにぶつかる可能性もあります。そのような理由から、壊れにくさがとても大事なポイントになっているというわけです。

「材料をケチるため」だと誤解されることも少なくないそうですが、穴を空けたほうがコストがかかるので、それは大きな間違い。でも穴を開けると壊れにくくなるだけに不良品が減り、結果的にはコストダウンになっているといいます。(44ページより)

ずっと10円で同じ値段

いうまでもなく、「1本10円」という値段の安さも、うまい棒の魅力のひとつ。35年間ずっと10円だというのですから驚かされますが、そもそも原材料の値上がりなどの影響を受けやすいはず。たとえば原材料であるとうもろこしが不作になれば、その影響を受けることになるのは当然の話。1本あたり50銭でも高くなれば、10円を守り続けるのは難しくなるはずです。

また、食材以外の費用も重要。ガソリン代が上がれば運送費がさらにかかりますし、3%、5%、8%と上がってきた消費税も大きな影響を与えるでしょう。にもかかわらず10円という価格を守り通しているのは、その分のコストを削っているから。工場をオートメーション化するなど、裏側で地道なコストダウンを実践しているわけです。

ただし「絶対にしない」のは、原材料の質を落とすこと。たくさん仕入れるぶん安くしてもらうなど工夫をして、なんとかやりくりしているということのようです。また社内的にも、「余計な経費は使わない」という姿勢が徹底しているそう。つまりはそんな努力が積み重なることにより、10円のラインが守られているというわけです。(50ページより)

○○は変えるけれど、○○は変えない

うまい棒は同じ味でも、まめにパッケージのリニューアルをしています。定番の味だと、10年おきくらいに変わっているのだとか。なぜでしょうか? 理由はシンプル。うまい棒のように人気のある駄菓子でも、パッケージのデザインを変えないとすぐに古くさくなり、子どもたちに受け入れてもらえなくなるから

ただし絶対に変えないものもあり、その最たるものは「ロゴマーク」。事実、「うまい棒」という丸みを帯びたロゴは、発売以来ほとんど変わっていないそうです。右上に上がっていく「うまい」の角度も同じなのだとか。

これは、買った人の心理を考えてのこと。ひとつは、かつてうまい棒を食べていた人が、昔を懐かしんで楽しめるようにとの配慮。よく食べた駄菓子は、必ずなんらかの思い出とリンクしているもの。それを食べることで、当時の思い出がよみがえるというわけです。けれどロゴがリニューアルされると、思い出す機会が減ってしまう。それは寂しいということで、ロゴとキャラクターだけは変えないのだそうです。

もうひとつの理由は、何十年もロゴやキャラクターが変わらないと、話のタネになりやすいから。うまい棒を食べる子どもと、その姿を見たお父さんとの間に会話が生まれるなど、コミュニケーションツールとしての機能性を重視しているのです。ロングセラー商品にも、変えていい部分と、変えてはいけない部分があるということ。(56ページより)

オールカラーで、「うまい棒全史」「現役うまい棒大集合」「『うまい棒』ができるまで」など、興味深いトピックも豊富。また第2章以降では駄菓子全般にまで視野を広げ、「植田のあんこ玉」「花丸本舗のみるくせんべい」などについての話題も取り上げられています。ページをめくっているだけで、充分に楽しめること間違いなしです。

(印南敦史)