どんなことでも、現実の世界で実際に試す前に、少しでも勉強をした方が良いと言われてきました。しかし、あらゆるものが高速化している現代では、あることについて知り尽くす前に動かなければなりません。正式にインターンシップで雇われたり、さらに上の学校に入学したりするなど、自分の経歴が変わるまで待つのではなく、いち早く学び、スキルを身につけるためにも、学び方を少し変えた方がいいでしょう。準備ができるまで待っていたら人生が終わってしまった人はたくさんいます。「準備ができるまで」というのは、条件ではなく言い訳になっていることも多いです。

たとえば、プロのデザイナーになるのに認定書は要りません。Karen X. Chengs氏は、フルタイムの仕事をしている半年の間にデザインを学びました。自分の準備ができたと思う前に、仕事を始めることでデザイナーになったのです。あなたにも同じことができるはずです。

いざという時のためではなく、直前に集中して学ぶ

勉強の仕方には2種類あります。知識や技術が必要になる直前の"いよいよという時"の勉強(例:研修など)と、反対に、必要になるかなり前からやる"いざという時"のための勉強(例:いわゆる学校の勉強)です。日々の仕事の中では、学校で勉強した"いざという時"のための知識は、ほんの少ししか使いません。このような、いざという時のための勉強は、そこまで即効性はありません。

現実の世界に適応するには、いよいよという時の直前の勉強が大事だというのはすぐに分かります。もしくは、最初に失敗して、身を持ってそれを知ることになるでしょう。起業家であり、エンジェル・インベスターのDan Martell氏は、ブログにこのように書いています。

直前の勉強に集中して、的確なアドバイスをもらいましょう。実際に必要になる数カ月も前に技術や知識を学ぼうとするのは、結果的にかなり時間の無駄になります。

それでも、いざという時のための勉強も少しは必要です。特定の結果を出すために、ツールや技術について理解しておかなければならない場合です。以前の米Lifehackerの記事で、数学教授のJohn Cook氏がこのように説明しています。

必要な時に具体的な内容を学ぶつもりだとしても、どんなことができるかを事前に知っておく必要があります。バージョンコントロールが何かさえ知らなければ、「今はバージョンコントロールのシステムについて勉強する必要があります」と言えません。いざという時のために、テクノロジーの概要について知っておく必要があります。そうすれば、必要な時にAPIについて学べます。しかし、学ぶべきものは何なのか、それがいつ必要になるのかがわかるようになるのは難しく、かなり迷うところです。

いざという時の勉強といよいよの時の勉強のバランスを取るには、優先順位を厳密に守ることと、必要になる直前にやるのがポイントです。

最小有効量を見つける

中国語の研究者は2万以上の漢字を理解していますが、ただ中国語の読み書きができるようになりたいのであれば、1000文字程度の漢字を理解するだけで良いです。よく使う200の頻出漢字を知っていれば、基本的な文章(看板、レストランのメニュー、基本的な新聞の内容)の40%は理解できます。

週4時間だけ働く男として有名なティム・フェリスは、これを最小有効量もしくはMED(Minimum Effective Dose)と呼んでいます。必要な成果を出すことができる最も少ない量です。たとえば、約1000単語を知っていれば、その言語で会話ができます。この考え方は、結果を出すことが必要なあらゆるものに当てはめられます。

別の例をあげると、ブロガーになると決めたのであれば、WordPressのようなプラットフォームでブログの設定をし、記事を作成し、投稿する方法がわかれば良いのです。ブログテーマの変更や、アクセス数の増やし方、SEOなどその他の知識は、後で勉強すれば良いでしょう。

あれこれやらず、深めることを優先する

何にでも手を出したくなるタイプであれば、それはやめましょう。他のことを試してみる前に、まずは最小有効量を手に入れるか、特定の成果を出すことに集中します。1つのことを本当に上達するまでやり、それから他のことに移ります。作家のJosh Waitzkin氏は『The Art of Learning』の中でこのように説明しています。

フォギュアスケーターに、トリプルアクセルを飛ばせて、氷の上を楽に滑る原則を教えようとするのは馬鹿げています。最初は、ターンやバックがリラックスした状態で滑れるようになるくらい、氷の上を滑る基礎から始めるべきです。基本的なスキルを身に付けたという安心感を持ちながら、それから少しずつより複雑な練習に入ることで技術を深められます。

先走ってはいけません。今求められている成果と、それを達成するのに必要なスキルを習得することに、しっかりと集中します。

学びを加速させてくれる人と会う

目標を達成した人というのは、学習を速く進める助けになります。その人たちの失敗から学び、時間を節約することができるからです。学習したことを教えてもらうことで、より深い知識を得ることもでき、成功するために重要な習慣やスキルも分かります。作家のロバート・グリーン氏は『Mastery』の中でこのように書いています。

同じ業界の人や身近な人たちが、あなたの世界のようなものです。その人たちの話や視点が自然とあなたの視野を広げ、社会的な能力を育ててくれます。できるだけ多くの異なるタイプの人たちと交流しましょう。自分の世界が少しずつ広がります。

今の時代、理論的にはどんな人ともつながれますが(メールアドレスを探したければ、以前米Llfehackerで紹介した「Norbert」を使いましょう)、当然ながら、相手があなたのことを助けたいと思っていなければなりません。相手がそう思っていれば、その人との関係によって成長することができるでしょう。

定年退職した人など、あまり忙しくない人を選べば、返答がもらいやすいです。同じ分野でも、今ちょうど忙しそうな人に連絡を取ろうとすれば、その人の親しい仲間からスキルやテクニックを学ぶことができるかもしれません。いずれにしても、あなたも何か価値あるものを提供しなければなりません。ティム・フェリス氏は、著書『The 4 Hour Body』の中でこのように言っています。

「お願いがあるのですが」という言葉では相手には響きません。あなたと会うことで、相手にも何らかのメリットがあった方がいいでしょう。

やりやすい方法としては、無料でブログや新聞や地元紙に、その人自身や、その人のやり方、専門家としての発言について書くことです。その人に会ったら、専門的な聞きたいことはすべて聞きましょう。文才がなくても問題ありません。インタビューや対談形式で、単純に質問と答えを書いていけばいいです。

連絡を取ってインタビューを設定したら、あとは第一印象を良くするのが大切です。メールインタビューの場合は、答えやすい的確な質問をするようにしましょう。連絡を取る前に、相手のことは調べておきます(例:その人のインタビューを読む、ポッドキャストを聞くなど)。そうすれば、すでにわかっていることを聞かずに済みます。くだらない質問をすることほど、相手をなえさせるものはありません。

私は、以前の職場で担当編集者に、より多くの知識を得ることができる、とてもためになるアドバイスをもらいました。その人は、インタビューをする時は、できるだけ「どのように?」とか「具体的な例をあげてもらえますか?」と聞いた方がいいと勧めたのです。インタビューの時は少なくとも10回以上は、このような質問をすると言っていました。現実世界や仮説の世界では、具体的な例があった方がかなり速く学習し、効率的に覚えられます。

時間をかけて丁寧に人間関係を育んでいる人であれば、自分のメンター(精神的な相談役)となるような人が見つかるはずです。

現実にある例を探す

1年ほど前に、私は自分が本当に作りたいものが分かりました。この「Complex Magazine」のファレル・ウィリアムス氏の記事が作りたいと思ったのです。完全にインタラクティブな要素でできているサイトに目を奪われました。私の記事が、読者とこのようにインタラクティブにできたらどうなるだろう? もっとどっぷりと話の世界に浸ることができるのではないかと思ったのです。

その時の私は、コーディングのことはまったく何も分からず、ウェブデザインについてはほんの少し経験があるだけでした。「Snow Fall」という米紙ニューヨークタイムズのインタラクティブ記事を調べたところ、「parallax」(基本的には1つのレイヤーをスクロールすると複数の要素が動く視差効果)という用語を発見しました。

私は、自分がウェブデザインやグラフィックデザインの、最先端の人間になる必要がないことはわかっていました。ただ、このparallaxとスクロールの効果がうまく使えるようになりたかったのです。事例や話の書き方については知っていたので、コーディングの最小有効量を見つけるための調査を重点的にやりました。最初は、どうすればいいのか皆目見当もつきませんでした。

ソフトウエア開発をやっている友だちに話したところ、「Skrollr」というライブラリを教えてくれました。この時点で、私はライブラリやフレームワークの上に構築するということさえも、思いついていなかったのです。このおかげで調査に何十時間もかけずに済みました。

いざという時のための情報を得たので、Skrollrのparallaxチュートリアルを調べることができました。テンプレート付きのものが1つあったので、それをダウンロードして応用し始めました。(直前の学習)別の友だちは「Anvil」を教えてくれました。私は手元にあるテンプレートの要素をいじり回し始めました。

最終的に、私は大好きなファレル・ウィリアムス氏のウェブページを構築したのです。自分のウェブサイトにそのページをアップして、メールで短縮URLをファレルに送りました。彼はデザインを気に入ってくれて、彼のイメージに合うように一緒にページを修正しました。そして、ファレルは自分のウェブサイトにそのページを載せたのです。(悲しいことに、当時Skrollrはモバイルで再生ができなかったので、Parallaxの要素は削除しなければなりませんでした)本当に自分が好きな人と一緒に仕事をする機会を手に入れ、ウェブデザインやエンターテインメント業界、広報について学ぶことができました。

1つずつ、まずはやってみること

劇的な変化というのは、興味のある新しいスキルを身につけるために必要な条件ではない、ということを覚えておいてください。ゆるやかな変化でも、スキルを身につけることはできます。1つずつスキルを習得していくうちに、ずいぶんと多くのことを習得したことに気がつくでしょう。チャンスを待つのではなく、自ら機会を作ることで、さらに機会が生まれます。

学校で勉強した方がいい状況というのもあります。たとえば、グラフィックデザインが本当に好きで、次のレベルに行きたいと思っていたり、信頼が必要な業界にいたりする場合は、学校に行って勉強した方がいいかもしれません。

しかし、それ以外の状況では、100%を目指すよりは、まずやってみる方が良いです。何十万ものお金をつぎ込む前に無料でスキルを身につける方法を探して、最初は少しの変化から始めることをおすすめします。お金が節約できるだけでなく、挫折もしにくくなります。また、自分が思っているくらい、本当にそれが好きかどうかを確認するには、いきなり方向転換しないやり方の方がいいでしょう。

Herbert Lui(原文/訳:的野裕子)

Photo by Martin Cathrae.