聞き慣れない名称ではありますが、「チャリティーサンタ」とは、「サンタのような人を育てること」をスローガンに掲げ、"誰でもサンタになれる"「サポタクロース制度」など、さまざまな活動を展開しているNPO法人。
そして『サンタクロースが届けてくれた心温まる物語』(清輔夏輝監修、チャリティーサンタ著)は、チャリティーサンタのスタッフたちが実際に体験した出来事をストーリー化したもの。25編もの心温まる物語が収録されています。
ただ、ここでそれらを紹介してしまうと読む楽しみがなくなってしまいます。そこうできょうは、同じように興味深いコラムから、いくつかのトピックを紹介したいと思います。
サンタクロースってどんな人?
まずは、サンタクロースについての基本的な話から。
サンタクロースのモデルとなったのは、1500年以上前の4世紀ごろ、東ローマ帝国(現在のトルコ)のカトリック教会にいた聖(セント)ニコラウス司教。近くに住む3姉妹が貧しさのあまり結婚道具が準備できず、身売りしなければならないという状況に追いつめられていることを知り、金貨をコッソリ煙突から入れたことが、そもそもの発端。彼が落とした金貨は、ちょうど煙突の下の暖炉に干してあった靴下のなかに入り、そのおかげで3姉妹は救われたというわけです。
結果、困っている人に対するニコラウスの行いは多くの人に賞賛され、彼の死後は命日である12月6日が「聖ニコラウスを祝う日」とされ、ヨーロッパ各国にプレゼントをする習慣が広がっていったのだとか。
ちなみにサンタクロースの語源は、14世紀ごろにこの習慣が伝わったオランダのことば。「聖ニコラウス」はオランダ後で「シンタクロース」と発音されるそうで、アメリカに渡ったオランダ人がこれを「サンタクロース」と伝えたことから現在の呼び名になったというわけです。
なお、クリスマスイブにギフトを贈るようになったきっかけについて諸説あるなか、特に有力なのは聖ニコラウスの話。そしてもうひとつは、イエス・キリスト誕生の際、当方から来た賢人たちが贈り物をしたという説。聖ニコラウスとイエス・キリストには「困っている人を助け、思いやりを持って接すること、それこそがギフトである」という共通したメッセージあったため、ふたりの思いをつなげ、いまのような習慣になったと考えられているのだそうです。(48ページより)
チャリティーサンタの活動とは?
本書を監修しているチャリティーサンタが「世界中の子どもたちを笑顔にしよう」というコンセプトのもとにスタートしたのは、2008年のこと。当初の活動内容はチャリティーイベントでしたが、2014年にNPO法人化。以後は「クリスマスのサンタ活動」と「チャリティー活動」を軸として、さまざまな取り組みをしているといいます。
「クリスマスのサンタ活動」とは、依頼のあった一般家庭にサンタクロースとして訪ね、(各家庭で準備してもらい、当日預かった)プレゼントと感動的な体験を届けるというもの。すると当然のことながらサンタになってくれる人が必要になってきます。そこでチャリティーサンタが人を集め、事前にサンタになるための講習も行なっているのだとか。
「チャリティー活動」は、クリスマスのサンタ活動で集まったお金(依頼を受けた家庭から2000円を受け取っているそうです)を使い、多くの子どもたちを笑顔にする活動。その一例が、世界中の生活が困難な子どもたちに「未来=教育の機会」を届けること。また東日本大震災以降は、「東北の子どもたちの生きる力を応援する」というコンセプトで、約1週間の自然体験ツアーも毎年主催。リピーターが続出しているというので、なかなか好調のようです。
現在では「サンタのような人を増やす活動」も行なっており、おかげでチャリティーサンタに賛同してくれる企業との活動も増加。さらに斬新なのは、よみうりランドで「子どもたちがサンタになって、来園者にプレゼントを届ける」キッズサンタイベントをプロデュースしたという話です。ちなみに老人ホームをキッズサンタが訪問し、サンタからプレゼントをもらったことのないおじいちゃん、おばあちゃんにプレゼントを届ける活動などもしているのだとか。
チャリティーサンタの活動を通して、僕は「サンタクロース」は特定の誰かのことを指す言葉ではなく、「誰もがなれるもの」だと考えるようになりました。(90ページより)
とは、チャリティーサンタ代表である、本書監修者のことば。(88ページより)
モノより思い出
「チャリティーサンタって、子どもたちにクリスマスプレゼントを届ける活動をしているんでしょ?」といわれることが多いものの、サンタクロースが届け、本当の意味で喜ばれるのは、プレゼントを通じた「サンタさんと過ごした経験」ではないか。それこそが、チャリティーサンタのスタッフの思い。
具体的にいえば、体験とはサンタさんとの会話。そこで、申し込みがあった段階で、「サンタさんからほめてほしいこと」「この1年がんばったこと、できるようになったこと」「サンタさんに応援してほしいこと(これからがんばること)」など子どもの話をいろいろと聞き出すのだそうです。
そしてそれらをすべて記憶し、サンタクロース役のスタッフがクリスマスイブの夜に依頼者宅を訪問。子どもと会話をするなかで、がんばったことやできるようになったことをほめ、これからがんばろうとしていることを応援し、来年に向けての約束をするのだというわけです。子どもたちにとって、サンタさんからのメッセージは特別なもの。だから得意なことをほめられると、もっとがんばるようになったり、苦手なことにも取り組むようになるのだといいます。
活動当初はプレゼントを渡すことが中心になっていて、会話はオマケに近かったのも事実。しかしサンタさんとの会話(体験)を大切にするようになってから、子どもの喜ぶ様子や家族の満足度、そしてサンタ自身の感動も大幅にアップ。なんだか納得できる話ではあります。(126ページより)
このようなコンセプト、考え方が根底にあるだけに、収録されているストーリーにも、決して押しつけがましくはなく、しかし心に染みる説得力があります。あともう少しでクリスマスですし、たとえばこの連休を利用して読んでみてはいかがでしょうか?
(印南敦史)