記憶力に自信がないあなたでも、正しい使い方を習得すれば、記憶ほど便利なものはありません。記憶というものは、あなたが考えているよりもずっとパワフルなのです。そのパワーを引き出すにはちょっとしたコツが必要ですが、それさえできれば、毎日の生活で大きなアドバンテージになりますよ。
シンプルなことを忘れないために、いちいちToDoリストに頼っているあなた。考え直してください。問題はあなたの記憶力の悪さではなく、それをうまく使えていないことにあるのです。実際、世界記憶力選手権(World Memory Champions)の優勝者らは、何千もの単語や数字を覚えることに長けていながら、記憶力そのものは平均的な人たちと変わらないと言います。ただ、上手な使い方を知っているだけなのです。そんな、世界有数の記憶を誇る人々を参考に、大事なことを忘れないようにするための方法を学びましょう。
ステップ1:自分の行動を意識する

自分で置いたのに、財布や鍵の場所がわからないあなた。それは、自分の行動を意識していないから。そんな癖は、いますぐに断ち切る必要があります。覚えておかなければならないことを、意識するようにしてください。誰かに「○○するのをリマインドして」と言われたときは、自然と注意を払うので、忘れることはないでしょう。それと同じことができれば、わざわざリマインダーを設定しなくても、やるべきことを忘れることはないはずです。それが、記憶をうまく使ううえでの基礎となるのです。
ステップ2:ビジュアルで覚える
上記のビデオで演者のJoshua Foer氏が述べているように、私たちの脳は、視覚で物事を記憶しています。電話番号よりも映画の筋の方が覚えやすいのはそのためです。例えば、友人の家に行き、本棚の邪魔にならないところに自分の鍵を置くとします。そんなときは、本棚を数秒間見つめて、ビジュアルに注意を払ってください。その際、鍵と本棚をひとつの絵としてつなげてください。そうすることで、鍵だけでなく、その周囲の景色まで覚えることができます。細部に注意を払うことで、反復をしなくとも、作業記憶(短期記憶)から長期記憶への移行が行なわれるのです。
ステップ3:想像力を駆使してイメージを定着させる

イメージがバカバカしかったり、奇妙だったり、面白おかしかったりすると、記憶に残りやすくなります。それは、テープに糊を上塗りするような作業です。世界記憶力選手権のチャンピオンであるEd Cooke氏は、著書『ごく平凡な記憶力の私が1年で全米記憶力チャンピオンになれた理由』(原題:Moonwalking With Einstein)において、このテクニックを紹介しています。
ほとんどの記憶術に共通するアイデアは、退屈な物事を、彩豊かでエキサイティング、かつ今までに見たこともないような物に変えて記憶することで、忘れないようにするという方法です。それこそが、精緻化リハーサルと呼ばれるものです。
これを応用して、鍵の置き場所を覚えるにはどうしたらいいでしょう? 本を生き物としてとらえ、お互いに笑ったりジョークを言い合ったりさせるという方法があります。手や足を生やし、ジャンルに応じて服を着させます。ちょっと変だと思うかもしれませんが、それこそがポイントです。変だからこそ、忘れずにいられるのです。いつの間にか、鍵の場所は強固に記憶に刻まれていることでしょう。
ステップ4:記憶の手掛かりを強化する

想起のほとんどが、何かをきっかけにして起こります。外的事象や、前に考えていたことなどが手掛かりとなります。これは直接的検索と呼ばれる現象で、「そういえば」の瞬間の結果として発生します。一方で、「あれ、私は何を考えてたんだっけ?」と思ってしまうときは、その記憶に対する手掛かりが弱い状態。そうならないようにするには、注意が必要です。
記憶の手掛かりを強化するには、心の中のイメージにおいて、覚えておきたいことに重要な役割を持たせます。本棚と鍵の例では、たくさんの本が歩き回っている中で、鍵だけがとどまっているのではいけません。そのシーンにおいて、鍵が役割を果たしていないからです。それよりも、例えば本たちが鍵を投げ合って遊んでいるとか、鍵について議論しているといったように、イメージの中で、鍵が焦点になるようにしてください。そうすれば、もはや鍵なしでそのシーンを思い出すことはできません。例えば、友人の家の本棚で、鍵をめぐってたくさんの本がケンカをしているシーンであれば、絶対に忘れることがないでしょう。
ステップ5:あらゆることに応用する

ビジュアル(視覚)で覚えることができるようになったら、これをいろいろなことに応用しましょう。必ずしも、クレイジーなイメージである必要はありません。誰かの名前を覚えるとき、私はいつも、その人と同じ名前を持つ人とその人が握手またはハグしている光景をイメージするようにしています。知り合いに同じ名前の人がいなければ、別の方法でその名前をビジュアル化します。帰りに牛乳を買うことを忘れないようにするには、「車に向かったら車が車輪のついた牛になってた!」なんてことを想像してみてください。
コツさえつかめれば、あとは自然にできるはずです。いつの間にかそのような物の見方が習慣になり、物事を上手に記憶できるようになっているでしょう。
Tori Reid(原文/訳:堀込泰三)
Photos by Arnau Amengual Bonnin, Pascal, Matt MacGillivray, and Daniel Lobo.