『結果を出す男はなぜ「服」にこだわるのか?』(戸賀敬城著、KADOKAWA/中経出版)の著者は、『MEN'S CLUB』編集長。2007年の就任以来、7年間で雑誌の売上をV字回復させた実積を持っているそうです。つまり本書では男性ファッション誌編集長という立場から、「ビジネスで成功するための服」について論じているわけです。
仕事の成果は着ている服で決まります。
どんなに仕事の能力が高く、すぐれたスキルを持っていても、第一印象で相手に悪いイメージを与えれば、その能力は発揮されません。(「はじめに」より)
もしもそうであるなら、ビジネスの現場においての服装について、どのようなことを意識すればよいのでしょうか? Chapter3「『人間関係』を変えたいならまず服を変えろ」から、いくつかを引き出してみましょう。
ネクタイで「人との距離感」をはかれ
服は自分のために着るものではありません。カッコよくなるのが目的ではなく、ビジネスで結果を出すのが目的です。(中略)そういう意味では、服は人間関係を潤滑にするツールのひとつといえるでしょう。(87ページより)
だからこそ、ビジネスでの人間関係がうまくいっていないなら、まず服を変えて人との距離感をはかるのが近道だというのが著者の考え方。そして、人との距離を近づけるのに有効なツールの代表格がネクタイ。ビジネスシーンや相手との関係性に従い、戦略的にネクタイの色を変えてみるといいそうです。
たとえば重要なプレゼンなど、「攻め」のシーンにふさわしいのは赤色のネクタイ。赤は気分を高揚させるので、本人も相手もプレゼン内容について前向きな気持ちになるというわけです。たしかにアメリカの大統領選挙などで、候補者が赤色のネクタイを「パワータイ」として戦略的に用いていることは有名な話。
ただし謙虚さを美徳とする日本人には、赤色のネクタイは少し印象が強すぎるようにも感じると著者はいいます。そこでお薦めしているのは、肌の色に合う黄色系のネクタイをパワータイとすること。また、山吹色もネイビーのスーツに似合うそうです。(86ページより)
ノータイの出来栄えはエリで決まる
ノータイにするときに注意を払うべきは、襟まわり。ネクタイを外しただけのスタイルは、だらしなく見えてしまうことが多いもの。ノータイにしても、Vゾーンのパワーが衰えないようなシャツを選ぶことが肝心だそうです。
基本は、襟元がだらしなく開かないようにすること。第一ボタンを外したとき、V字にキレイに開かないと、相手にくたびれた印象を与えてしまって当然。したがって著者がおすすめしているのは、ボタンダウンなど、襟元を固定できるタイプ。
また、襟が通常よりも大きめのシャツを選ぶと、ビシッと決まるといいます。さらにはポロシャツが許される職場であれば、選ぶべきは台襟(襟と身ごろの間にある襟を立体的にするパーツ)が2㎝くらいあるもの。襟がフニャッとならずにキレイな状態をキープできるため、ビジネスシーンでもカッコよく見えるというわけです。ただしポロシャツの裾はパンツに入れることが原則で、外に出すのはマナー違反。(104ページより)
シンプルな「白シャツ」を味方に
健康的に感じさせる服装にすることも、人間関係では大切。そして健康的に見せるには、清潔感のある白シャツをピシッと着こなすことが基本。ラグジュアリーホテルの支配人が必ず白シャツを着ていることからもわかるように、それは信用や誠実さの象徴でもあるといいます。「平凡」「退屈」というイメージから敬遠する人もいるとはいえ、一流のエグゼクティブは白シャツを味方にしているのだとか。
サイズが体に合っていなかったり、シワでくたくたになっていたりすれば逆効果ですし、襟のかたちなどのトレンドを外してしまっても台なし。しかしジャストサイズでシワのない白シャツをきちんと着こなしていれば、それだけでも健康的に映るというわけ。さらにはレジメンタルタイなどをしめれば、Vゾーンがしまって見えるそうです。
なお著者は、健康的で清潔感のあるイメージを出すには、就活生のファッションを参考にしてもいいと記しています。彼らの定番スタイルである「濃いネイビーのスーツ+白シャツ」という組み合わせは、健康的なイメージを与えるにはもってこいだから。ただし、多くのビジネスパーソンがこの組み合わせを避ける傾向にあるのも事実で、それは多くの就活生がそうであるように、"スーツに着られている"感じになるとダサいから。でもスーツやシャツのサイジングや素材感、色の組み合わせ、ネクタイや腕時計などの小物で差をつければ、見違えるほど好印象になるといいます。
また、健康的なイメージを演出するうえでは、肌の色の重要だと著者はつけ加えています。事実、ヨットがエグゼクティブのスポーツとされるヨーロッパでは、日焼けはステータスの証しで、「仕事ができる」イメージにもつながるとか。少し日焼けしているくらいのほうが、色白の人よりハツラツとした印象になるというわけです。(106ページより)
謝罪はスーツを雨で濡らすくらいの覚悟で
編集長という立場上、謝ることも大事な仕事のひとつだと考えているという著者は、1週間に1~2度のペースで謝罪をしているそうです。そして謝る場面でのマストアイテムは、ジャケット。編集部には必ず置きジャケットを用意しておき、急きょ謝罪に出向かなければならないケースにも対応できるようにしているといいます。
こんなことがあったそうです。あるとき謝罪に向かった先でゲリラ豪雨に遭い、一瞬で全身ずぶぬれの状態に。途方に暮れていると、たまたまエレベーターから降りてきたのはその会社の社長。全身ずぶ濡れで「申し訳ございませんでした」と謝ると、社長は怒るどころか「わざわざこんな雨の日にきてくれて申し訳ない」といって、ミスを許してくれたのだそうです。濡れたジャケットが、味方になってくれたということ。
そんな経験を持つ著者は、「謝罪の際にはスーツを雨で濡らしてから行け」とまではいわないにしても、相手に対して謝罪の気持ちを見た目で表現することは大切だと主張しています。いくらことばで謝罪しても、カジュアルな服装だったら「どうせ口だけだろう」と思われても無理はありません。つまり、謝罪や頼みごとをする場面では、最大限フォーマルな服装で臨むのが原則だということ。(124ページより)
「はじめに」に戻りますが、著者は「本書は『ファッションの本』ではなく、『ビジネス書』です」とも書いています。あえてファッションのイロハから解説しているのも、「ファッションに興味がない人にこそ読んでいただきたい」という思いがあるから。
そういう意味では、ファッションに無関心だった人に新たな気づきを与えてくれるかもしれません。
(印南敦史)