日常のいろいろなことを最適化すれば、より良い仕事につながり、生活の質も高まります。でも私たちは、仕事に追われるあまり、リラックスすることを忘れてしまいがち。誰もが、休息の重要性を大幅に過小評価しているのです。
私は1週間、旅に出ることにしました。インターネットも携帯もつながらない、何もない場所へ...。本題に入る前に、最近の私の記事を読んでくれた人にひとこと。私は、バーンアウトを避ける方法、生産性ハック、ライフハックなどについて書いてきました。いずれも、日常生活に役立つものばかりです。でも私は、1週間のオフライン生活を経験して気がつきました。私たちは、休息の必要性を大幅に過小評価していると。
旅に出る前は、仕事上の大きな決断に苦しんでいました。考えがなかなかまとまらず、1日に10回は考え方を変えていました。自分の優柔不断さに腹が立ち、ストレスだけがたまって行く毎日。睡眠時間もほとんど取れていませんでした。薄着がたたって、病気にもなりました。旅から戻ったらどんなにリフレッシュしているだろうなんて、考えている余裕もありませんでした。むしろ、山のような仕事を残して旅に出るのに、旅先でインターネットにアクセスできないことに、ストレスを感じていたのです。
1週間の旅はあっという間に過ぎ、あんなに悩まされていたストレスはどこかに消えてしまいました。それどころか、何カ月も浮かばなかったような新しいアイデアが、次々に浮かんできたのです。私は自分の力強さと創造性に興奮し、自信を持てるようになりました。旅から帰った私は、まるで別人になっていたのです。そのときようやく、旅に出る前の私はスランプ状態だったことに気がつきました。
それはまるで、水を口にして初めて自分の喉の渇きを知り、一気に飲み干すのと同じような状況でした。
急激に心が晴れた私は、自分の脳に何が起こったのか、リサーチしてみたくなりました。
自分で自分を疲弊させている

LexisNexisの調査によると、「労働者は、仕事時間の半分以上(51%)を、情報の活用ではなく、情報の受信と管理に費やしている」とのこと。" rel="nofollow" target="_blank
これについてちょっと考えてみましょう。毎日同じ筋肉を鍛えていると、その筋肉は発達しなくなります。筋肉の成長には、運動と同じように、休息が必要なのです。それは、脳だって同じです。
さらに私たちは、脳が消費するエネルギーを当然のことのように考えています。疲れていると、集中できないことがあるでしょう。それは、脳へのエネルギー供給が足りないからなのです。
Scientific Americanによると、「脳は、人間の身体でもっともエネルギーを消費する器官であり、全エネルギーの最大20%を消費している」そうです。
別の実験によると、脳が休息を取ることはほとんどないようです。 イギリス・バーミンガム大学で行動神経科学を研究するChris Miallさんが言うように、「脳が休めるのは、死んだあとだけ」なのです。
私たちの脳は、昼夜を問わずコンスタントに情報を取り込むことで、ほんの小さな情報でも記憶しようと働いているのです。それには、大きな労力を要します。
アメリカ人は仕事と距離を置くべきときがわからない

アメリカ、カナダ、日本、香港の労働者の平均年休取得日数は、年に10日。特にアメリカには、有給休暇、疾病休暇、祝日を保証する連邦法は存在しません。一方イギリスでは、年に20日の有給休暇が義務付けられています。
Harris Interactiveが2012年末に実施した調査によれば、アメリカ人の未使用年休日数は平均9日。さらに、アメリカ人の半数以上は、バケーションの間もメールチェックや返信をしたり、仕事をしなければならない義務感を感じているという脳の休息時間です。上質な睡眠だけでも、毎日数分の瞑想や娯楽でもなく、継続的な、本当の休息が必要なのです。
都会には刺激が多すぎる

テクノロジーが悪いとは言いません。なにしろ私は、テック業界で身を立てているのですから! でも、いつでもつながっていることはつまり、絶え間なく注意力のバトルが起きていることを意味します。今この瞬間、あなたの注意力は、この記事に注がれています。でも、完全に集中しているわけではないでしょう。ブラウザ内に別のタブを開いていたり、メールが来ることがあるかもしれません。それでも、あなたの注意力の少なくとも一部は、意識的かどうかにかかわらず、この記事に注がれているのです。
つまりこの記事は、あなたが今日のうちに注意を注ぐことになる数百のモノの1つ。
何かを考えるとき、何かを思い出すとき、本を読むとき、誰かと話すとき、あなたは注意力の一部をそこに専念させています。
現実に目を向けてください。好きか嫌いかにかかわらず、誰もが過剰な刺激に囲まれているのです。
テクノロジーが私たちの生活のすべてを占拠しているという考えは、決して皮肉ではありません。The New York Timesは、テクノロジーが脳に及ぼす影響について、シリーズで特集を組みました。
Tim Kreider氏の記事より。
人生から一歩離れて全体を見渡すためには、何もしないことで得られる静寂と空白の状態が必要です。そうすることで、脳内で予期せぬ情報がつながったり、真夏の稲妻のようにアイデアをひらめくことがあるのです。逆説的ですが、仕事を終わらせるためには、そのような時間が必要なのです。
リラックスしているときや空想をしているときでも、脳は休むことなく働いています。そんなときは、「休息状態のネットワーク」が働いているだけなのです。多くの重要な心理プロセスには、このような「ダウンタイム」や、他の形の休息が必要です。睡眠が重要な理由はそのためですが、それだけではありません。
私たちは、休息を「時間のムダ」と思うことをやめなければなりません。実際は、まったく正反対なのです。「ダウンタイムは、脳内に蓄積されている注意力とモチベーションを補給します。また、生産性とクリエイティビティを高め、最高の能力を引き出すだけでなく、安定した記憶を形成します。心を解き放つことで、過去から学び、未来に向けて計画をすることができるようになるのです」と、『Why Your Brain Needs More Downtime』の著者、Ferris Jabrさんは書いています。
ではいったい、オフラインのバケーションには、どのようなメリットがあるのでしょうか。私なりに考えたのは、以下の5つです。
1. 意思決定に追われない
刺激が多くて観光や食事の選択肢に事欠かない都市への旅とは違い、今回のような旅には、その瞬間の自分の欲求とは無関係に、意思決定がほとんど必要ありません。
2. 時間に追われない
旅の間、時計や携帯を持ちませんでした。お腹が空いたときに食べ、疲れたときに眠る。過ぎていく時間に気を取られることはなく、遅刻や後でやることを気にする必要もありませんでした。
3. ゲーム、パズルに興じる
カードゲーム、ボードゲーム、クロスワードパズルなどなど。遊びによる効能については、数えきれないほどの研究がなされています。遊びが、心にも体にも刺激を与えてくれるのです。これについては、またいつか書きたいと思います。
4. 自分を見つめ直す
瞑想とそう変わらないかもしれませんが、とにかく多くの時間を静寂の中で過ごし、内省の時間に充てました。水、崖、空、星などを眺めていると、心が解き放たれます。自分が感謝しているもの、幸せになれるもの、ワクワクするものについて、たくさん考えました。怖いもの、心配なこと、ストレスをもたらすもの、私を怒らせるものなどは、考えに浮かびませんでした。1週間ずっと、ネガティブな感情とは無縁だったのです。「いつもの暮らし」は、まるで別世界のように感じていました。
5. 自然の中で過ごす
何よりも大事なことだと思います。The Frontal Cortexにおいて、Jonah Lehrer氏は、自然が脳に与える影響について、「森の中を歩くことは、前頭前野にとってのバケーションのようなもの」と書いていました。自然以外に、この役目を果たすことはできません。自然が新しい視点を与えてくれて、今まで見えていなかったこと(鳥のさえずり、風の感覚、匂い、音、虫)に気付けるようになるのです。日常生活で圧倒されていた感覚がよみがえり、脳の各部が動き出すでしょう。
これら5つの要素はいずれも、忙しい日常生活や、「通常の」バケーションでは実現することができません。つながりを完全に断ち切り、自然に帰ることで、自分と向き合うことができます。頭の中で渦巻いていた情報を取捨選択し、自分なりに消化し、活用し、そこから学ぶことができるのです。そうすることで、身の回りのものを理解し、小さなことにも感謝できるようになるでしょう。
大量の食事を一気にかき込むと、味わうことができないばかりか、あとで気持ちが悪くなってしまいます。それよりも、きちんと座ってじっくり食事を楽しめば、素材ひとつひとつの味がわかり、ひと口ごとに感謝の気持ちが湧いてきます。街から離れることも、それと同じだと言えるのではないでしょうか。
今の私は、このような旅をもっと頻繁に生活に取り入れていきたいと考えています。その価値は、すでに証明されているのですから。
The Single Best Thing You Can Do for Yourself and Your Company|Crew Blog
Joelle Steiniger(原文/訳:堀込泰三)
Image adapted from PublicDomainPictures (Pixabay), Ollyy (Shutterstock). Photos by Quinn Dombrowski, Josh Ardle, Danny Choo.