「押さえるべき流れを押さえれば、誰でもアイデアを形にしたりビジネスにしたりできますよ。その人にしかできないことが必ずあります。ただ、スタートの段階で誰しも絶対に外せないポイントがあると、僕は思っています」

「誰でもアイデアをビジネスに変えたり、新規事業を立ち上げたりできるものでしょうか」と質問した私に、谷中修吾(やなかしゅうご)先生は笑顔で答えてくれました。

EvernoteのCEOであるフィル・リービンが教えてくれた「1カ月で取り組むべきアイデアを見つけ出すプロセス」など、過去にもライフハッカーでは「アイデアの発見」に関する記事をお届けしてきました。しかし、いくら画期的で、社会の問題を解決するようなグッドアイデアであっても、ビジネスへと発展させることができなければ継続させていけない現状もあるはずです。

そこで「アイデアをビジネスに変える方法」をテーマに、経営コンサルタントである大前研一氏によって設立され、さまざまなビジネススキルを100%オンラインで学べる「BBT(ビジネス・ブレークスルー)大学」経営学部専任講師の谷中先生にお話を伺いました。谷中先生は、新規事業プロデュースを中心とするマーケティング案件を数多く手がける、ベルベット・アンド・カンパニー代表も務めています。

ビジネスの作り方や捉え方だけではなく、「僕の中には30人の専門家がいるんです」という谷中流「パラレル・スキルの伸ばし方」まで、新しいことを始めたい、今よりもっと良い仕事をしたいと考える人には、ヒントになる言葉がきっとあることでしょう。141008idea_for_business_2.jpg

谷中修吾

ビジネスプロデューサー/クリエイティブディレクター。BBT大学経営学部専任講師。専門は経営戦略、マーケティング、ブランディング。大学在学中より起業し、30社以上のメディアデザインや経営戦略立案・実行支援に従事。外資系コンサルティングファーム「ブーズ・アレン・ハミルトン」を経て、アイデアをカタチにするイノベーションデザインファームとして「ベルベット・アンド・カンパニー」を設立。東日本大震災後、復興支援プロジェクト「道のカフェ」を立ち上げ、プロデューサーとして企画・運営に従事するなど、都市・地域づくりにおけるイノベーションの設計に尽力。ナレーター、ラジオDJ、執筆、カンファレンスなどを通じたメディア活動も展開している。

なんでもビジネスにできる。そこに「ワクワク感」さえあれば

谷中先生はスターバックス、キヤノン、松下政経塾と連携し、震災復興支援プロジェクト「道のカフェ」を立ち上げました。東日本大震災により被災した地域に赴き、地元住民たちと一緒にコミュニティカフェをつくり、被災地の活性化と再生を支援するものです。多くのメディアにも取り上げられたこのプロジェクトの着想は、どこから浮かんできたのでしょうか。

谷中:最初は救援物資を送るプロジェクトをはじめました。「自分にできることで、何か被災地に役立つことをしたい」という想いで動いていました。それから、企業と一緒に被災地でなにができるかを探る「スタディツアー」の企画を通じて、避難所で「そろそろ落ち着いてコーヒーでも飲みたい」という現地の声をキャッチしたんです。現場の実体験をベースにブレストを重ねて、単なる炊き出しだと一過性に終わってしまうけれど、持続的にその地域の方たちがホッとできる場を作りたいなと。そこから、具体的な復興支援プロジェクトとして「道のカフェ」をスタートしました。

谷中先生は「この流れは他の事業を立ち上げる時にも基本的には変わらない」と言います。

谷中:「これをやりたい」という強い想いがないと、新しい事業は立ち上がらないですね。戦略コンサル時代にもさまざま大企業の新規事業案件を経験したのですが、クライアントからの依頼に合わせて、きれいな新規事業計画はできるんですよ。だけど、実行するメンバーにとって本当にやりたいことでないと、ちゃんと形になるケースってすごく少ないです。それより、プランは荒削りでも、メンバーに「これが好き、楽しい、面白そう」といった「ワクワク感」があると実現します。

放っておいてもついやりたくなるような楽しいことって、あるじゃないですか。おいしいものが食べたいとか、あそこに行ってみたいとか。特に、実体験をベースにした衝動は本当にパワフルです。理屈抜きに、楽しそう、面白そう...そのワクワク感がないとビジネスは始まらなくて、逆にそれがあればどんなものでもビジネスになる。もっと言えば、何でもビジネスに「できる」し、それをするのが僕の仕事ということです。

アイデアをビジネスに変えるための2つのスキル

ワクワク感を持って取り組みたいことが見つかったとして、その気持ちをビジネスに変えていくにはどうすればいいのでしょう。谷中先生は2つのスキルが必要だといいます。

1つは「ロジカルなスキル」。物事を秩序立てて考えるロジカルシンキング(論理的思考)を踏まえ、ニーズの把握 → セグメンテーション → ターゲティング → ポジショニング → 実現施策の構築といったマーケティングのフレームワークを展開するビジネススキルのことです。データや事実関係に基づいて論理的に説明する技術は、経営会議などで承認を取る場合にも必要になります。

そして、もう1つは「クリエイティブなスキル」。やりたいことを形にした完成図を描く、実際にお客さんへ届けるための広告コンテンツを作ってみる、ウェブサイトのサンプルを作ってみるといったスキルです。このスキルが必要な理由は、机上の空論に見えがちなロジカルな要素を「面白い!」と惹きつけてサポートできるから。計画を述べ続けるよりも、「あたかもビジネスプランが完成しているかのような1枚の広告」がパワーを持つことがあるのだといいます。

谷中:ビジネスを実現するには、「ロジカルなスキル」だけではダメで、みんなを惹きつける「クリエイティブなスキル」も同じくらい重要だと思います。みんな「ビジネス」と言うと、ついプランの方ばかりをやろうとするんですが、ロジックを極めることとビジネスを立ち上げることは別物です。もちろんロジカルなスキルを、ある程度は素養として備えておく必要はある。けれど、自分でやりたいことを手書きでもいいからビジュアル化してみて、「これ面白そうじゃん」と思えることが大事。パッと見て完成形がイメージできて、面白いかどうか。

実際にリアルなビジネスを起こそうとするときには、出資者も、経営者も、それから自分も、結局は「面白いかどうか」「好きか嫌いか」で決めることも多く、決してロジックだけで判断しているわけじゃない。「クリエイティブなスキル」を活かすこの方法は、一緒にビジネスを進めていくパートナーを得るときにも有効です。誰かにアイデアを説明するときにも、エネルギーや熱意の乗り具合が違いますからね。

ビジネスの「定義」を突き詰めると、新たな選択肢が見えてくる

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ビジネスにはお金が付きもの。マネタイズに悩む多くのスタートアップ企業も多い中、どのように事業を継続していくかも問題です。この悩みに、谷中先生は「そもそもの『ビジネスの定義』を考えることで、事業の継続やマネタイズはできる可能性が広がる」と答えます。

谷中:「ビジネス化する」というとき、「売り上げてなんぼ」がよくあるイメージだと思うんですけど、その定義を「やりたいと思っている活動を持続的に成立させること」と捉えれば、別に必ずしもお金を介在させる必要はないんですね。特にソーシャルビジネスやコミュニティビジネスは、お金を介在させないでいかに回すかが大事なポイントでもあります。

例えば、お店を開きたいと考えた。そのときにコストをすべてお金で計上しようとすると、人件費、材料費、設備費などで何千万円とかかってしまう...けれど、もし資材調達の部分で、趣旨に賛同してくれる人を1人でも集めて「物品を提供」してもらい、リターンとして「そのお店を利用したイベントをやる時には協力します」というようにニーズのマッチングを行えば、お金を介在させずに事業が成立する。この「賛同してくれる人」が企業であれば、社会貢献や地域コネクションをつくりたいというニーズかもしれない。

だから大切なのは、いかに「やりたい」と思っていることを「求めている人」とつなぐか。このコミュニケーションがデザインできれば、ビジネスを成立させることができるんですよ。あくまで、大小問わなければ、ですが。

とはいえ、お金を生むのもビジネスにおける1つの醍醐味のはず。「いかにマネタイズするか」の観点でコミュニケーションデザインの仕方を伺うと、「その事業の定義を突き詰め、『誰に(Who)』の部分を考えますね」とのこと。ITやウェブで世界がつながる中、必要としている人はどこかに必ずいて、世界中のニッチな市場でも集められれば、ビジネスは成立するというのが谷中先生の考え方。

例えば、クライアントの案件では、「誰に届けたいか」を徹底的にヒアリングし、曖昧なイメージだったターゲットを、年齢や居住地、趣味趣向まで含めて、具体的な人物像として特定していく。そこから、告知するならば、どういったメッセージで、どのメディアで、どういうタイミングで出していくかを逆算するといいます。

そして、この作業をするには、どれだけ多くの人と関係性を持てているかが重要なのだそう。人も意識も常に変化を続けるものだからこそ、普段からさまざまな人に会い、生の情報に触れ、同じ時間を共有することで、「人はどういうことに関心を寄せ、どういうことを楽しいと思うか」を肌でわかるほど、仮説が得やすくなるからです。ビジネスは「実体験ベース」で始めようというポイントにも通ずる話ですね。

ワクワクするアイデアをノートにつけ続ける効用

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グローバル企業の新規事業プロデュースや、人材紹介やコーチングなどプロフェッショナルファームのコミュニケーションデザイン、地域プロモーションとしての「まちづくりの展示会(まちてん)」の総合プロデュースなど、常に10本ほどのプロジェクトを走らせているという谷中先生。「仕事になくてはならないツール」と見せてくれたのは18歳から書き続けているというアイデアノートでした。

谷中:文字や絵など、何から書きはじるかはいつもバラバラですし、ルールを作らないことがポイントかなと思います。ノートは罫線のないプレーンなものがいいですね。罫線に沿って書こうとするし、自由度も下がる気がしますから。書いたものはたいてい覚えていますし、書きためたものから「あのときに考えたコレとコレをつなぎあわせてもう1ページ作ろう」みたいに編集したり、再構築したりもするので、書き終わったノートをとっておくのも大事です。

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現在42冊目というノートたちは、イタリアやフランスなど、趣味や仕事で訪れた土地で買い求めたもの。ノートには事業のアイデアスケッチをはじめ、心に浮かんだ言葉、日々の気づき、70歳くらいまでの人生設計(!)など、さまざまなことが書き留められていました。自分がいま何を考えているか、言葉や絵にすることで見つめなおす効果もあり、また見返すことで新たな発見も得られそうです。

ビジネススキルを磨くなら「飲み会のコンセプト設計」から始めてみよう

さて、ここまで、ビジネスを作る上での「考え方」を教わりましたが、実際に進めていくのは自分自身。どのように個人のスキルを伸ばしていくべきなのでしょう。谷中先生が提案するのは「パラレル・スキル」を戦略的に伸ばしていくことです。谷中先生は「20歳ぐらいまでを『経験の時代』、20歳から32歳ぐらいまでを『ビジネストレーニングの期間』とし、それ以降は『実践フェーズ』で自分のビジョンを追求している」のだといいます。現在36歳という谷中先生は『ビジネストレーニングの期間』をどのように過ごしたのでしょう。

谷中:僕の専門スキルは30種類くらいあって、戦略コンサルティングをはじめ、クリエイティブディレクション、さらに細かくみれば、ウェブデザインや、一応プログラミングもできるのでシステムエンジニアのこともわかる。学生時代からビジネスライターとして執筆もして、写真や映像も撮ってきた。教育の現場で教えることも多かったので、講師も務めるし、ファシリテーターに徹することもあるし、教材開発のノウハウもある...と、こういう感じです。ある意味、自分の中に30人の専門家がいるイメージ。

ざっくりと分野で言うと、経営に関すること、メディアに関すること、教育に関することで、それぞれを同時並行にスキルアップしていけるようなキャリア設計をしたんですね。何か1つの職業だけでスキルを鍛えようとすると難しいので、パラレルキャリアで常に複数のものが走っている状態です。スキルを高めたいものが先にありきで、それに一番近い仕事は何かを考えて当てはめていきました。コンサルティングファームに属して戦略的コンサルティングを実践していたのも、経営部分のスキルを鍛えるのに一番いいと思ったということですね。

「この仕事によってどういったスキルが伸びるか」ではなく「将来やりたいことのスキルを伸ばすために仕事を選ぶ」という発想です。谷中先生は「そのように仕事を選ばないと、ブランドや知名度といったものに引っ張られて選択を誤ってしまうし、所属先である人事の裁量によって仕事が運任せになってしまう」といいます。とはいえ、なかなかそのように仕事に就くのも難しそうです。谷中先生は「仕事に限らず、地域の活動や身の回りのことなど、気軽に実践できる場所でやってみるのがいいですよ」と教えてくれました。

谷中:たとえば、身近で一番いい実践の場って飲み会だと思うんですよね。飲み会1つを企画するのも、コンセプト設計、収支計画、人員計画、集客などがあって、当日には現場のオペレーションをやって、最終的なアフターサービスもして、次の会にフィードバックでつなげるみたいな。そこには経営の要素が全て入ってるじゃないですか。だから、いきなり「ビジネスプラン書こう!」ではなくて、まずは飲み会からでも、とにかく実践の中で学ぶことが大切なんです。

短期集中で、谷中先生流「2つのスキル」を学ぶには

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飲み会などの身近な機会はもちろん、谷中先生がパラレルキャリアの中でスキルを磨いたように、実践的な環境でこそ本当のビジネススキルが身につくことは多いものです。その環境の1つとして紹介したいのが、谷中先生が講師を務める11月開講のBBT新講座「ブレークスルートレーニング」。時代に即した課題解決力を身に付けるため、実在する企業が社内で議論している最中の課題をトレーニングの題材に据え、その課題を解決するための新規事業案を提出する3カ月集中講座となっています。

講座では、「新規事業をデザインする技術」をテーマとした講義と課題提出を通じ、谷中先生が挙げた「アイデアをビジネスに変えるための2つのスキル」、ロジカルなスキルとクリエイティブなスキルの両方を学べます。最終的なアウトプットには、新規事業のマーケティングプランと、そのプランをビジュアル化した告知リーフレットの2つを作るのだそう。

初回の課題は、「スターバックス コーヒー ジャパン」の店舗開発本部で新店舗を企画するディレクターが出題協力。提出した事業案が優れたものであった場合は、実際にスターバックスで採用される可能性もあるといいます。つまり、学びの場であると同時に、ビジネスコンテンストの側面も持つ講座といえます。

谷中:独立起業したいという人をはじめ、「将来的に何かやりたい」という思いを形にするスキルを体得したい人にはぴったりだと思います。あとは会社で新規事業開発部門や経営企画部門に所属することになって、企画を立ち上げる担当者になった or ポジションについたものの、自分にはスキルが足りない、どうやったらいいかわからないと感じている人にもオススメです。現在は営業職やバックオフィスという人でも、「何かを企画化して提案するスキルを付けたい」と考えるならば、とても良い機会になると思います。

10月11日には、「突破力」をテーマに、この講座の公開を記念したカンファレンスが渋谷のシダックスカルチャーホールで開かれますので、こちらもぜひ足を運んでみてください。

インタビューの最後に、谷中先生は今回の新講座でも学べる、普段の仕事で役立つ「クライアントの課題をアイデアで解決する際のコツ」を教えてくれました。やはり、大切なのは「ワクワク感」を取り入れることなのだそう。

谷中:クライアントの課題に取り組むときにも、2段構えにすることがポイントです。単にクライアントからのお題だけを元に検討しようとすると、幅が広すぎて形になりにくい。そうではなく、クライアントから与えられた「前提条件」に、自分の関心軸での着眼点を入れて「ワクワク感」を注入するんです。そして、アイデアを形にするツールを使いながら「プランを作る」という流れです。

たとえば、課題が「新しいカフェをつくる」で、あなたが「ペット好き」だとすれば、カフェとペットを組み合わせて考えて、アウトプットに持っていく。そうすると、一気に課題を自分ゴトに変換できますよね。ここにロジカルなプランと、クリエイティブなビジュアルも付けると、すごくリアルになってくる。こうやって一通りの仕組みを学んでしまえば、次にまた別の企画をやるときにも、すぐに立ち上げができるはずですよ。

だからこそ、冒頭に引いた谷中先生の言葉にある通り、アイデアをビジネスにすることは「誰にでもできる」し、「その人にしかできないことが必ずある」のでしょう。なんだか、仕事が今より楽しくなりそうだと思いませんか。

BBT新講座|ブレークスルートレーニング(Bトレ)

(文・聞き手/長谷川賢人 写真/廣田達也)