ニューヨーク・ブルックリンに住み、アメリカ文化を追い続けてきたライターの佐久間裕美子さんが今年出版した『ヒップな生活革命』(朝日出版社)は、アメリカ発で進化する「生き方の革命」をレポートした一冊です。編集長インタビュー第三弾は、アメリカ発の「ヒップ」なムーブメントについてお聞きしました。
前回お届けした前編に続き、今回は後編をお届けします。

ライター。1973年生まれ。1993年のスタンフォード大学短期留学中に、サンフランシスコでジャム・バンドの英雄ジェリー・ガルシアのライブを体験し、自由の国アメリカに暮らそうと決める。1996年、大学院終了と同時にニューヨークへ。新聞社のニューヨーク支局、出版社、通信社勤務を経て、2003年に独立。サブプライム金融危機を受けて、インディペンデントのメディアを作りたいと、2012年、『PERISCOPE』を友人たちと立ち上げる。2014年、東京五輪招致の請負人、ニック・バーリーに取材し、『日本はこうしてオリンピックを勝ち取った! 世界を動かすプレゼン力』(NHK出版)を翻訳・構成。これまで、アル・ゴア元副大統領からウディ・アレン、ショーン・ペンまで、多数の著名人や知識人にインタビュー。『BRUTUS』『&プレミアム』『VOGUE』『GQ』など多数の雑誌に寄稿している。


注目度が増しているポートランドの存在感
米田:もう1つお聞きしたいのは、よく日本でも耳に聞くポートランドの動きです。佐久間さんが一番、ポートランドって面白いなと思われたのはどういうところですか。 佐久間:まず、消費税がないんです。文化的に進んでる場所っていうのは税金とかって高くなりがちなんだけれども、ポートランドはそうはなっていなくて、税金を抑えることに成功していて、かつ、そこそこ街としての機能も整っていて、便利で住みやすい。そこがポートランドの一番の強みですね。起業をするときに一番やりやすい場所でもあります。あとは、農業や林業と近い場所で食べものがすごくおいしい。自然が近いのでアウトドアもやりやすいですし、アメリカの中でユートピアという言葉が可能だとしたらポートランドは結構いい線いっています。でも、ポートランドとデトロイトを比べたときに、デトロイトのほうが文化的には面白いということもあるんですね。 米田:へえー。そうなんですか。 佐久間:ポートランドってご飯もおいしいし、クラフトみたいなことではものすごくやりやすいから進んでるけれども、意外と音楽とかはそんなに面白いもの少なかったりします。やっぱりアメリカで一番面白いところっていうのは、ニューヨークみたいな場所なんです。というのは、ブルックリンは隣にマンハッタンがあるということが大きなアイデンティティの軸になっているんですね。だから、ポートランドと同列には語れないっていうところがあるんです。ニューヨークという街の極端な貧富の差とか、街のエネルギーみたいなものが、おもしろい創作の温床になる。デトロイトもしかりです。
逆に、ポートランドのように、人々の満足度が高い地域では、文化的におもしろいものは生まれにくいのかなと思います。

食、車...身の回りから始まる新しい動き

電気自動車やハイブリッドカーも素晴らしいと思うけど、普通のアメリカの一般庶民という人たちに届かないものって、やっぱりちょっと無理があるし、社会を変える変革の原動力にはならない。でも、もうちょっと違う形で、自分の手に届く範囲でできるようになってきたということじゃないかと。
米田:しかもお金をかけずに。 佐久間:そうですね。だから、昔は有機農業で採られたものは絶対高いって言われてたけども、今は、例えば、CSA(Community Supported Agriculture)だったら、そこまで高くなくても割といいものが食べられます。自分のバルコニーでハーブや野菜を栽培することだってできますよね。一人一人が身の回りから改革を起こしていく時代
米田:リーマンショックで懲りた、とはいえ、住宅や株も含めて、いわゆるバブル的なものをもう1回起こそうみたいな、暗躍とまで言わないですけど、そういう動きも当然あるわけじゃないですか。 佐久間:全然ありますし、「全く反省してないな」って思うこともよくあります。それはアメリカみたいな国ではなくならないと思います。 米田:資本主義であればなくならない。でも、そこと一個人が幸せに生きていくためにどう折り合っていくのか、みたいなことを多くの人が考えてるのが現代だと思うんですよね。 佐久間:例えば、私が銀行口座を開きたいと思って、ここの銀行はどういうことをしているか?という判断をする。投機的なことをやっているのか、途上国で人権蹂躙をやっているのかみたいなことがもっと明確に分かるようになってきた。リーマンショックが起きたときと、今の違いっていうのはまさにそこです。ちょっと調べれば、自分がお金を預けている銀行がどういう方針を持って、どういうことをやって、社会貢献をしてるかっていうのはもう分かる時代になっていて、調べるためのツールはいくらでもあります。そういうことを個人個人が1人の力はないかもしれないけど、私のお金はここに預けたくはないっていうようなチョイスをできるようになってきた。それが結局社会の大きな変革につながるかどうかっていうことは、これから見ていかないと分からないけれども、例えば、ウォルマートみたいな企業がメイド・イン・アメリカのものにこれだけ投資します、って言ったりするっていうことは、国民の一部でそういう価値観が生まれてきていることが明らかに市場にも影響を及ぼすようになってきたということです。
やっぱり「change.org」のようなサービスができて、悪いことをしている企業に対しての声が上がるようになってきているっていうところが、市民の声が届きやすくなっているっていうことの一例としては言えるなと思います。
米田:もう一歩踏み込んで言えば、大げさに市民が政治参画や社会運動をするっていうことじゃなくて、もっと生活の中で自分が何を選びっていうところに社会的な意味があるというか、この会社が好きかどうか、良いことやってるところにお金を預けたいとか、そういうところからものを買いたいっていうことですよね。 佐久間:まさにそのとおりです。うちの近所で人権蹂躙している工場があって、それを政治家に言ってもそれを直すのにどれだけ時間がかかるか分からないけども、じゃあchange.orgで署名運動を始めて拡散に成功したらそれがとんとん拍子に解決した、っていう。テクノロジーによって、一消費者は無力ではないっていう考え方が広がりつつあるんじゃないかなと思います。 米田:アメリカの大統領選、アメリカの経済、アメリカのテクノロジーが世界を牽引することは否定できない。でも、数年前まで漂っていたアメリカに対する失望感から、アメリカ人も少しずつ変わり始めていることが佐久間さんのお話で知ることができました。もし良ければ、ライフハッカーでもこの続きをいつか書いていただけるとうれしいです。 佐久間:はい、機会があればぜひ。(文・聞き手/米田智彦)