悩みや苦悩は人それぞれですが、多くの場合、対人関係に起因するものです。あるいは、過程や職場などの環境の要素も考えられるでしょう。(中略)現代社会に生きる私たちにとって大事なことは、まず自分自身をよく見つめて、目の前の現実に集中することです。相手や環境を変えるのではなく、自分自身が現実世界との関わりを踏まえながら変わっていくことです。(「はじめに」より)

不安、ストレスが消える心の鍛え方 マインドフルネス入門』(大田健次郎著、清流出版)の著者は、こう記しています。だからこそ、「大事なことに心を向ける」マインドフルネスが重要だということ。では、私たちは日常生活のなかで、仏教に由来するというその考え方をどう捉えればいいのでしょうか?

ヒントになりそうな2章「『欲・怒り』を乗り越えるために」から、「仕事中のマインドフルネス」に焦点を当ててみます。

「することモード」から「あることモード」へ

『マインドフルネス認知療法』(Z・Vシーガル他著、北大路書房)には、「することモード」と「あることモード」があると書かれているそうです。

「することモード(「駆り立てられるモード」)」は、ものごとが望ましい状態でないと心が判断したときに引き起こされるもの。人間は不一致(こうありたいという状態と、現状の差)を解消させようと行動するので、そういうときに「することモード」に入るということ。不一致が解消できれば「することモード」は解消されますが、とるべき行動がはっきりしない場合や、行動がうまくいかなかった場合には、不一致に悩み続け、そこにとどまることに(「苦悩が続く反応パターン」)。」

対する「あることモード」は、状況を変えようとせず、あるがままを「受容し」、そのままに「させておく」こと。現状と理想とのギャップを埋めようと意識する「することモード」とは対照的に、特定の目的を達成しようとはしない。つまり「することモード」が現在・将来・過去について考えるのに対し、「あることモード」は「いまここ」を直感的、即時的、親和的に体験することだというわけです。

駆り立てられた気持ちで仕事をすると「することモード」になるのは、不満を観じることが多くなるから。一方、「あることモード」で活動した場合、その時間はその活動のためにあるということになります。目標を邪魔するものは不満をもたらすものではなく、その瞬間にすることの選択肢のひとつにすぎないという考え方です。(63ページより)

仕事中の自分の様子を観察する

仕事を「やらされている」と感じると、仕事のスムーズな進行を妨げるさまざまなできごとに対して不満が生じて当然。能率も上がらず、人間関係や処遇などへの不満が大きくなったりもします。仕事そのものと直接関係ないことについて、あれこれ考えを渦巻かせてしまいがちだということです。

しかし、仕事を「なすべき使命」だと受け入れられれば、無駄なことを考えず仕事に集中することが可能。進行を妨げるできごとが起きても、いくつかの選択肢のなかから最善の解決策を選んで行動すれば、経験を成長の機会にしていけるわけです。(65ページより)

3つのモード

また、「衝撃的反応モード(価値崩壊モード)」「観察モード」「価値実現モード」という3つのモードも存在し、これらについて理解しておくことも重要なのだとか。

できごとに対して不満を感じると、仕事を進めながらもネガティブな考えをめぐらしがち。なにかを解決できるわけでもなく、仕事の効率が落ちるだけ。これが「衝撃的反応モード」。このモードに入ると不満なことをあれこれ考えすぎ、仕事が中断することも。ミスも多くなり、ひとつの業務に時間がかかってしまうといいます。

「観察モード」は、不満足な状況に気づいたとしても衝動的な行動へは移らず、目前のことをよく観察し、深いなことにとらわれず(ここまでが「あることモード」)、仕事のことをよく見て、仕事の目的を失うことがないように進めるというスタンス。

ところで仕事には、週、月、年単位で「すべきこと」があります。そして大きな目標を目差すプロセスという尺度で捉えても、「いま」の瞬間には多数の小さな「すべきこと」があるはず。そこで、うまく選択し、選んだ目的に集中し、執着せず、時間につれて移動し、復帰し、小さな複数の目標を遂行して、長期的な大きな目標を達成していくことが大切。これが「価値実現モード」。(66ページより)

不安に押しつぶされそうなときは

夜、ベッドで目を閉じていると、さまざまな不安や雑念が押し寄せてきて眠れなかったというような経験は誰にでもあります。そんなときには、じっくり深呼吸をして、思考、不安、身体反応をよく観察してみるべきだと著者は説いています。

そして、「思考(不安)は自分の頭のなかでつくったものであり、現実ではない」「心配しているような最悪の事態は起こらない」と自分に言い聞かせる。さらに「マインドフルネス呼吸法」を実践すれば、少しずつ、不安に陥りがちな心理的反応パターンを変えることができるようになるといいます。

なおマインドフルネス呼吸法(ゆっくり呼吸法)とは、細く長くゆっくり行きを吐き、自然にすばやく吸う方法。目を開けて行なうのが特徴だそうです。(72ページより)

1.ゆっくり呼吸法(数えない呼吸法)

5~10秒で、ひと呼吸(吐く方を長く、吸う方を短く)。心の観察を目的としたもの。

2. ゆっくり呼吸法(数える呼吸法)

ゆっくり呼吸法(数えない呼吸法)を行ないながら、数を数える方法。集中力の向上や思考の抑制のスキル向上に適しているといいます。

(99ページより)

その歴史から具体的な実践方法まで、マインドフルネスについてていねいに解説された、わかりやすい内容。日々の不安やストレスを解消するために、きっと役立つはずです。

(印南敦史)