幸せな瞬間を残しておくために自分撮りしたいなら、死ぬほど行きたかった素敵なコンサートで、あるいは長い付き合いの友達と出かけた記念すべき夜に、携帯に手を伸ばすのではないでしょうか。何でもない日にお茶を飲んでいるところや、知り合いとおしゃべりしているところを撮っておこうとは思わないでしょう。でも、自分が本当に幸福な姿を見たいなら、もっと平凡な写真を撮らないといけないようです。
記録しておく価値のあるものとは
専門誌『Psychological Science』に発表された最近の研究によれば、人は平凡な瞬間を思い出すことで幸せを感じるそうです。ハーバード・ビジネス・スクールのTing Zhang准教授が行った研究は、135人の大学生に夏の始めにタイムカプセルを作らせることで、先々見たら喜びを感じるだろうという期待感とカプセルを開けたときの実際の感情がどのように結びついているかを掘り下げて調べるものでした。このカプセルには、学生が聴いていた歌や自分で書いたレポートの一部や日常会話を集めたもの、といった、学生生活のごく普通の断片が入っていました。
学生たちは後日カプセルを開けるとき、日々の生活の平凡なことでそれほど喜びを感じるとは期待していませんでした。しかしカプセルを開けて実際に記憶の小道をたどる時が来ると、数か月前の自分の生活を垣間見ることこそが、心打たれる要因だとわかったのです。つまり、ごく普通の日常にこそ、喜びを感じる要素があるということです。
この研究チームの得た結論はなんでしょう?
それは私たちは心の中にとっておくべき瞬間が分かっていないということです。
毎日を味わって過ごす
別の研究で、日々の退屈な部分を思い出したり、味わったりしないことが原因で、私たちはどれだけ幸福感を失っているかを調べた研究もあります。この研究の参加者たちはパートナーとの平均的な日々を回想することで感じられる喜びの大きさを著しく低く見積もっていました。特別なバレンタインデーの思い出の方がずっと幸せを感じられると誤解していたのです。
こうした研究結果は、自分撮りの撮るタイミングを変えるよう提案していますが、もっと簡単な変化で効果が得られることも指摘しています。それは、気にも留めずに過ぎ去ってしまう日々の細部にもっと注意を払うことです。
「人は数か月前のプレイリストや隣人との冗談を思い出すと、とても嬉しくなるのです。実際にプレイリストを作ったり冗談を言ったりしているときは特に意味のあることとは思っていなかったとしても、です」とZhang准教授はコメントしています。「この研究は、今を当然のものと考えず日常生活の平凡な瞬間を記録することの重要性に光を当てています。将来自分でそんな記録を見ると、喜びを感じるのです」
最後に、自分撮りとSNS中毒者への警告を一言:「スマホでとにかく写真を撮ればいい」と考えるのはやめたほうがいいです。過剰な自撮りも良くないのです。瞬間をとらえようとすると、その瞬間が楽しめなくなりがちです、とZhang准教授は指摘しています。大切な瞬間は注意深く選択して味わいましょう。憑りつかれたように写真を撮ることのないように。
Jessica Stillman(原文/訳:春野ユリ)
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