1991年のバブル崩壊以降、失われた10年といわれる景気後退期は、2002年を底として一応は終結したとされています。そうした世間の景気動向にさらされることなく、この17年間、プロギャンブラーとして着実に活動を続けているのが、今回お話を伺うのぶきさん(42歳)です。
1971年東京生まれ。バックパックひとつで世界のカジノを渡り歩き、"神の領域"といわれる「年間勝率9割」を達成したギャンブラー。2014年8月、初の著書となる『勝率9割の選択』(総合法令出版)を上梓。本書の中では、プロギャンブラーという特異な生き方、そして世界82カ国を旅した経験を活かして「勝ち続けるための選択術」「運をマネジメントする方法」「メンタルを強くする手段」などについて指南している。
のぶきさんは、大学卒業後、アルバイトで貯めた1000万円を元出に、ビジネスとしてギャンブルをスタート。以来17年間、世界82カ国のべ250カ所でカジノをわたり歩き、ポーカーをはじめとする"ギャンブル"で安定的に生計を立ててきました。
勝率の年間自己ベストは9割(2008年9月~2009年9月)を記録し、この4年間の年間勝率は、80%、83%、86%、90%と堅調に推移。最近ではその特異な経歴が買われ、企業の講演や書籍執筆の依頼が殺到しています。そんなギャンブルというシビアな勝負の世界に生きるプロギャンブラーののぶきさんならではの仕事術を、全4回にわたってお送りします。初回の今回は、「『レベル3の視点』で働くこと」について。
僕は、実際のギャンブルの現場と同じように、生活のあらゆる状況においても、常に「レベル3の視点」で働くことを心がけているんです。
まず"レベル1"は、「自分視点で動くこと」を指します。あくまでも主眼は自分のみとなり、自分のことに対して一生懸命に努力はできますが、あくまでも自分のことだけで精いっぱいというレベルを指します。
"レベル2"になると、「相手を読む視点」が加わります。たとえば、サラリーマンであれば、仕事で関係ある相手を知ろうとすることがこれに当たります。ポーカーなどのギャンブルの現場でいえば、相手のカードを読むことです。勝負で勝つためにこれは絶対必要ですし、サラリーマンの場合、社内や取引先で一緒に仕事をする人がどんな性格で、どんな思考能力をもっているかを理解しようとするのは必須です。そのうえで、いろいろ対策を講じられる。つまり、"彼を知り、己を知れば、百戦殆うからず"(孫子)ということですね。
プロギャンブラーが相手を読み解く"レベル2の視点"を発揮するとき
ギャンブルの現場では、プロなら30分以内で、国籍もバラバラの10人の相手の手札だけでなく、相手自身をプロファイリングし終えます。会話もなく、ポーカーフェイスであろうが、読み切れるかがビジネスの勝率を劇的に上げます。たとえば、僕はまず、相手の顔のシワがどこにあるのかを見ます。眉間にシワが多ければ怒りっぽくて短気といった大体の性格が読めるからです。それから体格も見ます。痩せていれば、ストイックでまじめなタイプが多いですね。痩せてなければ、おおらかで、いい意味で自分の人生を楽しんでいる傾向が強いです。それから身なり、付けている時計、持っている車のキーなどで大体の懐事情を読みます。さらに、「どこから来たの?」などと話しかけてみて、相手のコミュニケーション能力も測ります。受け答えが鈍い場合、ギャンブルに対してオタクっぽく研究していたりして、強い場合もありますね。
サラリーマン同士の場合、まずは「どんな仕事をしているの?」という質問になると思いますが、そのときに「しがないサラリーマンです」とネガティブワードを含め返ってきた相手は、今の自分の仕事に納得されてない人です。世界を17年間も周って悟ったことは「日本のサラリーマンは世界最高峰のクオリティー」ということ。もっと胸を張っていいのに、謙遜しすぎだと思っています。ネガティブなイメージで自己紹介してきたのなら、その相手の愚痴を聞いてあげることで、信頼関係を築き始めます。逆に、仕事ができる、もしくは仕事に対して情熱がある人は、目が輝いていますし、「大変だけどがんばっています」というポジティブワードを含めて返ってきます。それなら、こちらもポジティブな「『やりきってるみたいなオーラ』がありますね」「どの辺ががんばりどころなのですか?」とお伺いしつつ、その返答に「ステキ」と承認して信頼関係を築き始めます。
勝ち続けるために必要なのは、相手からの評価を読む"レベル3の視点"
プロを目指すなら、このレベル2までは、できて当然のレベルとなります。ただ、それだけではギャンブルの世界では勝ち続けられないんです。そこで、"レベル3の視点"が必要になるわけです。
"レベル3の視点"は、自分がどういうふうに相手から見られているかを知ることです。相手が自分についてどこまでわかっているか、どう捉えているか、またはどう評価されているか、どこまで好意的なのか読むことを指します。
とくに、日本人の場合、わりとこのレベル3の視点を持っている人は多いと思います。その場の空気を気にしたり、客観的視点で自分を見ようとしたりする傾向が外国人よりも強い気がします。そこは日本人の強みだと思うんです。サラリーマンなら、自社のサービスや商品がお客さんにどれだけ喜んでもらえているかという視点を常に意識し続けていくことです。そこで、相手の評価以上のサービスや対応をする努力をする。そうした良い意味でのギャップをいかに増やしていけるかというのがビジネスの勝率を上げます。相手は物質やサービスにお金を払ってるんじゃない。多くの人は「こちらのこころにお金を払っている」んです。
ギャップを利用したお金を生む交渉術とは?
僕は、"レベル3の視点"を逆手にとって、カジノとタイマン勝負してた時期は、バカンスで着るような服装で通っていました。水の入ったバドワイザーを片手に、女性を両側にはべらせて...というようなカモフラージュまでは僕はしませんが(笑)、誰が見ても、日本人の普通の観光客のような感じで行きます。カジノ側からしたら、素人同然の"いいカモ"を装うんです。見た目のギャップが結果的にお金を生みだします。
さらにギャンブルの現場では、たとえば僕が9点のカードを持っているのに、相手は僕の策略へはまり僕のカードを5点だと読み違えている場合、僕は5点のカードを持っているように演じ切り、相手をうまく引き込んで、お金を最大限に引き出します。
これは一般のビジネスに置き換えると、営業マンがよくやる交渉術なんですよ。たとえば、クライアントに提示した見積もりの金額が、自分にとっては十分おいしい条件だとしても、「そこまでおっしゃるならこれで請けますね」と、嫌々ながらがんばる姿勢を見せることで、次回、よりよい条件を引き出しやすくなるわけです。
クライアントにおいしい条件をのんでもらって、そこで手放しで喜んでしまうと、次回、同等の仕事の依頼があったときに、「じゃあ前回は100万円だったけど、今回は80万円でもどうにかいけるんでしょ」と、条件が下がってしまうことがあります。本当はそれが十分おいしい条件だとしても、「それでは○○さんだからなんとかこの金額でやらせていただきます。他の人には言わないでくださいね」という話に持っていくわけです。
ビジネスでは一番の基本となる"レベル3の視点"を磨け
通常のビジネスの現場では、"レベル3の視点"が最重要のひとつです。言われたことをただやっておきましたよ、はい、納品完了というだけではダメだということです。手紙を添えるだけでも違うだろうし、相手を知り、相手にとってさらなるプラスな気持ちを提供できるかが重要です。だからこそ、相手の想定する2歩も3歩も先のことをできる限り想像して、「おもいやりのこころ」にて対応することで、ビジネスの正のスパイラルを生み出していくんです。それが「レベル3の視点」にて働くことで得られる威力です。
(庄司真美)