いい人は、すぐに他人を信用する。疑うのは悪いと思っているからだ。詐欺にだまされるのは、いい人なのだ。だが、世の中はそんな善人向きにはできていない。そんな世の中で、上手に生きていくのはどうすればいいのか。

自分をさらけ出すクセをつけることだ。つまり、自分の悪もちゃんと人に見せる。いい人には、これができない。(18ページより)

悪人のススメ いつまで「いい人」を続けるのですか』(川北義則著、KADOKAWA/中経出版)で著者が言いたいことは、第1章「視点を変えれば、善悪も変わる」内のこの部分に集約されています。いわば、自分らしくあるためには、悪い部分をも隠さず生きるべきだということ。そして、そんな姿勢は仕事にも活かせるといいます。第5章「仕事ができる男に『いい人』はいない」を見てみましょう。

「努力は認めて」は戯言にすぎない

何かをやって結果が出なかったとき、「努力だけは認めてください」という人がよくいる。たいていは善人だ。そういうとき、「何いってんだ。甘ったれるんじゃない」などという上司は悪者にされる。だが私は、上司の味方だ。(114ページより)

著者がこう一刀両断するのには理由があります。努力を認めてくれというのは、結果が出せない自分のダメさ加減を認めたくないということだから。努力というのは、相手が「やめろ」というまでやるもの。自分からやめておいて、結果も出ていないのに「努力だけ認めろ」など、とんでもない話だというわけです。

努力とはプロセスで、プロセスが結果を左右する。よい結果が出ないのは、プロセスに問題があるから。それを認めてしまったら、次の同じことになりかねないからこそ、仕事ではどんな場合でも結果重視でいかねばならないと著者は言います。(114ページより)

敵はいた方がいい

勉強でも仕事でも、よきライバルが出現すると、それまで怠けていた人間が急にがんばるようになるもの。つまり自分の成長のためにはライバルが必要で、だから敵はいた方がいいというのが著者の考え方。

ただし問題は、敵の扱い方だとか。一口に敵といってもレベルはさまざまなので、そのレベルを正確に把握することが肝心だというわけです。だから、能力において自分と同等か、優れているか、劣っているか、それらを見極める努力を怠ってはならない。そして自分の能力とくらべ、どうすれば勝てるか戦略を立てる。自分の長所を伸ばし、相手の弱点を見つける。分析とシミュレーションが大切だということです。

そしてもうひとつ大切なのは、勝ち方と負け方。勝負は勝たなければ意味がないけれど、どんな戦いも永遠に勝ち続けることは不可能。したがって、負け方も重要になってくるというわけです。負け方についてはさまざまな考え方がありますが、いずれにせよ、自分の身のまわりを味方だけで固めるのではなく、ある程度の敵を配しておくのがいいと著者は言います。(120ページより)

ものわかりは、よくなくていい

多くの人が、ものわかりのよい人になりたがるのは、その方が人から好かれるし、人間関係もうまくいくから。しかし、ものわかりのよい人には、大きな落とし穴があると著者は指摘しています。ものわかりがよいとは、相手にとって都合のいい人間になること。人の気持ちを理解し、要求を聞いてあげる。そうすれば相手に喜んでもらえるし、自分も達成感を味わえる。けれど、それは妥協であり、悪く言えば相手の言いなり。

「ものわかりのよい人だ」と褒めてもらえるたびに、一歩後退、二歩後退、無限に後退していって、最後にはなめられることになる。それでも、いいのか。(124ページより)

では、どうすればいいのか。それは、ものわかりの悪い人になることだとか。納得していないのに、納得したようなフリをしない。おかしいことは、おかしいとちゃんと指摘する。「ここは妥協してもいいな」と思うときでも、あえて一度は妥協しない態度を見せる。ものわかりが悪いと人から嫌われ、敬遠されるかもしれないけれど、そこが狙い目なのだとか。(123ページより)

職場で親友をつくるな

著者は仕事場を、戦争の最前線のようなものだと思っているのだそうです。命のやりとりこそないにせよ、生きるか死ぬかの経済戦争の戦場であり、同僚、上司はともにビジネス戦士。同僚は戦友で、上司は上官だという考え方。そんな気持ちで取り組まないと、よいビジネス戦士にはなれない。だからこそ、職場を仲良しクラブのように思っている人たちに対しては「甘ったれるな!」と言いたいのだとか。

戦友は、戦う目的で集まってくるもの。ひとりひとりが役割を持ち、過不足なく目的を果たさなければならない。そんな場所で、友情を深める暇などあるはずがないというわけです。(126ページより)

あえてヒールになってみる

誰もが、人から悪く思われるよりはよく思われたいと思うもの。しかし、いまの時代は善悪や敵味方がはっきりせず、勧善懲悪ドラマがつくりにくい。ヒールが一転してヒーローになり、ヒーローがヒールになるというようなことが簡単に起きる時代だからこそ、悪役、ヒールも悪くないと著者は言います。

たとえば、進行する企画を、上役をはじめとする全員が評価している。そんななか、自分だけはその計画が「ダメになる」という強い見通しを得たとする。そこで、ひとりで異論を述べてみる。空気を大切にする日本の組織において、それは怒りの対象。しかし、結果的に計画は予想どおりポシャる。そうなれば、評価は黙っていても上がるというわけです。(136ページより)

外国のビジネスマンにとって、このような策略は日常茶飯事。当たり前だが、日本のビジネスマンはそんなことすら考えもせず、戦略をめぐらすタイプの人間を「腹黒い」という。

だが、これからのビジネスマンは、善人タイプからは「腹黒い」といわれるくらいでちょうどいい。そうでなければ競争社会で生きていけない。(中略)いつも善人でいては、なめられるだけである。(139ページより)

このように、著者の文章表現はときに攻撃的ですらあります。が、それが「読者に思いを伝えたい」という信念によるものだということがわかるからこそ、強い説得力を感じさせてくれる。だから、ガツンとショック療法的に頭をブラッシュアップしたいときには最適な一冊だといえます。

(印南敦史)