私はこの12カ月間、とにかく生産性を高める方法を追求したくて、数えきれないほどの生産性実験を行ない、世界でもトップレベルの生産的な人々の話を聴き、数々の生産性に関する学術文献に目を通してきました。この記事では、その中で学んだことを紹介したいと思います。経営学の学士として大学を卒業したのが昨年の5月。2社から素晴らしい仕事のオファーをいただきましたが、私にはやりたいことがあったので、どちらもお断りしました。そして、2013年5月1日から2014年5月1日までのちょうど1年間、生産性にまつわるあらゆることを貪るように試しました。その過程で学んだことを、「A Year of Productivity」に毎日書き溜めていったのです。
1年間で197本の記事を書き、アクセス数は100万件を超え、私の長い旅は終わりを告げました。
生産性を追い続けた1年間の締めくくりとして、この旅で学んだ教訓のうち、重要なものをまとめることにしました。以下に、そのトップ10を紹介します。
1. レバレッジの高いタスクから取り掛かる
人生にはさまざまな領域がありますが(心、身体、感情、人間関係、キャリア、お金、娯楽など)、それぞれの領域における価値の大部分は、数少ないタスクによって決まっています。例えば、職場であなたが雇用主に貢献している価値のうち8割から9割は、2~3種類の活動によるものであることが多いのです。
もっと多くのことを達成したければ、人生の各領域について、レバレッジの高いタスクを特定し、それに取り組むこと。それらは、あなたがかけた時間、エネルギー、集中力に対して、最大のリターンをもたらしてくれるのですから。
2. ありふれた3つのテクニックこそ効果的だった
古い言い伝えの背景には、非常に強力な真実があります。その力はあまりに強いため、何度も何度もそれを繰り返さなければならないような気がしてしまうのです。これは、生産性のアドバイスでも同じです。
私はこの1年間、数えきれないほどの習慣と生産性向上テクニックを生活に取り込んできました。でも、けっきょくのところ、最も効果的だったのは、次の3つだったのです。
- よく食べる
- よく寝る
- 運動をする
これらのアドバイスは、あまりにもありふれていて、あまり意味を持たなくなってしまっています。でも、時間、エネルギー、集中力をうまくマネジメントするための数百ものテクニックを試した私に言わせれば、よく食べ、よく寝て、運動をする以上に生産的になれる方法は何もありませんでした。
3. 全体的な生産性向上アドバイスには常に疑問を持つ
よく食べる、よく寝る、運動をする、瞑想するなどのアドバイスは、ほとんどの人に効果を発揮しますが、どんなルールにも例外は存在します。
もっと効果的な方法がほかにあるのであれば、先人の知恵に縛られる必要はありません。早起きしたらかえって生産性が下がるという人は、遅くまで寝ればいいのです。朝一に重要なタスクに取り組むよりもメールの返信をした方が生産性が高まるのであれば、そうすればいいのです。
生産性のアドバイスや先人の知恵の背景には、核となる事実があるものです。でも、すべての生産性テクニックがあなたにとって効果的であるわけではありません。考え方は人それぞれですし、優先順位も人それぞれなのです。だから、100%の人に100%のタイミングで効果を発揮するテクニックなど存在しないのです。
もっと効果的な方法がほかにあるのであれば、先人の知恵に縛られる必要はありませんし、縛られるべきではありません。
4. よい習慣を身に付けると無意識のうちに生産性が高まる
生産性を高めるやり方として、新しい生産的な行動を習慣にしてしまう方法があります。そうすれば、無意識のうちに身体が動くようになるのです。
『習慣の力』の著者、チャールズ・デュヒッグによれば、私たちの1日の行動のうち40~45%は、習慣として無意識のうちにやっていることなのだそう。習慣の確立は容易ではなく、新しい習慣を根付かせるのに、数カ月かかることもあるでしょう。でも、ひとたびそれが習慣になってしまえば、気付かぬうちにレベルが上がって、生産性を高めることができるのです。
私の場合、毎朝5時半に起きることを習慣にするまでに、数カ月が必要でした。でも、すっかり習慣になってしまった今、早起きは私にとっての根本的な習慣となっており、意識しなくても勝手に目が覚めます。また、新しい食事療法を生活に根付かせるのには、数週間かかりました。でも、それ以降この新しい食習慣は、日々の複雑な生活の一部としてすっかり定着しています。
新しい習慣の確立は簡単ではありません。特に、自分の行動を変えようと決意するまでにたくさんの意思が必要な場合はなおさらです。でも、ことが進むにつれていろいろなことがラクになってきます。そして、いつの間にか生産性が高くなっていることでしょう。
5. 生産性の3つの要素:時間、エネルギー、集中力
プロジェクトが終わるころには、私が書いている記事は、3つのカテゴリーに分類できることに気がつきました。時間管理、エネルギー管理、そして集中力管理の3つです。
日常的に生産性を高めたいなら、これら3つの要素が絶対に不可欠です。エネルギーと集中力は十分なのに時間管理がうまくできない人は、最適なことに取り組めず、あまり多くのことを実行できません。時間管理がうまくてエネルギーがあふれていても、集中力が散漫で、すぐに先延ばしをしてしまう人は、あまり多くのことを実行できません。レーザーのような集中力を持ち、時間管理にも精通しているのに、自分のエネルギーをうまく管理できない人は、もたもたしてしまい、あまり多くのことを実行できません。
生産的な人とは、上記3つの要素をうまく管理できる人なのです。
6. 唯一無二の秘訣など存在しない。やり方は何百通りもある
生産性を高める絶対的な秘訣があるとするなら、私の1年間の実験では、そこにはたどり着けませんでした。
その代わり、時間、エネルギー、集中力を管理するための方法は、何百通りも見つけることができました。そのうちの100個については、「私の好きな100の戦術」(英文記事)としてまとめています。
ひと口に生産性と言っても、そのコンセプトは総合的なものなので、相互に絡まり合った複数の要素の解釈によって、特徴が決定づけられます。数千とは言いませんが、数百もの要素が、あなたの毎日の行動に寄与しているのです。そのひとつひとつの要素が、時間、エネルギー、集中力のマネジメントに関わってきます。
生産性を高める唯一無二の秘訣はありません。やり方は、何百通りもあるのです。
7. がんばり過ぎは生産性を下げる
プロジェクトを進める中で、がんばり過ぎや働き過ぎは生産性を下げることに気がつきました。
生産性実験として、週に90時間労働を1カ月間試してみました。具体的には、1週間は90時間働き、次の週は20時間というサイクルを、交互に繰り返しました。その結果、90時間の週と20時間の週で、成果があまり変わらなかったのです。理由はいたってシンプル。タスクにかけられる時間が限定されている場合、短い時間でできるだけ多くのエネルギーを投入しようと努力するので、制限時間内にタスクを終わらせることができます。逆に、時間がたくさんあると、先延ばしをしてみたり、レバレッジの低いことをしてみたりして、無駄な時間を過ごしてしまうのです。
がんばり過ぎたりエネルギーを投入しすぎると、何が起きてしまうのでしょうか? それは、バーンアウトです(面白いことに、集中力の場合は、どんなに投入しても逆効果はありませんでした)。エネルギーは、仕事に取り組むための燃料だと私は考えています。運動や休憩、よく食べること、効果的なストレス解消法への投資などでエネルギーレベルを高めることができますが、それをしないまま仕事にエネルギーを注ぎすぎると、燃料切れとなり、バーンアウトが待っているのです。
がんばり過ぎや働き過ぎは、生産性を低下させます。その理由は、生産性の3大要素のうち、時間とエネルギーという2つのリソースが奪われてしまうからなのです。
8. やる気を実感できる方法は、そのタスクに取り組む理由を自覚すること
やる気のある(かつ生産的な)人は常に、自分のしていることの意味を自問しています。
自分の価値観や信念に合致しないことに集中しようとしても、短期間なら生産性を維持できるかもしれませんが、長期的には、やっていることに満足できず、生産性も下がってしまいます。ここで大事なのが、自分の価値観を知り、やる気を引き出すものは何かを把握すること。そして、自分の価値観に合ったタスクと責任を担うことです。
いつも忙しくしていて、たくさんのアウトプットを出しているだけでは、生産的とは言えません。いえ、むしろ正反対だと私は思うのです。生産性とは、どれだけやったかではなく、自分にとって大事な成果を達成できたかどうかなのです。
自分がそれに取り組む理由を自覚できていれば、やる気も生産性も、グンと伸びること間違いなしです。
9. 自分に優しくできなければ、生産性を高めてもしょうがない
「A Year of Productivity」では、自分に優しくすることの大切さを何度も書いています。その理由は、私自身がいちばんそこに苦労したからです。
始めたばかりのころは、とにかく生産性を高めることに情熱を燃やしていたので、猪突猛進でプロジェクトに取り組んでいました。それは私にとって心地よく、当初はそんな生活を楽しんでいたのです。自分にプレッシャーをかけることもなかったので、何の問題もなく仕事を進めることができていました。
ところが、プロジェクトが進むにつれて、アクセスが月に数千件に増え、やがて数万件へと成長していきました。私は徐々に、執筆・実験・実践をするよう、自分にプレッシャーをかけるようになっていったのです。その結果、楽しさは失われていきました。
多くの人が今の私のような立場を目指して、私が情熱を費やしている話題を追求し、それをうまくやってのけようとしている中で、このことを受け入れるのはツラかった。でも、生産性を高めたいと自分にプレッシャーをかけるのであれば、自分に優しくすることが重要であることが分かったのです。
努力なくして生産的にはなれません。業績を上げるために、自分にプレッシャーをかけなければいけません。でも、自分の人生にポジティブな変化をもたらしたいがために、自分に厳しくするのは、あまりにも安易なことなのです。
より多くのことを進めようと自分に発破をかけるときは、自分にどれだけ優しくできているかを、常に気に掛けるようにしましょう。頭の中の独り言のうち、8割をネガティブな言葉が占めているようなら、ことあるごとに自分に優しくすることが大切です。特に、人として成長したいと自分にプレッシャーをかけているときにはなおさらです。
10. 生産性とは、どれだけ生み出すかではなく、どれだけ達成するかである
生産性の1年を始めたとき、毎日の生産性の変化を正確にシェアするため、統計ページを作りました。そこに、毎日の書いた単語数、読んだページ数、作業した時間を投稿することにしたのです。これらの数値が、私の生産性を表す指標として最適だと考えたからです。
でも、それは最大の間違いでした。
工場経営者でもない限り、生み出したものだけで生産性を測ることは、生産性のほんの一部の側面を見ているにすぎないのです。例えば、500ワードで書いていた文章を、100ワードで書く方法を見つけたとします。生み出したものだけで生産性を測っていたら、これは著しく生産性が低いということになってしまうのです。
測定値と統計値は、容易に比較することができて便利ですが、個人の生産性に関しては、統計は副次的なものにすぎません。生産性とは、どれだけ生み出すかではなく、どれだけ達成したかなのです。
レバレッジが高く有意義なタスクに取り組むことが重要です。また、より多くのことをするためのリソースを確保できるように、時間、エネルギー、集中力の3大要素を管理する方法を知ることも大事。でも、けっきょくのところ、時間やエネルギーや集中力の残りが少なくなってしまったときにあなたに残されるものは、それまでに達成してきたことと、それまでに何か価値あることをして世界に与えてきた影響だけなのです。
それこそが、生産性だと私は思うのです。
The top 10 lessons I learned from A Year of Productivity|A Year of Productivity
Chris Bailey(原文/訳:堀込泰三)
Photos by Alan Levine (Flickr), Michelangelo Carrieri (Flickr), Craig Stanfill (Flickr). Image remixed from Bloomua (Shutterstock) and Openclips.