意識的にオフラインの時間をつくる
インターネットやガジェットがない生活なんて想像もできない。この感覚に共感できる人も多いのではないでしょうか。アメリカ、カリフォルニア州にあるナバロでは、この流れと全く逆の取り組みが注目を集めているそうです。その名も「デジタルデトックス・キャンプ」。参加者は数日の間ガジェットを取り上げられ、インターネットに接続することもできない環境に置かれます。「デジタルデトックス」とは、常にネットに繋がっている状態から抜け出すことで、意識的にオフラインの時間を作る取り組みのことです。
ライフハッカー[日本版]の「ナイトスクール」は、毎回キーパーソンと一緒に仕事や働き方について考えるイベントです。今回は、知恵と知恵をつなぐオンラインプラットフォーム「OpenCU」を運営する「株式会社ロフトワーク」に協力をいただき、プロブロガー・イケダハヤト氏とライフハッカー[日本版]編集長・米田智彦が「デジタルデトックス」をテーマに対談。聴講者のみなさんもワークショップに参加してもらうことで、カジュアルな交流と、ユニークなアイデアも生まれました。
今考え直したい「瞬間的な情報消費」
2011年にスーツケース1つで仕事をしながら東京を泊まり歩くプロジェクト「ノマド・トーキョー」を始め、現在はライフハッカー[日本版]編集長を務める米田智彦は著書デジタルデトックスのすすめ 「つながり疲れ」を感じたら読む本』(PHP研究所)を2014年1月に出版しました。情報量が増え続ける現代で、瞬間的な情報消費に慣れてしまうことも多い中、オリジナルなものを作り出すには自分自身と向き合う時間が大切だと気づいたそうです。
米田:自分が1日どれくらいオンラインに接続しているかを調べてみたんですが、仕事もプライベートも含めて、1日で12時間もありました。振り返ってみれば、長編小説は途中で結末が知りたくなってネットで調べてしまったりと、以前と比べて時間をかけて楽しむということができなくなっている自分に気づいたんです。でも、本当に良いものを楽しむにはある程度の時間が必要なんですよね。また、クリエイティブなものを作るには、オフラインの時間を大切にする必要があると思っています。オンラインで繋がるだけでは、どうしても無意識的に他者の考え方をコピーしてしまったりするからです。こう思っていたころ、アメリカでデジタルデトックスというムーブメントがあるのを知り、自分でもやってみようと思ったことが今回の本を書くきっかけになりました。Facebookは使わず、メールの確認は1日2回だけに限定しました。何かあればメールで送ってもらうようにして、スマホの電源は切る、という生活を1ヶ月間続けました。
イケダハヤト氏の仕事をしないライフハック術
一方、プロブロガーとして知られるイケダハヤト氏は、デジタルデトックスを現在進行形で実施中なのだそうです。4月初めに体調を崩したことがきっかけなのだとか。
イケダ:4月初め、早朝ニュース番組に3日間連続で出たんですが、朝が早いこともあって体調を崩してしまったんです。働き過ぎて体調を崩すなんて本末転倒なので、すごく反省したんですよね。だから、最近はできるだけ仕事をしないようにしています。ただ、フリーランスや起業家の方は特にですが、「デジタル=仕事」になってしまっていて、仕事をしないようにするのが本当に難しいんです。そこを理解した上で、できるだけ仕事をしないために僕が実践している工夫が7つほどあるので紹介しますね。イケダ流:仕事をしない7つのライフハック術
- Chrome拡張機能「Nanny」を使う
- 昼間からビールを飲む
- 娘と遊ぶ時間を全力で楽しむ
- 予定を1日2件以上入れない
- ニュースアプリではなく、Kindleアプリを開く
- メッセージを見なかったことにする
- 移住する
「Nanny」は、特定のサイトの閲覧時間を制限できるChrome拡張機能。Facebook, Gmail, Twitterのクライアントの閲覧時間を1日30分に制限しています。
冗談みたいですが、本当に仕事をしなくなります。
とても難しいのですが、予定を詰め込むと良いモノが作れないので、意識するようにしています。
同じデジタルですが、ニュースアプリは瞬間的な情報消費なので避けるようにしています。
「メッセージを返さないと」という強迫観念を持つのも良くないので、大量のメールは見なかったことにすることがあります。それでも意外と仕事はなんとかなります。
東京にいるとどうしても仕事から逃れられないケースがあるので、東京以外の地方へ移住を検討しています。(※編注 イケダ氏は先日、高知県への移住を自身のブログで発表しました。)
時間を消費に使うのではなく、投資に使う
イケダ:デジタルデトックスをする上で、自分がどれだけお金が必要か、ということは考えておいたほうがいいと思うんです。僕の家庭は年間300万円あれば十分なので、それ以上働かないように意識しています。 米田:それよくわかります。僕もフリーの時代が長かったので、「明日できることは今日やらない」と決めていました。どこかで止めないと、どんどん時間がなくなってしまいますからね。情報化社会の恩恵はもちろんあるのですが、その一方で、今までよりずっと情報量が増えて、人々から時間を奪っている側面もあると思うんです。だから、イケダさんがおっしゃるように、どこかで仕事に制限をかける必要があると思っています。とは言いつつ、今はライフハッカーというネットメディアの編集長をやっているので、矛盾しているように思う方もいるかもしれません。ただ、ライフハッカーは生活や人生を充実させるための情報を届けるメディアなので、あえてオフラインの時間を作ったほうがいいと伝えることも大切なことだと思っています。
ネットの便利さは誰でもよくわかっているし、ネットを否定するつもりはないんですが、大事なのは「ネットをする時間の使い方」ではないでしょうか。ネットの時間は「消費的」に使うこともできるし、「投資的」に使うこともできますよね。
ワークショップ:消費的な時間の使い方から抜け出すアイデア
参加者とのワークショップでは、グループに分かれてネットをどんなことに、どれくらい使っているかを改めて振り返ってみました。ネットと距離感を保つアイデアについても話し合い、グループに分かれて発表しました。発表されたアイデアのうちいくつかをご紹介します。
- ネットにおける承認欲求を他のもので満たすために、シェアハウスに住んで、デジタルではなくアナログな友達を作る。
- SNS系のアプリを全部消す。しようと思ってもできない状態を作る。
- SNSの通知を消す。
- スマホのケースを面倒なものにする。スマホを操作するハードルを高くする。
- パスコードを複雑なものにする。
- Twitterのフォロワーを1桁になるまで減らす
- 「メシ友」を作る。1日3食、誰かと会食する。
Facebookアプリを消す
イケダ:今アプリを消しまくっています(笑)さっきから消していて、ホーム画面ともう1ページの2ページだけになったんですが、Facebookのアプリは消せないですね。 米田:僕がデジタルデトックスをしていた間はFacebookのメッセンジャーだけは残して、あとは全部消しましたよ。 イケダ:なるほど。じゃあ僕も消します。イケダ氏は、その後、自身のブログでもアプリ削除について紹介していて、「アプリを消して読書時間が増えた」とコメントしています。
今回の学びのポイント
- 多くの人にとって「デジタルの時間=仕事の時間」になっているので、つい働いてしまう人は特に、デジタル依存に気をつけるべき
- デジタル依存を防ぐには、デジタルに触れにくい環境作りをすると良い
- デジタルを否定するのではなく、デジタルとの距離を考える
- 消費のために時間を使うのではなく、投資のために時間を使う
いつでもオンラインに接続できる状態であるということは、便利さ、人とのつながり、といったポジティブな面がある一方、依存してしまう危険性もあります。デジタルとの距離感をうまくコントロールして、自分を高められる方向に持っていけるように意識してみましょう。
(文:大嶋拓人 写真:仁尾義彦)