社会に出てからも、試験を受ける機会は少なくないもの。しかし、暗記さえできれば合格できるとわかってはいても、とかく難しく考えてしまいがちです。そこで役立てたいのが、『試験は暗記が9割』(碓井孝介著、朝日新聞出版)。
高校1年生のころは偏差値が35しかなかったにもかかわらず、「覚え方」を工夫することによって関西学院大学法学部に合格。大学4年生のとき司法書士試験に合格し、卒業後は公認会計士試験を通過することもできたという著者が、「勉強とは暗記がほぼすべて」という持論に基づいて勉強法を解説した書籍。
覚え方や技術、学習法などがわかりやすく解説されているので、豊富な事例を見ながら読み進めていけば、暗記の技術が身につくはず。しかし同時に注目すべきは、合格までの道筋を広い視野で捉えている点です。
その一例として、きょうは「暗記が9割」以外の残りの1割に焦点を当てた第6章「試験に受かる1割の工夫」からいくつかを引き出してみたいと思います。こちらも、試験を通過するプロセスにおいては決して無視できない部分です。
作業を減らして勉強せよ
毎日10時間の勉強をしても合格できない受験生がいる一方、空いた時間に勉強して難なく受かってしまう受験生もいるのは、「勉強時間」に差があるから。ここでいう「勉強時間」とは「頭を働かせている時間」のことで、机に向かっている時間ではないそうです。つまりは、頭を働かせているか否か。考えたり、理解したり、覚えたり、頭を働かせることができてこそ勉強だというわけです。
しかし問題なのは、勉強するうえで避けられない「書く作業」と「読む作業」には必然的に時間がかかること。だからこそ、工夫して作業を減らし、頭を働かせる時間を増やすことが重要だということで、著者は次の2つのコツを紹介しています。
1.文章を書くとき、メモを取るときは、可能なかぎり「マイ略字」を使う
2.文章を読むときは、「具体例、理由、言い換え」はカッコをつけて読む
(157ページより)
1は、自分だけがわかる、自分で決めた略字のこと。たとえば著者は、英語や日本語の頭文字をとって「契約=C」「権利=R」「義務=D」「株式会社=KK」「取締役=T」などを使っているといいます。「株式会社の取締役の義務は」という文章な「KKのTのDは?」となるわけです。こうするだけで「書く作業」を圧縮でき、かなりの作業時間を短縮できるとか。
2は、テキストや参考書を読むときに無駄を省く工夫。どんな文章も「大切な情報(覚えるべきこと、理解すべきこと)」と「大切な情報をサポートする情報(前者をわかりやすくするための情報)」に分けられるもの。そこで文章を読みながら情報をどちらかに区別し、後者の情報はカッコでくくってしまう。たとえば「具体例、理由、言い換え」などはカッコでくくられる対象です。
たしかにこうすれば、2度目、3度目の学習をするときに、カッコを飛ばし、情報のエッセンスだけを拾って読めるようになります。(156ページより)
集中力を維持する「遊牧民スタイル勉強法」
特定の場所だけで勉強すると、「場所のマンネリ化」によって集中力が落ちます。そこで、気分転換のつもりでカフェやファミレスなど場所を変えて勉強すると、再び集中力を高められるそうです。著者が勧めているのは、複数の勉強場所をあらかじめ決めてしまうこと。そして場所を決めるときに意識するといいのは、次の3点だといいます。
1.静かな学習空間(一般的に集中しやすいため)
2.声を出して勉強できる空間(セルフレクチャーなど、声を出して勉強するため)
3.騒がしい空間(集中のため、悪環境に慣れるため)
(161ページより)
なお、1か2を本拠地にすることを勧める一方で、著者が「注目すべき」と指摘しているのは3の騒がしい空間。ちょうどよい騒がしさは集中のしやすさにつながり、また「悪環境」で勉強することは、試験当日の準備にもつながるからだそうです。試験環境は当日までわかりませんから、どんな席になろうとも、どんな人が隣に来ようとも確実に集中できるように慣れておくことが大切だという考え方です。(159ページより)
「仮想試験日」で本試験のリズムをつかむ
試験の直前期は当日に備え、週に1回「仮想試験日」を設定すべきだといいます。「仮想試験日」とはいうまでもなく、試験当日のスケジュールに合わせて勉強する日のこと。試験当日に「いつもと同じ」という感覚で取り組めるように、自分を慣れさせておくわけです。たとえば公認会計士試験の短答式試験であれば、試験当日のスケジュールは次のとおり。
10時30分〜11時30分 企業法
13時〜15時 管理会計論・監査論
16時〜18時 財務会計論
(13時から15時までは管理会計論と監査論の2科目を同時に実施)
(168ページより)
試験当日はこのようなスケジュールに沿って受験しなければならないため、各科目を受験する時間に、各科目を「解きやすい」と感じるように備えておくということ。
また「いつもと同じ」という状態をつくるためには、「仮想試験日」に加え、パターン化する技術もモノをいうのだとか。つまりは問題に取り組む順番や解法など、ありとあらゆるものにルールをつくってしまう。試験当日のためにルールをつくり、普段からルールどおりに勉強していれば、本番でも一定のパフォーマンスを発揮できるようになるというわけです。(168ページより)
ひとつひとつがとても具体的に説明されているため、本書を活用すれば、さまざまな角度から合格のための道筋をつくれることでしょう。試験に向かっている人は、手にとってみて損はないと思います。
(印南敦史)