Inc.:「群衆の英知」という考え方に懐疑的な方には、新情報です。学術誌『Proceedings of the Royal Society』に最近掲載された論文で、プリンストン大学の進化生物学のIain Couzin教授と学生のAlbert Kao氏は、「群衆の英知に対する既存の解釈は、複雑で現実的な環境においては、有用ではない可能性がある。つまり、小さな集団のほうが、多くの状況において、より正確な決定を下すことができる」と論じました。

Couzin教授とKao氏のいう「小さな集団」というのは12名以下のグループのことです。Couzin教授 はBloomberg BusinessWeek 誌のドレーク・ベネット氏に対して「最適な判断を下すには、8~12名ほどの小さな集団が適している」と語っています。

「群衆の英知」という概念の現代的解釈

「群衆の英知」という言葉は、ニューヨーカー誌のライター、ジェームズ・スロウィッキーが2005年に発表した著書の中で用いた言葉です。それから10年経った今も、その概念は私たちに馴染みのあるものであると、ベネット氏は説明します。

この本の冒頭では、ある論文の内容が簡潔に紹介されています。それは、19世紀の英国の科学者フランシス・ゴルトンが、カウンティフェアに参加したときに、雄牛の体重を予測するという大会で、参加者が提出した787の予測値の平均が、実際の体重とほぼ一致し、どの個人による予想値よりも誤差が少ないという結果になったことを引用しています。

ここで示唆されているのは、群衆の規模が大きいほど、より正確な値が導きだせるというものです。この考え方は、オンラインビジネスのアマゾンやYelpが、ユーザーのレビューを集めることを重視したり、フェイスブックのようなソーシャルネットワークが、ユーザーの友人が「いいね!」を押した数に連動させて、一部の広告を表示させるという方法にも通じるものです。

群衆の英知という法則に異を唱えたのは、Couzin教授とKao氏 が初めてではありません。彼らは生物学の観点から反論を唱えましたが、過去には、マサチューセッツ工科大学スローンビジネススクールのシナン・アラル教授と准教授が「オンラインレーティングに関する問題」という記事において、ユーザーレビューの問題点を指摘しました。

その記事で、アラル教授はオンラインレーティングに偏りが生じやすい点を指摘します。つまり、評価をつける人は、目立ってよい他人の評価に同調する傾向があるため、肯定的なレビューに偏重しやすいというものです。

「アマゾン上の製品評価を見ると、非常に肯定的な評価(星5つ)は、否定的な評価(星1つまたは2つ)またはやや肯定的な評価(星3つまたは4つ)よりもずっと多く存在します」と彼は説きます。「こうした肯定的な評価に偏重する傾向というのは、レストランや映画、本のレビューを掲載している他のサイトでも見られるものです」。

つまり、オンラインレーティングに関していえば、アラル教授は、群衆は本やレストラン、映画について正確な評価を示していないと主張します。肯定的評価が実態よりも多い傾向にあるというのです。

「群衆の英知」を可能にする4つの条件

社会で注目される多くの概念がそうであるように、「群衆の英知」の実際の概念と、多くの人の解釈の間には、ずれが存在しています。

スロウィッキーが提示する「群衆の英知」という概念は、オンラインレーティングという領域、また集団内で他人の意見に個人の判断が影響されるようなケースには、当てはまりません。

Publishers Weeklyは、スロウィッキーの著書を紹介しつつ、「賢明な群衆」に見られる以下の4つの特徴を紹介しています。

  1. 多様な意見が存在する
  2. メンバー同士が自律している
  3. 権力が集中していない
  4. 多くの意見を収集するための良い方法が存在する

アマゾンやYelp内のユーザーによる評価、フェイスブックの「いいね!」といった、オンラインレーティングのシステムは、2つ目の特徴を満たしていません。

もちろん、本や映画、レストランの評価をする上で、各個人は自分の思うように評価を加えることは可能です。ですが、アラル教授が説くように、肯定的な評価や「いいね!」は、他のユーザーの真の自律を奪い、評価の偏りを生じさせます。集団による影響が加わるのです。それは、雄牛の体重や瓶の中のジェリービーンズの数を予測するときに用いるような匿名の投票とは、大きく異なります。

アラル教授は、こうした点について、組織のリーダーは次の点を考慮すべきであると言います。まず、オンラインレーティングの結果は、現実と多少のずれがあることを前提に受け止めること。そして、集団内の影響を逆手にとって考えれば、製品リリース後の初期に、自社の製品に満足しているユーザーに対して、評価を書くよう働きかけることで、その後の消費者はよりその製品やサービスに対して肯定的に感じるようになるであろうと言います。

「2枚のピザルール」

「最適な判断をするには、8~12名ほどの小さな集団が適している」というCouzin教授とKao氏による主張は、また別の点も示唆しています。

この主張は、ジェフ・ベゾスの有名な「2枚のピザルール」を裏付けるものでもあります。それは「2つのピザで賄えないチームは大き過ぎる」というものです。

小さなチームの効果を強調したリーダーは、ベゾスだけではありません。サラ・ミラー・カルディコット氏は『Midnight Lunch』という著書で、トーマス・エジソンが提案した共同作業の理論について取り上げました。その本の中で著者は、ベゾスの考え方とブラジルのメーカーSemco SAのCEOであり、『The Seven-Day Weekend』の著者でもあるRicardo Semler氏の考え方に共通点が見られると書いています。Semler氏もまた、1つのチームの理想の大きさは、6~10名であると主張しているのです。「各チームは、お互いに十分理解し合えるほどの規模を保つようにしている」と彼は書いています。

なぜ小さいチームの方が生産性が高いのでしょうか。ウォートン・スクールで経営学を専門とするジェニファー・ミュラー教授は、Semler氏の考えに同意します。彼女は「共同作業には、様々な負担が伴います。大きなチームにおける、そうした負担のひとつというのは、お互いの能力を活用して生産性を高める上でのベースとなる関係性を構築するのに、時間やエネルギーがかかりすぎるというものです」。

群衆の力というのは確かに存在します。ですが、小さな集団は優れた意思決定力をもつことを裏付ける学術論文が徐々に増えてきていることも確かなのです。

Challenging the Wisdom of Crowds |Inc.

Ilan Mochari(訳:佐藤ゆき)

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