「デスクの乱れは心の乱れ」「勤務時間を増やせば、もう少し生産的になれる」......。そんな、生産性にまつわる話を耳にしたことはありませんか? もしかしたらあなたは、意味もわからぬままそれを実践して、時間を無駄にしていることもあるかもしれません。そこで、生産性に関する一般的な認識を取り上げ、それぞれに科学的な裏付けがあるのかを検証したいと思います。ライフハッカーでは、以前にも生産性の神話を取り上げました。数々の研究結果を用いて、それらの神話をひとつひとつつぶしていったのです。今回も同じアプローチを使って、それぞれの神話を反証する科学を紹介します。よりスマートに働くためのヒントも併記しておりますので、ご参考にしていただければ。

神話1:長時間働けばたくさんの仕事をこなせる

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この神話の根底には、「勤務時間を長くするほど、より多くのことができる」というロジックがあります。学生時代の徹夜や会社員の残業・休日出勤の根拠になっているのも同じロジック。でも、残念なことに、長期間労働は仕事量の増加にはつながりません。むしろ長時間労働は、悪い結果と生産性の低下をもたらすばかりか、あなたの健康と幸せを奪ってしまうのです

国際労働機関が2011年に発表したこちらの論文(PDF)では、生産性と労働時間の関係に関する複数の研究をレビューしています。その核となる結論は、「長時間労働が生産性を高めることはなく、むしろ逆効果である」「こなせる仕事量は減り、こなした仕事もベストとは言えない(やり直しや修正が必要になることもある)」というものでした。

同じことが、他の論文でも言われています。欧州生活労働条件改善財団の論文(PDF)では、EU加盟国のうち16カ国において、労働時間や職種が比較的フレキシブルな、一般的にはパートタイムと呼ばれるような人たちの方が、より労働時間が長い人たちよりも仕事に没頭し、生産性も高く、余暇の時間を楽しんでいることが指摘されています。

この論文では、「労働市場参加率」は高い(すなわち、多くの人が働いているが必ずしも1つの仕事を続けているわけではない)が個々の労働時間が短い欧州型モデルと、雇用率が高く(1つの仕事で継続的に雇用されている)労働時間も長い米国型モデルを直接対比しています。

同論文では、雇用形態(フルタイム/パートタイム)にかかわらず、スイートスポットは週に30時間前後であると結論付けています。その時間を超えると、仕事と生活の質が低下し始めます。多くの人が週に50時間近く働いている現状を考慮すると、とても皮肉な結果と言えるでしょう。

それに、これは欧州に限ったことではありません。フィデリティ・インベストメンツの副会長、MFSインベスト・マネジメントの会長を歴任し、今はハーバード・ビジネス・スクールで講師を務めるロバート・C・ポーゼン氏も、著書『ハーバード式「超」効率仕事術』で、同じことを言っているのです。同様に、徹夜は効果がありませんし(ジャーナル『Child Development』に掲載されたこちらの研究を参照)、社員に残業を強要すれば、すでに限定的な彼らのエネルギーをさらに削ぐことになりかねません。

解決策:休憩をとろう

では、どうしたらいいのでしょう。現実問題として、すぐに週30時間労働を実現することは不可能です。そこで解決策になるのが、以前も紹介したように、より多くの仕事をこなすために休憩をとること。

と言っても、かんたんなコーヒーブレークや次のタスクに移るまでの「ほっと一息」とは違います。もっと、真のリラックスと充電ができるような完全な休憩です。2010年にジャーナル『Cognition』に掲載されたこちらの研究(PDF)では、頻繁な休憩と息抜きが、全体の生産性と労働者の集中力を高めると指摘しています。

休憩は、残業や過労の治療にはなりませんが(そのあたりはこちらの記事で)、少なくとも助けにはなります。特に、職場にいる時間ではなく結果や提供する価値で評価されるべきであることを上司に主張しているときはなおさらです。

神話2:イマドキの職場にはマルチタスクが必要

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ほぼすべての求人広告に共通するのが、「競合する複数の責任を同時にこなすことができる」という条件。中には、複数のことを同時にこなすのが得意と声高に主張する人もいますが、それはたいていでたらめです。なぜなら、マルチタスクを自称している人でも、実際はシングルタスクをうまくこなしているだけなのです。『Proceedings of the National Academy of Sciences』に2009年に掲載された研究では、マルチタスクが得意と主張する人ほど、実際はマルチタスクがヘタであるという結果も出ています。

ミシガン大学脳・認知・行動研究所のデビッド・E・メイヤー所長は、マルチタスクは仕事を遅らせるばかりか、間違いのもとでさえあると、ここ数年ずっと警鐘を鳴らし続けています。同研究所では、この話題に関する専用のページを設けているので、信じられない人は覗いてみてください。

同様に、『The Myth of Multitasking: How "Doing It All" Gets Nothing Done』の著者であるデビッド・クレンショー氏に聞いたインタビューでも、同様のことが言われていました。ここで重要なのは、マルチタスク、すなわち同じような複数のタスクを同時にもしくは連続して手早くやることは、ストレスとミスのもとであり、長期的にはやり直しが増えるだけであるということです。

解決策:シングルタスクを効率的にこなそう

マルチタスクが脳に与える影響を誰もが知りながら、世間は複数の責任を同時にこなすことを求めてきます。そして、火災報知機が鳴りだしたら、メールを書いている途中だろうとそれを無視することはできません。私たちは、ある程度の流動性を持って、複数のToDoを切り替える必要があるのです。では、どうしたらいいのでしょう。

その鍵となるのは、効果的なシングルタスクと柔軟性。デビッド・シルバーマン氏がマルチタスクを弁護した記事(英文)では、いま取り組んでいるタスクに完全に集中することが重要な理由を説明しながらも、必要が生じたらすぐにタスクを切り替える準備をしておくべきであるとも書かれていました。

柔軟性とマルチタスクは別物であることを認識しておきましょう。柔軟な人は、適切なときにタスクを切り替える準備ができており、それを望んでもいます。と言っても、複数のことを同時に終わらせようとしているわけではありません。いま取り組んでいる作業に完全に集中しながらも、別のことへの注意が必要になれば、連続的に(並行してではない)切り替えることができる状態をキープしているのです。情報に操作されるのではなく、情報の流れをコントロールし、それに合わせて行動します。

もし、バーンアウトしそうになったら、このタスク切り替えを試してみてください。1つの問題で頭を抱えてしまうよりも、いったん考えるのをやめて別の何かを始めることが有効です切り替え時には短い休憩をはさむことで、新しいタスクに集中しやすくなるでしょう。マルチタスクが得意であると自負している人はたいてい、柔軟なシングルタスクのことを意味しています。実際のところ、そういう人は中断するまで1つのことをやり続け、何かに注意が必要になったら(もしくは何かに注意したくなったら)そちらに切り替えることが得意なだけなのです。

神話3:先延ばしは敵である

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生産性が重視される文化では、先延ばしは敵かのような言われ方をします。まったく何もしていない時間は、時間の無駄だと見なされるのです。もちろん、1日中ネコのGIF動画を見ていては仕事が進みませんし、先延ばしをしていては貴重な時間を無駄にする可能性もあれば、ToDoリストが減ることもありません。

ただ、この考え方にはダークサイドがあります。もし、仕事を中断している時間や「生産的な仕事」ができていないアイドルタイムを完全になくす必要があるとしたら、私たちの脳が再充電される唯一の時間を完全になくしていることになるのです。精神衛生上、先延ばし・注意力散漫・退屈な時間はなくてはならないものなのです

誤解を恐れずに言えば、あえて何もしないことを優先すべきときだってあるのです。

同様の主張をしているのは私たちだけではありません。リムリック大学の研究者らが2011年に実施した研究では、退屈は健康的な通常の心理状態であり、むしろ人を社会的な行動に向かわせる力を持つという結論を導いています。つまり、退屈を感じているからといって、それを消し去る必要はまったくないのです

同様に、『Journal of Neuroscience』に掲載された2009年の論文では、いわゆる「非生産的な」時間にしか起こりえない白昼夢に注目し、それが健康的であること、そして仕事に戻った時の集中力が高まることが示されています。だからと言って、先延ばしを自分に強要する必要はありません。自然発生に任せて、発生しても臆する必要はありません。ただし、必要なときにはいつでもそれを止められる状態でいることが重要です。

脳が機能するためには、中断時間は欠かせません。ヒトは機械ではないので、長期間にわたって最適なレベルをキープすることは不可能なのです。一気に集中して働き、リラックスや再充電が必要になったら中断します。そして、上でも述べたように、集中力が続かなかったりToDoのその他の項目に邪魔されたら、休憩を取りましょう。

神話4:クリエイティブになりたければデスクを整理整頓

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きれい好きな人は(私も含め)、デスク周りをきれいに片づけ、すべてのモノがあるべき場所になければならないと言うでしょう。ライフハッカーで取り上げられる職場を見て、あまりにきれいすぎると感じる人もいるかもしれません。クリエイターの仕事術を聴く「How I Work」シリーズに登場した人たちにも、同じように何もかもをきれいに片付けている人がいます。では、生産的になるためには、そこまで完璧にきれいにしなければならないのでしょうか? 答えは否です。それがあなたのスタイルならそれでいいのですが、必ずしもそうする必要はないのです。

『Journal of Consumer Research』に掲載された2011年の研究(PDF)では、散らかっている状態は効率を低下させるので避けるべきであると断言して研究を始めました。ところが実験の結果、人によっては散らかっている方がむしろ効率的で、決断を下しやすく、自分がクリエイティブであると感じるようになることがわかったのです。

デスクの乱れが必ずしも心の乱れではないということは、ほかの研究者も示しています。New York Timesに掲載されたこちらの記事では、乱雑な状態を生産的な愛すべきこととして語っている研究者を多く取り上げています。彼らは声を揃えて、キレイな空間とは仕事が行われていない不活性な空間であり、散らかった空間とは誰かが仕事しているアクティブな場所であると主張しているのです。

しかし、これに対立する研究結果もあります。2011年にジャーナル『Nuroscience』に掲載されたこちらの論文がその一例。これには、「視野内に複数の刺激が同時に存在していると、視覚野全域で誘発活動を抑制し合い、神経表現の競合が発生するため、視覚系の処理能力を抑制する神経相関をもたらす」と明確に記されています。要は、散らかっていると集中力が落ちるからきれいにしなさいと言っているのです

このことから、科学が万能ではないことがわかります。散らかった状態をクリエイティブと結び付けようとする研究の多くは市場グループによって行われています。中には、家具メーカーがスポンサーになっているものも。これはちょっと怪しいですよね。同様に、「散らかったデスクは素晴らしい」と主張する記事のほぼすべては、『Journal of Consumer Research』に掲載された、たった1つの研究が出典になっているのです。

解決策:どちらでも、自分に合った方を選んでよし

だからと言って、それを棄却すべきとか正確でないというわけではありません。ここで重要なのは、キレイなデスクが自分にとって向いていて、シンプルでクリーンで最小限のスペースにいるとクリエイティブに感じられるのであれば、散らかしてしまう自分を何とかして、そのような空間を実現すればいいだけの話です。逆に、あなたにとっては多少散らかっている方が物事がはかどる場合や、山積みの書類があなたにとっての整理術で、どこに何があるのか把握できているのであれば、人からどう思われようと(職場に「クリーンデスク」ポリシーがある場合でも)、恥ずかしがる必要はありません。自分にとって最適な方法を見つければいいのです。どちらにしても、それを裏付ける証拠があるのですから

神話5:生産性とは、大量の仕事を次々とこなしていくことである

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最初に生産性の神話を取り上げたときにも触れたことですが、生産性を高める目的は、できるだけ多くの仕事を矢継ぎ早にこなしていくことだけではありません。それがあなたのやり方であればそうかもしれませんが、「生産性」の最終目標は、"やらなければいけないこと"をさっさと終わらせて、"やりたいこと"に時間をかけることです。

この神話は、科学的に間違いが証明されているわけではありませんが、上で見たいくつかの神話から論理的に導かれるものです。それに、あなたの生産性へのアプローチの仕方次第では、あなたの人生を良いものにも悪いものにもする可能性を持っています。以前にもお伝えしたように、自制心は有限なリソースなので、本当に大事なことにそれを使わなければならないのです。

ToDoリストのうち重要でないことは、手早くこなせるものでなければ、完全に消してしまうべきです。そうすることで、本当に大事なことに時間とエネルギーを傾けましょう。ラインを流れてきたすべての仕事や、「忙しそうに見えない」という理由で上司から押し付けられた仕事に取り組む必要はないのです。ハードにではなくスマートに働いたから時間が余っている場合、押し寄せる波にどう対応するかはあなた次第です。要するに、私たちが議論している「生産性」とは、より多くの仕事を終わらせることではなく、やるべき仕事を終わらせることなのです

その点に関しては、生産性の「中毒性」という落とし穴について何度も紹介してきましたライフハッカーで紹介している生産性のヒントやトリックは、1人の人間が使いこなせる数を越えています。ですから、その中から自分に合ったものを選び、自分独自のシステムを強化することが重要なのです。あまり時間をかけてあちこちのアプリやサービスを試していると、やるべきことが何もできなくなってしまいますよ。それは私たちライフハッカーに任せて、あなたはあなたの仕事に集中してください。

前回と同様、上で紹介した神話は、従来から言われている生産性の知恵が、誰かが生産性に関する本を売りたいからという理由や、生産性の恩恵について講演してお金を取りたいという理由で出てきたものの氷山の一角にすぎません。多くの場合、ちょっと調べれば、そのアイデアを完全に否定する決定的な研究を見つけることができます。

いずれにしても、次のメッセージを胸に刻んでおいてください。「生産性とは個人的なものであり、どれだけ多くのヒントが多くの人に当てはまっても、そのすべてがあなたにとって有益であるわけではありません。誰かにとって完ぺきな方法でも、それこそが絶対的な真実だと思わないでください。自分のスタイルに合わないという理由だけで、その他のことを却下するのもやめた方がいいでしょう」

Alan Henry(原文/訳:堀込泰三)

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