Inc.:スタートアップ文化において「リーン・スタートアップ」手法が浸透している現在、多くの創業者、またイノベーションをもたらすことを目指すチームはMVPと呼ばれる実用最小限の製品を作る意義を理解しています。MVPとは、最初のプロトタイプであり、見込み顧客や投資家に見せて、今後の改善のためにフィードバックを得ることを目的としたものです。

同時に、ある問題が存在します。MVPの開発に急ぎ、「速く失敗し」「何度もつくり直す」ことに焦るあまり、多くのクリエイターが、最初のプロトタイプをつくる前に十分な事前準備をしていません

ですが、実際にはたった数時間で、かなりの事前準備ができるのです。

イノベーションの権威であり、経営コンサルタントファーム「イノサイト」で経営パートナーを務めるスコット・アンソニー氏が著書『The First Mile』で、たった1日で事前準備できる8つのステップについて紹介しています。

1.デスク上で事前リサーチをする

あるアイデアを思いついた、それはかつて誰も思いついたことのないオリジナルのアイデアだと思うかもしれません。ですが、現実には既存の会社がそのアイデアを検討していたり、既に何か手続きをとっているという可能性も多いにありえます。

米国であれば、米国証券取引委員会(SEC)から、新規株式公開準備をしている企業を検索してみるのが良いでしょう。同様に、seekingalpha.comでも、株式公開企業の収支報告を確認することができます。

また、同じ業界で事業を営んでいる大企業によって出願された、特許の申請に関する情報も確認できます。例えば、アップルが出していたiPadの主要なデザインや主要なユーザビリティに関する特許申請書を確認していた人は、iPadが数年先にどのようなものになるのかを、事前にかなり推測できていたそうです。

大事な点は、こうした事前調査は競合企業の情報について探るだけではなく、潜在的なビジネスパートナーを探すことも視野に入れて行うべきである、という点です。アンソニー氏は、YFindという、最近イノサイトが投資したばかりのスタートアップについて、話してくれました。YFindは、前述したような方法を使ってビジネスパートナー候補を探していたところ、Ruckus Wirelessという企業をたまたま発見します。イノサイトの仲介によって、YFindとRuckusはつながり、最終的にRuckusはYFindを買収することになります。「業界について、より多くの知見を得るべくリサーチをした結果、そうした流れになったのです」とアンソニー氏は言います。

もちろん、こうした結果に行き着かないケースも多くありますが、この件に関して言えば、すべては事前リサーチから始まったことなのです。

2.思考実験をしてみる

もし、あなたのアイデアがうまく成功したら、どのようなことが待っているでしょうか? 仮説に基づいて思考実験をすることで、今後の戦略やまだ見えていない競合、エグジットの方向性、考えられる障害といったことを明らかにできます。

たとえば現在、製品の材料調達にある程度のコストがかかっているとしましょう。ですが、今後かなり大きな競合企業が同じ材料を膨大な量、調達し始めたらどうなるでしょうか? 今後、すばらしいプログラマーがチームに加わる可能性も考えられます。同時に、そのプログラマーが他に良い仕事のオファーをもらって会社を去ってしまったら? そうした、あらゆる可能性が起きたときのことを考えておきましょう。

3.おおまかに4Pモデルを立ててみる

4Pとは、プロダクト/サービスのターゲット人口(population)、価格(price)、購入頻度(purchasing)、妥当な範囲の収益目標額に到達するために必要な市場規模(penetration)のことを指します。5分もあれば、この4Pを概算で書き出し、マネタイズする際のおおまかな計画をつくることができるはずです。

4.電話をかける

あなたのアイデアが成功するか否かは、いかに仮説をしっかり立てるかにかかっています。たった1本の電話で、仮説を確信に変えることができます。アンソニー氏は、大学をターゲットに、ドリンクディスペンサーの販売事業に乗り出したある会社の経験を話してくれました。それまで、この会社は大衆市場の小売業者向けに販売をしており、大学市場を攻めた経験はありませんでした。営業チームは、少なくとも大学市場を獲得するには3カ月はかかるだろうと予想していました。

もし、彼らがそのまま3カ月という仮説に基づいて事業を回していたら、とっくに燃え尽き、諦めていたでしょう。幸い、チームメンバーの1人が、大学向けにセキュリティソリューションを販売したことのある友人に電話をかけました。その友人は、大学向けの営業サイクルは、時に3年もかかることがあると助言しました。

こうした情報が事前にあれば、収益見込みだけでなく、そもそもその事業を行いたいのかという考えまでもが変化するかもしれません。自分のアイデアについて、どういった情報を知ることができるか、想像してみてください。1つの仮定について、たった1本の電話で重要なリサーチを行えるかもしれません。

5.5つの重要な問い

アンソニー氏は、アイデアを思いついた時に自ら問うべき、以下の重要な5つの質問を紹介しています。

  • どのように、顧客はそのプロダクト/サービスを得るか?
  • いつ、顧客はそれに対してお金を支払うか?
  • どこで、顧客はそれを買うか?
  • どのように、顧客の元にそのプロダクト/サービスを届けるか?
  • 顧客以外に、支払いの一部を得る者はいるか?(例:ライセンス料金、開発者ロイヤリティ)

6.プロトタイプをつくる

予め言っておきますが、これはMVP(最小限の製品)ではありません。自宅で安価につくれるものです。実際のプロトタイプではなく、むしろアイデアを物理的に形にしたものです。釘や木材といったものでつくるのではなく、素人のスケッチのようなものです。「本物らしさよりも、スピードを重視して作ってください」とアンソニー氏は言います。他人に自分のアイデアをより簡単に伝えられるようなイラストであれば良いのです。

7.見込み顧客と話す

見込み顧客と話す前に、自分のアイデアを前に進めてしまう人が多いことに驚かされます。そうしたことは実際にはよくあるのですが。この点における、アンソニー氏のアドバイスは、ボストンで毎年「Lean Startup Challenge」というイベントを開催しているティナ・ウィーバーの意見と同じものです。つまり、プロトタイプを作る前に、アイデアをテストすることが重要である、というものです。オンラインツールを使って顧客にアンケート調査したり、プロダクト/サービスのランディングページをつくるなど、できることは様々ですが、とにかくもっとも重要なことは、事前にそのアイデアを、実際に見込み顧客に入念に検討してもらうことです。

8.逆算して損益計算書をつくる

この作業には数時間要するかもしれませんが、4Pモデルを書き出す作業を既に終えていれば、それほど難しいことではありません。理想とする年間利益を書き出し、そこから逆算しています。まず大きな2点、利益とコストを加えて、そこからさらに必要なものを1つずつ追加していきましょう。

8 Steps to Launch an Idea, in Just a Few Hours I Inc.

Photo by Shutterstock.

Ilan Mochari(訳:佐藤ゆき)