『ソニー伝説の技術者が教える「イノベーション」の起こしかた』(前田悟著、KADOKAWA/中経出版)の著者は、1970年代からソニーで新商品を企画してきた人物。タブレットの先がけである持ち運び可能な無線テレビ「エアボード」、世界中どこでも自宅で受信したテレビ番組を見られる「ロケーションフリーテレビ」など、画期的な製品をを世に送り出してきました。
本書はその立場から、イノベーションを起こすためのセオリーを説いています。Chapter 1「イノベーションを起こす『ルール』」内の「イノベーションを起こすために最も必要なのは、開発者・技術者の日々の『心構え』である」を見てみましょう。これまでにないイノベーティブな商品をつくるために著者が心がけてきたという、7カ条の心構えを紹介した項です。
1.アイデアを出し続ける時間をつくる
イノベーティブな商品をつくるために、「考える時間」は重要。しかし、毎日24時間、1年365日、「アイデア」を考え続けることは不可能なので、多くの時間をかけず「集中的に考える時間」を自分でつくる。たとえば通勤時間や移動時間など「少しの時間」でも考え続け、出たアイデアを書きとめておくことがとても大事。
なぜなら「考えれば考えるほど、イノベーティブなアイデアが浮かぶ」というよりは、「本質をつきつめて考えつくさなければ、イノベーティブなアイデアは出てこない」から。(49ページより)
2.完成したら必ず「レポート」を書く
世の中にない「発想」は、なにもないところから"降ってくる"ものではなく、鍵を握るのは「どれだけ積み重ねられたか」。まわりからは「突拍子もない発想」に見えるものも、実はこれまでの積み重ねの結果だということです。(51ページより)
3.人の真似をせず、真似されることに生きがいを感じる
著者がソニーで教えられてきたのは、「人の真似をするな、真似されることをやれ」ということ。そして著者自身も、他者と同じような商品をつくることに生きがいを感じたことはないといいます。そして「欧米がつくったものを安直にフォローし、同じような商品をつくることになんの疑問も感じないようでは、イノベーティブな商品は生み出せない」と、いまの日本の家電メーカーに苦言を呈しています。(52ページより)
4.仕事を自ら増やす
通常のルーチンワークを続けているだけでは、イノベーションを起こすことは不可能。ひとつの仕事が終わったとき、「商品をいかに発展させられるか」「新しいデバイスを使えばどうなるか」「自らが開発した技術を既存商品に組み込めば、さらに新しい商品ができるのではないか」「足りないことがあれば、自分でやる」というように「仕事を自分で増やす考え」を持ち、実際に行動に移せば能力の枠組みも広がるそうです。
そしてそれ以上に、自分の楽しみが広がり、「感動する感性」を養うこともできるのだとか。(53ページより)
5.「技術論」を後回しにする
多くの日本人技術者からは、「技術論」がまず先に出てくるのだとか。しかし技術は商品を実現するための手法にすぎず、最終目的ではないと著者は言います。なぜなら、お客様にとって、商品にどのような技術が使われているかはまったく重要でないから。
まず「どのような商品を作るか」が重要であり、それが「目的」になります。「目的」が決まってから、その商品を実現するためにどの「技術」を使うべきかという議論をすることが本質だそうです。(54ページより)
6.あきらめないでやり通す
技術者である以上、そしてイノベーティブな商品をつくる以上、「技術で難題にぶつかったときには、新たな特許を出すチャンスと思い、あきらめないことが大事だと著者は記しています。自分に信念があれば、あきらめないでやり通す。「いいアイデア」をあきらめてしまえば、人と同じ商品しかできないか、そこで終わってしまう。しかし、あきらめさえしなければ、必ずチャンスはやってくるもの。(55ページより)
7.信念のあるトップ、上司から逃げない
信念のあるトップ、上司は怖くて当たり前。信念に基づく経験があるため、厳しい指摘も多くなりますが、決して逃げてはいけない。信念のある上司は、真剣に考えているからこそ意見を言うのであり、全面的に否定しているわけではないのです。だからこそ技術者は、自分の意見があるなら真っ正面から堂々と、信念を持って主張することが大事だと説いています。(58ページより)
技術者の視点から書かれているわけですが、これらの7カ条を読んでいただければおわかりのとおり、その多くはあらゆる業種にも当てはまります。文体も柔らかく読みやすいので、ぜひ一度、手にとってみてください。
(印南敦史)