注意力欠如障害を持った人は、この記事を最後まで読み終えることができないかもしれません。私自身も子どもの頃はそうでした。でも今は、集中して人の話にちゃんと耳を傾けられるよう、脳をうまく誘導する方法を知っています。優れた聞き手には一生なれないと思いますが、自ら身につけた3つの簡単な方法のおかげで、薬の力を借りずとも何とかやっています。子どもの頃は、授業に集中できませんでした。注意力が散漫で、長い時間、本を読むこともできませんでした。そうして私は、注意力欠陥障害(ADD)という診断を受けたのです(厳密に言えば、ADHD-PI、つまり注意欠陥多動性障害の不注意優勢型です)。
とはいえ、当時はさほど知られていない新しい分野でした。薬による治療を受けている友人もいましたが、私は一度も飲んだ経験がありません。診断を受けた当初は、深刻な障害なのかと悩みましたが、助けてくれる人もいなかったため、自分で何とかしようと決めました。薬の助けで集中力をつける友人も多くいましたが、私は、集中して人の話を聴くための方法を3つ編み出したのです。
薬物治療で効果を得られる人もいれば、不快な副作用が出る人もいました。ある友人は眠れなくなってうつ病になりましたし、創造力がなくなると言って薬をやめた友人もいます。その一方、薬が効いて成績がぐんと上がった人もいました。薬の効果は人それぞれなのです。最近では、ADHDはタイプによって現れる症状がさまざまで、薬による治療が必ずしも必要ではないことを、多くの医師や精神科医が理解し、いろいろなやり方で対処するようになってきています。著書『No More ADHD』の中で、医師のMary Ann Block氏は次のように述べています。
私はこれまで20年以上にわたり、精神治療薬に頼ることなく、注意力欠陥障害の患者の治療に成功しています。症状の原因となっていながら、表面には現れていない医学上もしくは教育上の問題を見つけ出し、処方薬を使うのではなく、その問題に対処するのが私のやり方です。近年、医学の面でも教育の面でも十分な時間をかけずに診断が下され、短時間の診察だけで薬を処方されている患者があまりにも多くなっています。しかし、ADHDの症状を引き起こす潜在的な原因としては、食生活や栄養欠乏、アレルギー、PANDAS(小児自己免疫性溶連菌関連性精神神経障害)、学習障害などが考えられます。
治療法は人によって違いますが、子どもであれば、Block医師のような専門家の診断を受け、どんな助けが必要なのかを見極めてもらうべきです。大人の場合も、深刻な問題を抱えている場合は特に、専門家の診察を受けたほうがいいでしょう。ただし、人の話をちゃんと聞けないという問題であれば、自分自身で対処できるかもしれません。私も実際に、わずか3つの点に留意しただけで対処してきました。以下にご紹介するポイントは、ADHDの診断を受けた方に限らず、単に会話や授業、会議などに集中できずに困っている方にも役立つかもしれません。
話し手の目を見つめて集中力を長く保つ
周囲の雑音を完全に遮断するのは不可能ですが、目の焦点をコントロールする術を身につければ、視覚的な雑音は容易に減らせます。視界の隅にほかのものがちらついて会話に集中できないというなら、視線を一点に集中させて、そうした邪魔が目に入らないようにしましょう。
何よりも先に、他人とアイコンタクトをとる練習をしましょう。そうすれば、会話をする際もアイコンタクトができるようになります。自分はシャイだから無理だと言うなら(私も以前は極めてシャイでした)、二度と会わないであろう、通りすがりの他人を相手に練習してみてください。気味悪がられるかもしれませんが、ほとんどの人はすぐに忘れてしまいます。じっと見られて気分を害した相手が何か言ってきたら、「そのコートはどこで買ったのですか」とか「ただぼんやりしていただけなのです」と言って、悪意はないと説明すればいいのです。
人の目をじっと見られるようになったら、話し相手の目を見つめることだってできるはずです! 話し手が聞き手の視線を受けて見つめ返すことはあまりありませんから、あとは話し手の目を自分の目で追いかけてください。ただし、気味の悪い目つきにならないよう注意しましょう。自然な感じを保ちつつ、相手の目から視線を外さないようにします。考えながら話をする時、人の視線はさまざまな方向に動きます。ですから、すぐに気が散ってしまう人も、追いかける対象ができて、相手の話に注意深く耳を傾けられるようになるはずです。
聞き逃した情報を埋める方法を身につける
集中力を保てないと、文章の断片しか耳に入ってこないという状況に陥ります。幸いなことに、人はたいてい一定の会話パターンに沿って話をしており、同じ話を繰り返す傾向があります。ですから、相手を知れば知るほど、聞き逃した部分をすんなり埋められて、話の内容を推測できるようになるでしょう。
私の場合、文章の最初の部分は耳に入るものの、そこから徐々に集中力を失っていくことがほとんどです。例えば、こんな感じです。
それで、___メキシコ___、それとも、___新しい___てみたい?
大半が欠けてしまっていますが、たとえ5秒と集中力が続かない状態でも聞き取りやすい部分が残っています。通常は、文章の頭や、ひと息入る箇所(「それとも」「そして」など)、文末の数語が耳に入ります。情報量は確かに少ないですが、上記の文章が何を言わんとしているのか、お分かりになるのではないでしょうか。
メキシコのものがいいのか、何か新しいもののほうがいいのかを尋ねているのは明らかです。でも、メキシコ人がいいのか、メキシコ音楽がいいのかと聞いているわけではなさそうです。メキシコ人では質問として変です。メキシコ音楽の場合は、文脈次第ですね。仮に音楽について質問を受けるような状況にいれば、自分でわかるはずです。というわけで、相手の知りたいことを探り当てるのはさほど難しくはありません。私の場合、上記の文は食事に関する質問であるとすぐに分かりました。年がら年中メキシコ料理を食べているからです(しかも、これは夕食時の会話でした)。上記の文章のわずかな情報と文章の傾向から、いつも通りの食事がいいのか、それとも何か変わったものを食べたいのかを尋ねていると推測できます。
それで、今夜もメキシコ料理がよかったの、それとも、たまには新しいものを食べてみたい?
幅広い意味にとれる質問文を投げかける
集中力を保つためにどれだけ工夫をこらし、欠けた情報を埋めようとしても、いつもうまくいくとは限りません。完全にぼんやりしてしまい、相手が友人、同僚、兄弟の誰であっても、話している内容がほとんど分からない状況に陥ることが時々あります。そういう場合は、相手がつい話を繰り返してしまうような、幅広い意味にとれる質問を投げかけましょう。
例えば、話し手がその日の出来事を話していたとします。話題はその日のことだとわかっていても、耳に入ってきたのは次のような文章だけだったとしましょう。
...だから、明日はあまり仕事に行きたくないんだ。
その日の出来事を相手が語った5分間のうち、大半はぼんやりとしていて最後の数秒ほどしか聴いておらず、しかも文章の半分しか耳に入ってこなかったとしたら、次のように返事を返してみましょう。
そうなんだ。僕だってイヤだよ。それで、どうするつもり?
確かに、自分が何を質問しているのか分からないという点では危険です。とはいえほとんどの場合、こういう質問が功を奏します。その理由はいくつかあるのですが、まずひとつには、悩みなどを話している人は、それに対する解決策を自ら口にすることはほとんどない点が挙げられます。聞き手に解決策を求めているのですから(もしくは、ただ愚痴を聞いてほしいだけなのかもしれません)。また、どんな人でも、話を数秒さえぎられただけで、話していた中身を忘れてしまうことがよくありますよね。さえぎられなくても、話している途中で忘れてしまうことさえあります。話をしていたはずの相手は、「その質問にはもう答えたはずなのに」と思うかもしれませんが、自分のほうが勘違いしたんだろうと思って、もう一度話を繰り返してくれるケースがほとんどです。
もちろん、こうした問いかけが逆効果となってしまう場合もありえますが、そんな時でも何とかなるものです。
ごめん、聞き逃したみたい。もう一度話してくれる?
頻繁でなければ、たいていの人はさほど気にもとめないでしょう。おまけに、話の内容のほとんどを聞いてもらえたと考えてくれるかもしれません。まったく聞いてもらえなかったと思われるよりはるかにマシですよね。
ごくまれに、話の内容がまったくわからないこともありますが、そんな時こそ、自分がADHDやADDであることを相手に伝えるべきです。そうすれば相手も、大目に見るしかなくなります。話に耳を傾けようと努力している限り、大部分の人は許してくれるはずです。あなたのことを知っていて、好意を持ってくれている人ならなおさらでしょう。
それでも問題は残る
もちろん、人の話に集中できないと言う問題は残っています! 集中力を長続きさせ、聴く力を高めるべく、自らの行動や会話への参加の仕方について私が工夫をこらしてきた点をすべてお話ししましたが、常にうまくいくとは限りませんし、自己嫌悪に陥る時もあります。でも、それでもいいと思うのです。自分を責めないでください。そして、状況が悪化した場合は専門家に相談しましょう。
何の問題もなく人の話に耳を傾けられる日もあれば、「火事だ!」と誰かが叫ぶまで、「きれいな炎だな」とぼんやり見つめてしまう日もあるでしょう。どんなに努力しても、治ることはありません。いかに工夫し、あれこれ試してみたところで、障害が消えてなくなるわけではないのです。
私が取り組んできた工夫を大まかにお話ししてきましたが、この方法で、人の話により集中できるようになり、注意力が散漫になる状況でもうまく対処してきました。少しでも皆さんの力になれれば幸いです。いずれにせよ、うまくいかなくてもイライラしないでください。努力すれば、対処法が見つかるはずです。自分の脳がどのように機能しているのかに目を向ければ、自分の欠点を克服できるやり方がきっと発見できるでしょう。
Adam Dachis(原文/訳:遠藤康子/ガリレオ)
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