全体的にいい人が多く、やさしくマイルドになっている
地元から出たがらない(「地元」の範囲は5km四方)
電車を嫌う。渋谷まで20分なのに「いつかは東京に行きたい」
車は大きいほどよく、仲間と盛り上がれるミニバンが好き
イオンは夢の国。イオンに行けば、何でもできる
夢は「あと5万円、給料が上がること」
ITスキルが低く、ネットでの情報収集に消極的
音楽は男女問わずEXILEが大好き
上記は『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(原田曜平著、幻冬舎新書)内に書かれている「マイルドヤンキー」(現代のヤンキー)の特徴の一部。個人的におもしろいと感じたものを並べてみたのですが、これらを見ただけでも、ヤンキーのあり方が昔とは大きく変化していることがわかるはずです。
そして本書の画期的な点は、徹底した密着取材とヒアリング調査によってマイルドヤンキーの実態を明らかにしたうえで、彼らをモノが売れない時代における「これからの消費の主役」と位置づけ、将来的に「なにを売るべきか」まで話を広げている点にあります。
印象的な部分を、いくつかピックアップしてみます。
「残存ヤンキー」と「地元族」
マイルドヤンキーは、大きくふたつのタイプに分かれるのだとか。まず最初が、昔のままの姿で残っており、絶滅危惧種になっている「残存ヤンキー」。しかし「昔のまま」とはいえ、中身はマイルド。見た目の昔のヤンキーに比べればおとなしく、おしゃれになっているといいます。昔のヤンキーの象徴がリーゼントとボンタンなら、現在のヤンキーの象徴はEXILEのような悪羅悪羅系(オラオラ系)のファッションスタイル。
そしてもう一方が、「地元族」。人間関係が狭く、中学校時代など少人数の地元の仲間とつるむという点は昔のヤンキーと共通しているものの、見た目はいまどきの普通の若者と大差がないそうです。地元のファミレスでダラダラ過ごすのが大好きだけれども、内心では「EXILEの放つ多少のヤンキー性」に憧れを持っていたりするタイプ。
もちろん、ギャンブルとの親和性の高さ、高級ブランドへの憧れ、高い喫煙率、学歴コンプレックスなど、昔のヤンキーとの共通点も少なくありません。が、それでも生態が大きく変化しているというわけです。(19ページより)
メンツ重視の悪羅悪羅消費
ここで注目すべきは、大半が将来に夢について「特になし」と答えているという点。しかしそれは将来に絶望しているということではなく、多少の不満はあっても地元人脈との交流にそこそこ満足しているから、「このままの状態が続けばいい」と思っているということです。
そして「このままの状態」を続けるためのツールが彼らにはいくつかあり、だからこそ消費力が高いという点にも注目すべきでしょう。仲間とのダラダラした時間を楽しく過ごすためなら消費を惜しまず、だからこそ「使うときには使う」わけです。
"収入の使い道はおもに飲酒、タバコ、スロット、服や靴、ほか遊興費、そして車、バイクです。車やバイクの改造にかけるお金は、昔に比べればおとなしくなっている傾向があるとはいえ、なかには何百万円もかける人もいます。(98ページより)
そして、マイルドヤンキーといえども彼らには多少のヤンキー性が残っているので、金の使いっぷりがいい先輩を憧れの目で見たり、地元では先に働きはじめて羽振りのいい生活をしている同級生を、羨望の眼差しで見たりする傾向もあるのだとか。(96ページより)
マーケティングから外れる層
つまり、相対的に一般の若者たちよりも消費意欲が強いマイルドヤンキーは、これからの重要な消費者層。しかしそうでありながら、多くの企業は彼らの志向をつかめていないと著者は指摘しています。
たとえば著者はあるとき、新商品の有力な想定ターゲットである彼らに、発売前の商品の受容性調査をお願いしたことがあったのだそうです。ただし新商品を社外には持ち出せないため、謝礼を用意したうえで会社のある赤坂まで来てくれるよう交渉したのだとか。ところが、返事は全員がNG。「地元を出たくない」「赤坂が怖い」「電車に乗るのが嫌」というのがその理由だったそうです。
つまり、こうした状況である以上、多くの企業のマーケティング調査も、マイルドヤンキーにはタッチできないことになる。そんな状況下で作られた商品が多い世の中では、勘どころを外した商品によって、若者たちが「消費離れ」してしまうのも当然だというわけです。(153ページ)
そこで本書の最終章では、消費の要であるマイルドヤンキーに対して、どのようなものをどうやって売るべきかが提案されています。それらひとつひとつは充分に納得できるものばかりなので、楽しみながら読み進めることができました。
10年ほど前、葛飾区に住む知人の「地元で完結した」ライフスタイルに衝撃を受けた経験があります。その知人の志向が本書に書かれているマイルドヤンキーとほぼ同一であることを考えると、これはいまにはじまったことではないという気がしなくもありません。しかし、だとしてもマーケティング調査に漏れる彼らの消費力に注目することは、今後のビジネスを考えるうえで非常に重要なのではないでしょうか。
(印南敦史)