おしゃれなバーに恋人と出かけ、飲み物を注文します。グラスが目の前に置かれるまでのその間、きっとあなたは想像することでしょう。長い一日の終わりに呑む最初の1杯目の、どれほど美味なることか。月下のジャクジーにつかるかのようにそのドリンクに体ごと浸れたらどんなに素晴らしいか!
ですが、注文したドリンクがやってくるとそれはお酒というよりはなんらかの彫刻のように見えます。あなたの目の前に置かれるのは、ひとつひとつ手作業で形が整えられた巨大な氷の下に数ミリのスピリッツが注がれたロックグラス──。ドリンクを注文したはずだったのに、どうやらあなたが注文したのはカップに入れたボウリングボール、だったようです。
このボーリングボールのように巨大な氷には、意味があります
氷が大きければ大きいほど溶けるまでにかかる時間は長くなるので、スピリッツを薄めることがないというのがこの巨大な氷の意図するところです。同時に、氷が溶けないということは、ドリンクはさほど冷たくはならないということも意味します。
「Serious Eats」で Kevin Liu は次のように説明しています。
氷と冷却効果について話す場合、「希釈なくして冷却なし」というルールを覚えておくことが重要です。
氷のものを冷却する力のほとんどは、融解による熱に由来します。つまり、氷が水になる瞬間に周囲から熱を奪うのが氷の冷却力の正体なのです。
1グラムの氷が溶ける時に必要なエネルギーは1グラムの固形の氷の温度を1度上げるのに必要なエネルギーの80倍だといわれています。つまりドリンクの温度の変化は、溶けた氷の量と比例するのです。
化学に関する専門的な知識が乏しいので、「希釈がない状態では冷却が全くない」とは必ずしも言えないような気もしますが、「氷が溶けた分だけ冷却される」のはよく分かります。
また、スコッチをはじめとするウィスキーは、水を少量足すと味が開くともいわれているので、希釈が必ずしも悪影響というわけでもなさそうです(スコッチ愛好家が珍しいスコッチを手に入れた時、冷凍庫の氷を無造作に投げ入れるとは思えませんが、水を入れることはあるようです)。また大きな氷がドリンクの液体部分からはみ出している場合、はみ出している部分の氷はドリンクを冷やすことなく溶けてしまいます(代わりにその周辺の空気を冷やしているということになります)。
個人的には、時間が経つにつれ氷が溶けていくプロセスが結構好きです。またお酒がなくなった後に残された氷水を飲むのも、次のドリンクがすぐに手に入らない場合や、もう少し間を置きたい場合の場繫ぎに、ちょっと便利です。
カクテルの氷についてもっと理解を深めたい方は下記のリンクからどうぞ。
Cocktail Science: 5 Myths about Ice, Debunked|Serious Eats
Andy Orin (原文/訳:まいるす・ゑびす)
Image remixed from Christophe Richard.