敏腕クリエイターやビジネスパーソンに学ぶ仕事術「HOW I WORK」シリーズ第60回。二足のわらじを履きこなす女性クリスティーナ・シュウ(Christina Xu)さんに続く今回は、同じく2足のわらじをはきこなす26歳のライアン・ホリデー(Ryan Holiday)氏にインタビュー。
休日みたいな名前とは裏腹に、超多忙な毎日を送るライアン・ホリデー氏。衣料品小売業の American Apparel ではマーケティングディレクター、クリエイティブなマーケティング会社 StoryArk では共同経営者を務めています。先週のホリデー氏のスケジュールを見ると、それだけでもぐったりするほど。オースティン〜アトランタ〜マイアミ〜アトランタ〜ロサンゼルス〜マウイを飛行機で移動しつつ7冊の本を読み、ふたつの仕事をそつなくこなしているのだから驚きです。
ベストセラー書の著者でもあり、メディアにも多く登場しているホリデー氏。若干26歳の"メディア王"は、それだけの仕事をどうやってこなしているのでしょうか。気になる仕事術を聞いてきました。
- 氏名:ライアン・ホリデー(Ryan Holiday)
- 居住地:テキサス州オースティン
- 現在の職業:American Apparel のマーケティングディレクター、『Trust Me I'm Lying』などの著者、StoryArk の共同経営者
- 現在のコンピュータ:27インチ Mac デスクトップ、MacBook Air
- 現在のモバイル端末:iPhone5 。Mophie のケースと iPhone 標準のヘッドホンを愛用
- 仕事スタイル:常に
「これがないと生きられない」というアプリ・ソフト・ツールは?
メモカードで情報を整理
ホリデー:自分がもし火事に遭ったら真っ先に持って逃げるのが、長年書き溜めているネタ帳ボックス(上記写真)ですね。4"X 6"(ほぼ日本のはがきサイズ)のメモカードが数千枚入ってます。さまざまなアイデア、お気に入りの本からのメモ、気になった引用文、取り組んでいるプロジェクトやフレーズに関するリサーチなどのあらゆる項目を、師匠とでもいうべき存在のロバート・グリーンに教わった方法で整理しています。これは、彼の研究助手をしているときに教えてもらった方法です。読んだ本はすべて、これらのカードに要約を記し、大まかなテーマごとに分類しています。記憶力はあまり良くないのですが、カードの概略は頭に入っていて、書き物や講演などで必要な場合はネタ帳からカードを出してきます。多くの人が Evernote を使っていることは知っていますが、私は形のあるものの方が好みです。形あるものは、持って動かすことができますから。
メンバーの管理をスムーズにするには
ホリデー:優秀な人材の採用がいちばん大事なのはもちろんですが、それができているのであれば、おススメは Basecamp 。従業員管理やタスク管理に便利です。それに、15five もいいですね。これは、社員全員に週15分間レポートを書かせて、私(またはマネージャー)は5分で読めるというツールです。私は経営者でありながらオフィスにいないので、このようなツールは実に有用です。いつでも社内の様子を知ることができる一方で、社員は肩ごしに監視されているプレッシャーから自由になれます。それでいて、社員はいつでも問題を報告できるし、皆に見える形で仕事を進められるのです。読書は「強み」を与えてくれる
ホリデー:在宅勤務を始める前にもっとも辛かったのは、勤務時間中、読書のために席を離れられなかったことです。そんなことをすれば、周囲から働いていないように見られてしまうので。いえ、確かに働いてないのですが。私はどんなときでも、本を読もうとしています。大学は中退しましたが、本のおかげで同等もしくはそれ以上のことを教えてもらっている気がします。読書が、隠れた強みを与えてくれているのです。
新聞記事、ブログ、ビデオ、TED トークなど巷にはいろいろな情報源があふれていますが、基本的には本がいちばん好きです(もちろん実体験に勝るものはありませんが)。本を手に持っていないと、時間をムダにしているように感じてしまいます。紙の本を読んでいない時には、コンピュータ上で読みたい記事を Instapaper に保存し、スマホを使ってあとで読みます。記事はたいてい、Feedly か Flipboard で見つけます。
仕事場はどんな感じですか?
ホリデー:最近引っ越したばかりで、一から仕事場を作りました。おかげで、私の優先順位を反映した部屋に仕上がっていると思います。壁2枚は、天井から床まですべて本で埋まっていて(下の写真)、デスクはクローゼットの中に納まっています(上の写真)。出先でも仕事をします。最初の本はロサンゼルスとニューオーリンズの Athletic Club の図書室で書きましたし、最新刊はグラマシーパークの National Arts Club で書きました。出先では、古くて静かな環境に身を置くのが好きです。カフェなどで仕事をすることは皆無ですね。カフェなんて、思いつく限りの環境のうち、もっとも生産性が低くて結果が出ない場所のような気がします。仕事をするのにそれ以上悪い場所はないのではないでしょうか。
お気に入りの時間節約術は何ですか?
ホリデー:私のスケジュールは、いろんなことを同時にできるようになっています。朝起きて、自分を律することができたら、メールチェックの前に書き物をしますが、「一般的な」書き物の時間はそんなに大事ではないとも思っています。特定のタスクに向けた書き物でないとダメなので、それは記事であったり、ひとつの章であったり、長い文章の編集であったりします。終わりの見えない書き物は、やる気を失いがちなので。朝の1時間から2時間を書き物にあてた後、ガールフレンドと朝食を食べに出かけ(オースティンでは Kerby Lane 、ロサンゼルスでは Athletic Club 、ニューヨークでは Barking Dog )、そこでメールやクライアント対応をします。家に帰ってもそのまま仕事を継続し、午後にはランニングかプール。書き物にせよ仕事にせよ、苦しんでいた問題の解決策が魔法のように下りてくるのは、いつだって走っているときか泳いでいるときなのです。
それから夕飯までの数時間は、プールや路上で思いついたアイデアのまとめにかかります。いったい何度、「話しかけるなよ。今、書き留めるんだから!」と叫びながら家に走り帰ったことか。そうやって、忘れてしまう前に、ぽたぽた汗を垂らしながら、コンピュータまたはネタ帳用のカードに、必死にアイデアを書き留めるのです。
キャリアに関していえば、ふたつ以上のことを同時にするのは、生産性の面でも自己啓発の面でもいいことだと思います。書くことで、マーケティングがうまくなります。そして、マーケティングによって、書くためのいろいろなネタが頭に浮かびます。American Apparel は、クライアントと仕事をすることで助けてもらっていますが、American Apparel 固有の問題に対処したことで、別の仕事やプロジェクトで役に立つこともあります。ひとつのスキルや分野に全力投球できる人は、ある意味尊敬します。きっと私は、エネルギーがありすぎるか、忍耐力が足りないかのどちらかなのでしょう。
愛用中のToDoリストマネジャーは何ですか?
ホリデー:先述したネタ帳と同じはがきサイズのカードに、毎日のタスクを書き出しています(上の写真)。つい最近、予定を記録しておくために iPhone 上で Google カレンダーを使い始めました(理想的には電話や会議はゼロにしたいのですが、そうもいかないようです)。成功する CEO は、1日につき大きな ToDo を5つ持っていると聞いたことがあります。私もそれを心がけるようにしています。毎日、翌日の ToDo リストの概要を考え、カードに書き出します。翌朝起きたら、書き物をちょっとしてから、ToDo の対応に取り掛かるのです。ToDo をすべて完了したら、あとはメールや電話など、何でも臨機応変に対応します。でも、常にリストは完了させることにしています。事前に ToDo をカードに書き出すのは、多くて2日分(例えば金曜日であれば、土曜日分と日曜日分のカードを作ります)。最後の項目を横線で消すと同時にカードを破り捨てます。その瞬間が、この上ない喜びです。残りの時間は、自分のものになるのですから。
携帯電話と PC 以外で「これは必須」のガジェットはありますか?
ホリデー:本です。紙の本。これほど完璧なテクノロジーはないと思います。日常のことで「これは他の人よりうまい」ということは何ですか?
ホリデー:物事の本質を捉えるのが得意だと思います。できるだけ多くの目標を達成できる状況やシナリオを演じる方法を見つけられます。それはやりたいことばかりではありませんが、あらゆる決断には、必ず政治的で実践的な示唆がある。それと、ゆっくりながらも前進すること。私はベストでもスマートでもないけれど、常に前に進むことだけは心がけています。
仕事中、どんな音楽を聴いていますか?
ホリデー:音楽に関しては趣味が悪くて。これを見せたら墓穴を掘ってしまいそうですが、iTunes のスクリーンショットを2枚お見せします。2台のコンピュータにおける、再生回数トップ25の一覧です(恐らく、2台は同期されてるべきなんだろうけど、どうやったらいいかわかりません。古いデバイスのときはもっとひどかったけど、これらは新しいのでだいぶマシです)。どうです。ひどいものでしょう。でも、キャッチーでメロディックで、ラジオやシングル向けの曲が多いのがわかると思います。しかも、それらの曲を何百回も連続で聴きます。そうすることで、書き物や読書、そして考え事が進むのです。私以外の人には上記のリストは何の意味もなさないでしょうが、私にとっては、どの曲を繰り返し聴いているときにどの本のどの部分を書いていたかをお話しすることができます。もしくは、どの本を読んでいたかを。
でも、今は Cash Money Records の創設者であるバードマンとスリムと一緒に仕事をしているので、彼らの曲を聞くことが多いですね。ラップでも同じように、何百回も同じ曲を繰り返すことで仕事がはかどります。特に、最近のラップはいいですね。
今、どんな本を読んでいますか?
ホリデー:先週読んだ本はこちらです。Edmund Morris『Colonel Roosevelt』、Robert Evans『The Fat Lady Sang』、 Nathaniel Philbrick『In the Heart of the Sea: The Tragedy of the Whaleship Essex』(『白鯨』の基になった捕鯨船の話)、Chrystia Freeland『Plutocrats: The Rise of the New Global Super-Rich and the Fall of Everyone Else』、George Orwell『Why I Write』、Dashiell Hammett『The Maltese Falcon』、Monte Reel『Between Man and Beast』(ビクトリア朝の時代に、初めてゴリラを撃ちロンドンに持ち帰った男の話)
私は通常、月1で発行しているおススメ本のメルマガのためにたくさんの本を読みます。でも、今週は多くの時間を飛行機で過ごしました。フライト中にお金を出して Wi-Fi につなぐぐらいだったら、たくさん本を読めるのにと思ってしまいます。
あなたは外向的ですか、内向的ですか?
ホリデー:間違いなく内向的です。睡眠習慣はどのようなものですか?
ホリデー:ショーペンハウアーから引用します。「睡眠とは、死ぬときに支払わなければならない、資本に対する利子なのだ。利率が高ければ高いほど、また、定期的に支払いをしているほど、償還日は延期される」(ちなみにこれも、ネタ帳から引っ張ってきました)。年がら年中寝ているわけではないけれど、少なくとも7-8時間は寝ることが大事だと思ってます。徹夜は、人生で片手で数えられるほどしかしたことがないです。深夜まで働くのは無意味だし、そもそも計画がなってないからそうなるんですよね。早く起きたときには、早めに寝ることで折り合いをつけています。あなたが受けたものと同じ質問をしてみたい相手はいますか?
ホリデー:Bo Jackson、Mark Cuban、James Franco、Ta-Nehisi Coatesです。これまでにもらったアドバイスの中でベストなものを教えてください
ホリデー:「善人であること。本当に好きなことをすること。その2つだけが、人生のルールである」。誰の言葉かは忘れましたが、私は常にこれを意識しています。それから、デスクの上に、ストア派哲学のふたつの言葉を掲げています。ひとつはセネカの短い一節で、「望むように生きるための気まぐれが足りず、始めのままに生きる人がいる」というもの。もうひとつは、マルクス・アウレリウスによるもっと長い一節です。こちらは年を取るにつれてあまり意味をなさなくなってきましたが、まだ駆け出しだったころ、スティーヴン・プレスフィールドが言うところの「レジスタンス」を抑え、私を奮い立たせてくれるものでした。
ほかに、ファンや読者に伝えたいことがあれば、どうぞ。
ホリデー:最近考えさせられたのが、経済学者タイラー・コーエン氏のこの一節。恐ろしくもあり、刺激的でもあります。今日の国際経済において希少なもの:
- 良質な土地と天然資源
- 知的財産、または何を生み出すべきかについての優れたアイデア
- ユニークなスキルを持った良質な労働力
ありふれているもの:
- スキルのない労働力。国際経済に参入する国が増えているため
- 銀行または公債に預けられたお金。単純な資本として考えることができ、特別な所有権と無縁のもの
(タイラー・コーエン『Average is Over』より)
Tessa Miller(原文/訳:堀込泰三)