Inc.:インバウンドマーケティングという言葉をご存知ですか? 物を売る際、広告で顧客に迫るのではなく、コンテンツを駆使して顧客を呼び寄せるというアイデアです。

ところが先日、インバウンドマーケティングの伝道師を自認するHubspotの共同創設者ダーメッシュ・シャア氏が、とても奇異な行動に出ました。5000人の従業員と顧客を前にして、「インバウンドマーケティングは解ではない」と宣言してみせたのです。今は情報のパワーバランスが顧客寄りになっているため、「人間を解く」のがベストな戦術だと。

その意図について、シャア氏にインタビューしてきました。──インバウンドマーケティングでビジネスを築いてきたあなたが、それを解ではないという理由は何ですか。

シャア:とても便利な電子書籍またはビデオを見つけたとします。あなたはきっと、それを作った会社を探し出そうとするでしょう。これは完全なるインバウンドマーケティングに該当します。でも、販売部門の対応がひどかったらどうでしょう?

「販売部門はひどくても、マーケティングが素晴らしかったからいいや!」とはならないはずです。つまり、どんなに素晴らしいインバウンドマーケティングよりも、可もなく不可もない販売の方が、ずっと重要度が高いのです。

──あなたが提唱するマーケティング手法がプロセスの最初で最後になることはないと。

シャア:多くの企業が、生身の人間に物を売っていることを忘れています。人間が気にするのは、マーケティング、販売、サービスなどそれぞれの体験ではなく、その全体なのです。この時代に本当の勝利を収めるには、「人間を解く」必要があります。各プロセスは、あなたの組織ではなく、顧客に最善の結果をもたらすように最適化されるべきなのです。

──どの会社も、そんなことはすでに実施していると言うのではないでしょうか。どこのブランドステータスにも、「人間を優先しています」というようなことが書かれています。

シャア:かつてブランドとは、その会社に対する人々の認識を意味していました。ところが、今やブランドは、人間の心だけでなく、アルゴリズムの中にも息づくようになりました。例えばGoogleのアルゴリズムは、ウェブページに質の高いコンテンツが含まれているかどうかを予測します。つまり、あなたの会社の成功の一部は、Googleのアルゴリズムによる評価によって決まってしまうこともあるのです。

──ブランドの未来はどうなっていくのでしょうか。

シャア:将来、迷惑なセールス電話がかかってきたら、「無視」を押すだけでなく、その番号に不信任票を投じることができるようになるでしょう。また、着信時に発信者のIDだけでなく、評判までわかるようになるかもしれません。新しいツールの開発が進むにつれ、個人よりもアルゴリズムの方がずっとうまくブランドを評価できるようになります。これは、アルゴリズムが何千ものデータ反応に基づいているからなのです。

──ひとことで言えば、顧客による支持の力をつなげることが解だと。

シャア:B2Bの顧客に喜んでもらえれば、長期顧客になります。そのような顧客は周囲の友人や同僚にあなたのことを宣伝してくれ、アルゴリズムによるブランドも高まるでしょう。そしてその人が仕事を辞めるとき、次の職場にもあなたのビジネスを持ち込むはず。つまり、顧客生涯価値より、人物生涯価値を考えるべきだと思います。人間は、企業から物を買うのではなく、人間から買うのですから。だから、スマートな企業は、「人間を解く」ことを最重要目標に掲げています。

──人間を解くための法則を4つ挙げてください。

シャア:第一に、人間は中断を嫌います。つまり、何かをしようとしているときに出てくる広告(特にポップアップ広告)ほど嫌われるものはありません。そんな苛立ちを与えるような相手から物を買う人は、まずいないでしょう。

第二に、人間はアルゴリズムを動かします。今後ますます、声の大きい顧客が、あなたのビジネスに対する認識、ひいてはあなたの成功を決定づけるアルゴリズムへの影響力を高めていくでしょう。顧客の声の内容と発せられる場所に注意を払ってください。

第三に、人間は商品だけを見ているのではありません。あなたの売り方も見ているのです。購入者の多くは、あなたに話しかける時点ですでに、購入プロセスの途中まで足を踏み出しています。必要な情報を与えて、自ら購入を決めるように導きましょう。

最後に、人間はトータルな経験を切望します。マーケティングから販売、サービス、納品、フォローアップに至るまでの一連のプロセスを、顧客に合ったパッケージとして提供する必要があるのです。

How to Sell to Humans | Inc.

Jeff Haden(訳:堀込泰三)