以前紹介した、堀江貴文さんによる仮出所後初の書き下ろし最新刊『ネットがつながらなかったので仕方なく本を1000冊読んで考えた』(角川書店刊)がTwitterなどで話題になっています。
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本書は堀江さんが刑務所の中で読んだ本を、思索の数々とともに綴る、まさに"獄中仕様"のブックガイド。手にできる情報が限定される刑務所という状況の中で、いかにして良書と出合っていくのか。そのプロセスを知ることで、日ごろの情報収集も、よりうまくいくかもしれません。
膨大なプロセスと制約を経なければならない上、本というのは、ウェブマガジンのようなニューメディアではなく、時間対効果はよくない。ハズレを引いてしまうことによる1冊あたりの時間的損失は計り知れない。 (「プロローグ」より)
刑務所は特殊な環境とはいえ、一般社会においても、すぐに賞味期限が切れる知識しか得られない本に膨大な余暇の時間を奪われるのは、致命的な損失になり得るでしょう。今回は、本書の中から、堀江さんが刑務所内で実践してきた読書術を紹介したいと思います。
1.読んでいる雑誌の書評欄は全部チェック。書評があまり無いような雑誌に"掘り出し物"がある
まずは本の選び方から。
本好きが読むような雑誌とかには、何かもう、それこそ「本好きが読みそうな本」しか出てこないんですよ。
マニアックな雑誌というか、書評があまりないような雑誌、たとえば『日経ビジネス』の書評とかに、けっこう掘り出し物があるんですよ。 (いずれも第2部「『どうやって僕らは本を探し、読むのか?』堀江貴文×成毛眞・対談」より)
本好きが手に取る雑誌には、本好きのための書評があります。読者のニーズには忠実でも、時にそれは予定調和的であり、サプライズに欠けることもあるようです。
逆にいえば、日ごろ自分が選んで手にしている雑誌は、そもそも自分の趣味嗜好に合っているわけですから、そこで時折出される書評こそが「要チェック」。本書によると、堀江さんは『週刊アスキー』や『ナショナルジオグラフィック』を愛読しており、その書評は必ずチェックしているそうです。
2.情報が入ってきたら、すぐにビジネスモデルにしてアウトプットする習慣をつける
サイエンス系のノンフィクション本を開いていると、字を読むことよりもビジネスモデルを考えることのほうに頭を使ってしまう。それがむしろ普通だ。だって、そのほうが生産性が高いから。本の内容なんて読んでもすぐ忘れちゃうし。「後で考えよう」と思っても、その時は永遠にやってこない。 (第1部「僕が本を読んでツラツラ考えたこと 1.仕事・ビジネス 常に何かを『生み出す脳」に』」より)
堀江さんにとって、本は獄中での主力情報源のひとつでした。そして情報が入ってきたら、「この技術があれば、こんなビジネスが可能かもしれない」と、条件反射的に考えていたそうです。
たとえひとつの情報にすぎない本にも、主観的に関われば、自分の働き方もずいぶん変わっていきそうです。
ここでは、『バイオパンク』(※1)という本が紹介されています。
この本のテーマは「DIY生物学」、つまり、人の体を調べることができるのが医者だけではなくなり、アマチュアの"バイオハッカー"に取って代わられる世界を描いています。そしてインターネット上で生命が情報化され、オープンソースの時代に突入していく生命科学のこれからが綴られます。
そして堀江さんは現在、医療系のビジネスについて構想しているようで、本書にはそのことも詳細に触れられています。
『バイオパンク』からの知見も生かされたサービスを、私達は近い未来に目にするかもしれません。
3.塀の外でも中でも、結局自由になれるのは、その他大勢が持っていない知識を身につけた者だけ
堀江さんは、服役中に刑務所をとことん研究しています。
刑務所は、これから服役する多くの人にとっては異世界だ。いろんなことがわからない。部屋に『被収容者の手引き』なるものがあるのだが、これではちょっとわからない。『逐条解説 刑事収容施設法 改訂版』はこれから入る人には、そのルールを知る上ではマストな1冊だろう。 (第1部「僕が本を読んでツラツラ考えたこと 3.生き様 シャバで読んでも面白い獄中本」より)
そして、服役中も配信され続けたメルマガは全て、堀江さんが手書きで執筆し、手紙としてやりとりしていたものだったといいます。
「発信」、つまり外に手紙を出す行為。...表ルールでは、...1枚あたりの文字数については、法律では「400字以上を認める」となっている。...さらにややこしくて、長野刑務所のローカルルールでは、「400字程度にしろ」となっている。...僕はできるだけ多く発信したかったので、最初は1200字ぐらい書いて、「字が小さいぞ」と怒られた。それで、次は600から800字ぐらいにした。...でも、それは黙認してくれていた。ありがたい...。といったところで裏ルールになる。 (第1部「僕が本を読んでツラツラ考えたこと 3.生き様 シャバで読んでも面白い獄中本」より)ルールを鵜呑みにするのではなく、研究し、実験して検証し、事実を知り、最大限のことを行う。堀江さんのそうした姿勢は獄中でも変わりません。結果として、彼のメルマガは今もずっと多くの支持を得ているわけです。
「無理だ」とあきらめる前に、自分の研究の総量を疑ってみることも大切かもしれません。その時、読書は大きな助けになるでしょう。
本書では「シャバで読んでも面白い獄中本」として3冊紹介され(※2、3、4)、堀江さんが刑務所内で行った観察も合わせて綴られています。
4.自分が欲しいサービス・モノをつくりたいと、ただただ思って行動する
ライブドアの社長をやって、タレントもやって、文筆家になって、服役...はちょっと大変だったけど(笑)、ロケット事業も立ち上げて、これからやりたいことなんて数え切れないくらいあって、結局、思い切り楽しんでいるつもりだ。というか、楽しいことしかない。 (第1部「僕が本を読んでツラツラ考えたこと 1.仕事・ビジネス『自分だけが見られる景色』──僕がロケットを飛ばす理由」より)
堀江さんがいつも人を惹きつけるのは、類まれなエンターテイナーの素質にあることは自明です。そして、そんな彼のパーソナリティも、読書から生まれているのかもしれません。
ここでは『ロケットボーイズ』(※6)という本が紹介されています。アメリカの片田舎でロケットの打ち上げに夢中になった高校生たちの感動と興奮の物語です。著者であるホーマー ヒッカム・ジュニアは、幼少期を炭鉱町の落ちこぼれとして過ごします。平凡な毎日から抜け出すべく、仲間とともにロケットを飛ばす青春を過ごし、ゆくゆくはNASAのエンジニアになってしまいます。その姿に、堀江さんは現在取り組んでいるロケット事業の情熱を重ねます。
その書評からは、堀江さんがどれだけ事業を楽しんでいるかが伝わってきます。
何か自分が主人公と同じ目線で感動を分かち合えるような本、そんな本の存在は、自分の情熱の在り処を教えてくれるのかもしれません。
5.どう生きるかを決めるのは自分自身だが、人がどう生きたかを教えてくれるのは、案外、本だけだったりする
今や生き方は多様化を極めています。
転職が当たり前になり、ノマドのようなワークスタイルも人気を集め、起業はそれほど珍しいことでもなくなりました。さらにはいい大学を出てもいわゆる一流企業に進まず、スキルの身につきやすいベンチャーへ就職することも、少なくありません。
状況に応じて、考え方を変え、視点を変えて、変化するしかない。この変化を楽しめる人が、結局は勝ち残るし、何より楽しめるはずだ。 (第1部「僕が本を読んでツラツラ考えたこと 2.情報『高学歴脱線』に見る、生き方の"今"」より)
刑務所というすさまじい多様化の果てにいながらのこの発想には驚かされます。
ここでは『山賊ダイアリー』(※7)と『ニートの歩き方──お金がなくても楽しく暮らすためのインターネット活用法』(※8)が紹介されています。
『山賊ダイアリー』は、東京の池袋のバーでデートをしていた著者が、突如、自分の生まれ育った岡山県のど田舎へ帰り、猟師ライフを謳歌する様子が楽しく綴られます。食の在り方や生命観、さらには生き方など、様々なテーマが猟師というライフスタイルから描かれます(また、実際に堀江さんの友人が東大を出て猟師になったとか)。
そして『ニートの歩き方──お金がなくても楽しく暮らすためのインターネット活用法』は、勉強は京大に入れるくらいにできるけど、実社会で仕事をして生きていくことがまるっきりダメな著者が、ニートの手引書を綴ります。しかし、このニートの手引書は、同時にインターネットを使って効率的かつ経済的に生活を営む手引書にもなっているとか。ニートも多様性の極端な例であり、そこから学ぶことは多そうです。
"多様化"の最先端の生き方を知ることで、今の自分の生き方が、どういうものかも分かるだろう。
私達はメディアの情報によって社会の動きを知りますが、実際に人がどう生きているかまではなかなか見えてきません。そして、当事者に直接会う時間も機会も限られています。
そこを補ってくれるのが、読書なのです。
刑務所という情報の壁の向こう側で、時間と戦いながらキュレーションされた42作の名作たちとともに綴られる、堀江貴文さんの読書術。
本の見方と生き方が変わる一冊です。
この壁をいかに乗り越え、面白い本を手に入れたか──僕の試みの結晶が、この本におさめられたブックリストである。
──堀江貴文
(ライフハッカー編集部)