『20%ドクトリン サイドプロジェクトで革新的ビジネスを生み出す法』(ライアン・テイト著、田口未和訳)は、斬新なアイデアを生み出すために欠かせないコンセプト「20%ドクトリン」の可能性を浮き彫りにした書籍。ある意味でここには、健全な企業のあり方が提示されているといえるかもしれません。
では、「20%ドクトリン」とはなんなのか? そのことについては、「はじめに」で著者が説明しています。
これはグーグルで最初に考案された方針である。グーグルの社員は、勤務時間の5分の1を自分が思いついたプロジェクトに使うことが認められ、ときにはそうすることが奨励される。週に1日でもいいし、月に4日でもいい。あるいは1年に2カ月半でもかまわない。厳密なルールはない。
(17ページより)
つまり勤務時間中の20%を自分の考えのために用いることで、従来の勤務体系内では思いつけないような斬新なアイデアを生み出そうというわけです。ちなみにここでは、グーグルの共同創業者であるラリー・ペイジの言葉も引用されています。
「通常、会社が大きく成長すると、革新的な小プロジェクトは進めにくくなる。私たちもしばらくはこうした問題を抱えていたので、新しいコンセプトが必要だぞ、ということになった。...つまりこれは、グーグルで働くかぎり、勤務時間の20%は自分で最善と思うことに使うことができる、という考え方だ」
(18ページより)
事実、グーグルのサービスであるGmailやアドセンスなども、20%ルールの成果として生まれたものなのだとか。そして、そこで注目すべきが「20%ドクトリン」だというのですが、果たしてそれはどんなものなのでしょうか?
20%ルールを革新的に変える「20%ドクトリン」とは
20%ルールの精神に従って急成長する企業への取材を重ねるなか、著者はそれらの組織に共通した方針があることに気づいたそうです。つまり、それが「20%ドクトリン」。以下がその概要です。
・創造性を発揮する自由を与える
20%ルールのようなシステムを設けることは、それ以外の80%の時間を支配する管理体制からスタッフを解放すること。そうすることで、通常業務の範囲外にあるアイデアや、普段なら行き場を失うようなアイデアを具体化する仕組みもできあがるというわけです。(25ページより)
・情熱を理解する
夢中になることと日々の仕事は、"重なり合わない"こともあります。でも20%プロジェクトなら、スタッフに自分が共感するプロジェクトを担当させることが可能。士気の向上に役立ち、結果としてプロジェクトの成功にもつながるそうです。(25ページより)
・製品は悪いほうがいい
重要なのは、とにかく製品をかたちにして送り出すこと。改善はあとからいくらでもできるので、最初のバージョンは必要最低限の機能だけにとどめ、場合によっては荒削りなものにせざるを得ないとか。(25ページより)
・再利用する
最善のサイドプロジェクトは、"ハック"としてスタートすることが多く、既存の製品やテクノロジーを賢く利用するもの。再利用することですばやく、そして少ない作業で立ち上げられれば、そのサイドプロジェクトは優位に立てるというわけです。(26ページより)
・すばやいイテレーションを繰り返す
成功する20%プロジェクトは、イテレーション(短い間隔で改善や機能追加を繰り返す反復型の開発サイクル)を使って雪だるま式に成長し、成功に向かって進んでいくのだとか。改善のたびに議論を呼び、ユーザーの注意を引き、支持者の獲得につながるからだといいます。(26ページより)
・学んだ教訓を伝える
20%プロジェクトの課題は、いかにして会社を巻き込むかということ。サイドプロジェクトを成功させる者は常に、上司、スタッフ、サポーターなどにそのプロジェクトを売り込んでいるもの。つまり彼らが教訓やアイデアを共有しながらプロジェクトを進められるのは、決して偶然ではないわけです。(26ページより)
・部外者を取り込む
破壊的なビジョンを売り込み、具体化させるために必要なのは外部の人たち。20%プロジェクトは通常の枠組みの外に助けを求めることができるため、社内の別グループのスタッフや、あるいは社外の人の協力を仰ぐことになるかもしれないといいます。外部からの助けは、実際の作業、助言、非公式の承認などさまざま。(27ページより)
ヤフーのハックデイ、写真共有サイトのフリッカー、ハフィントン・ポストの市民記者メディアなど、20%ルールによる成功例が、本書ではリアルな筆致で描かれています。もしかしたらそれらは、マンネリ化しがちな日常をスリリングにするためのアイデアにつながっていくかもしれません。
(印南敦史)