GigaOM:アメリカの有力紙「The Washington Post(ワシントンポスト)」がAmazonのCEOであるジェフ・ベゾス氏に2億5000万ドル(約240億円)で売却されたというニュースは、世間をあっと驚かせました。ベゾス氏が今後、ワシントンポスト紙をどう変革させていくのかは、まだ闇に包まれています。

以下は、(アメリカのウェブメディア「GigaOM」が考えた)ワシントンポストを再建し、新聞の未来を活気づけるために「ベゾス氏が実行すべき5つのこと」です。

1.紙媒体の新聞を止める

急進的なアイデアだと思われるかもしれませんが、誰かが紙の新聞を中止するのならば、ベゾス氏こそがその人物であると考えます。多くの新聞が、この決定を下せないのは、落ち込んでいるとはいえ、新聞広告から得られる利益がいまだに多いからです。しかし、ベゾス氏にとって利益性は最重要事項ではないため、この点を心配する必要がありません。

紙媒体のワシントンポストの購読者数は過去10年間で約半減し、50万以下まで落ち込みました。紙の新聞の購読者数は、印刷広告の市場と同じくらい急速に低下しています。紙の新聞を中止することは、ワシントンポストがデジタル化の未来に本気であるという強い意思の表れとみなされるでしょう。

2.ワシントンポストをKindleのエコシステムに組み込む

ベゾス氏は何百万人ものユーザーを持つ電子書籍デバイス「Kindle」に多くの時間と情熱を捧げてきました。ワシントンポストの読者層を広げる手段としても、KIndleを活用することが考えられます。Kindleとワシントンポストの連携を強め、ワシントンポストの書き手による電子書籍を、値引きした価格、または無料でKindle上にて公開するといったことがありえます。

識者による推測では、ワシントンポストのトップページをKindleに表示させたり、今後のKindleの販売促進活動においてワシントンポストの購読を推進するといったことは、容易に実現可能だろうと言われています。さらに、AmazonはKindleユーザーの嗜好に関する情報を握っています。それはワシントンポストにとっても、非常に有用な情報となるでしょう。

3.既存の広告モデルを壊す

新聞社にとって最大の財政問題は、部数や購読者数の落ち込みではありません。問題は、デジタル版の新聞におけるネット広告が、紙の新聞の広告収入の落ち込みを補うほどに利益を上げていない点にあります。一部の広告主はデジタル版の新聞を避け、他のウェブサイトやGoogleAdSenseのようなプログラム化された広告を好んでいます。新聞社がネット広告のノウハウを習得していないからです。

ベゾス氏は利益について心配する必要がないゆえに、広告やコンテンツに関しても大胆な変更を実行できるでしょう。従来のバナー広告や、コンプレックス産業による広告を拒否し、広告主が料金を支払う価値があると思えるような仕組みをつくるのです。雑誌広告に似た形式の広告、スポンサー付きのコンテンツ、Kindleユーザーに向けて広告配信するなどの方法が考えられます。その際、Amazonのユーザーとユーザーの嗜好に関するデータを活用することができるのです。

4.読者の好みに合わせて情報を配信する

個々の顧客の好みに合わせて商品を推奨するレコメンドシステムが話題になっていますが、Eコマースの分野において、実質的にはAmazonがこのシステムを作り上げたようなものです。「ワシントンポストを買った人はこんな商品も買っています」というジョークが流行っているほどです。

これまで、新聞はレコメンドシステムをうまく活用できていませんでした。個々の読者に関する情報が不足していたため、おすすめ機能がほとんど役に立っていなかったのです。この点において、Amazonは解決方法を持っています。ワシントンポストの読者の嗜好について多くの情報を入手し、それに基づいてAmazonのアルゴリズムを調整し、より個々の読者に合わせた情報配信を可能にできるでしょう。

5.デジタル版のワシントンポストを革新的に変える

ワシントンポストだけでなく、多くの新聞社が直面している問題は、紙媒体がまだ主流であったネット初期時代からコンテンツ管理システムが進化していない点にあります。これが足かせとなって、デジタル版に注力できずにいるのです。

Amazonの強みは、クラウドを活用したデータ分散プラットフォームを構築できる点にあります。AmazonウェブサービスやEC2を含めたクラウドサービスの開発は、Amazonが従来の書籍販売モデルをほぼ完全に崩壊させたのと同じほど、革新的であり重要な意義を持っています。より融通のきくコンテンツ管理システムを導入することで、ワシントンポストは「The Huffington Post(ハフィントンポスト)」や「Politico」といったオンラインメディアの競合とも争えるレベルになるでしょう。

ベゾス氏がどのようにワシントンポストを変革させていくかは分かりませんが、個人的には上記のうち少なくとも1つか2つは実行してもらいたいと思っています。その変革は、次世代のデジタル新聞を築く上で、非常におもしろい実験になるでしょう。

Five things Jeff Bezos should do to reinvent the sinking ship that is the Washington Post | GigaOM

Mathew Ingram(訳:佐藤 ゆき)

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