「コネ入社」と聞くと、何だかズルをして会社に入ったような、マイナスのイメージをもつ人は多いのではないでしょうか。
2012年2月、岩波書店が新卒・中途採用の応募条件として「社員・あるいは著者の紹介状」と明記したことが話題になりました。賛否両論ありましたが、厚生労働省はこれを「違法ではない」と判断し、「コネも実力のうち」と、コネに対する世の中の見方が少し変わったような気がします。
人気バラエティー番組「ホンマでっかTV!?」(CX)のゲスト評論家として独特の存在感を放っているキャリアコンサルタント、砂山擴三郎(すなやまこうざぶろう)先生が5月末に『最強コネ力のつくり方鍛え方 コネこそ実力! コネで入って何が悪い!』(ダイヤモンド社刊)という最新刊を出版されました。なかなか過激なタイトルです。
先生がこの本に込めた思い、そしてコネとは何なのか、どうすればコネを使って転職できるのか、さらに、コネで入った後は何に気をつければいいのか、先生に詳しくお聞きしました。(イラスト/小迎裕美子)
条件の悪い人ほど、コネを使ってほしい
転職活動を行う際の3大手段は、「公共職業安定所(ハローワーク)」、「求人広告」、「縁故(コネ)」の3つです。厚生労働省の調査によると、いま転職者の4人に1人がコネを使って就職しているとのこと。
「これだけコネが一般的なものになっているのに、そのノウハウを説いた本は今までなかった」と砂山先生。特に、「年齢が高い」、「転職回数が多い」、「一貫したキャリアがない」、「資格がない」という、いわゆる条件の悪い人こそコネを使ってほしいと砂山先生は言います。
その理由は、「履歴書では熱意が伝わりづらい」から。どれだけ強い気持ちがあっても、条件が悪い人は書類審査で落とされてしまいがちです。もしコネがあれば、書類審査の次の段階である面接に進める可能性が高くなるのです。
コネで成功した人のほとんどが、終わったあとに「最初からやっておけば良かった」と言うそうです。
「だから、『最初から言ってるじゃないか!』って私は思うんですよ。みんな職安ばっかり行って、それ以外の方法を使わない傾向がある。それで仕事が見つかりません、って、当たり前だろ!」
せ、先生、落ち着いてください! では、具体的にどのようにコネを作ればいいのでしょうか?
コネは日々の「努力」でつくる
1.「縁故人脈図」を作り、日々更新する
まずは、自分の人脈の棚卸しを行います。どのような知り合いがいて、その親密度はどの程度なのかをリスト化。人脈数は年齢の2~3倍を目指しましょう。
思い出す手段としては、年賀状や卒業アルバム・名刺を見直したり、また行動を振り返り、最近会った人、連絡をとった人を思い出してみると広がります。
人間関係は日々変わっていきますので、人脈図は1年に1回ほどのメンテナンスを行います。
(縁故人脈図の作り方は、書籍の44〜45ページでも解説されています。)
2.SNSを有効活用する
SNSを使った転職活動も最近では増えてきています。その代表例がFacebook。近況を知らせ合ったり、学生時代の古くからの友人ともつながりやすいツールです。コメントやいいね!をマメにして、関係性を維持・拡大していきましょう。
まだまだ日本でのシェアは少ないですがLinkedInも転職活動には有効です。使用目的が「ビジネス」に特化しているのが特徴で、自分のキャリアをアピールすることができます。特に外資系企業を目指す人にはおすすめで、転職サイトの一つと割り切って使ってみてもいいでしょう。
(参考)日本では流行ってない!? LinkedInをキャリアに活かすための4つのヒント
3.挨拶状、お礼状を欠かさない
就職を依頼できそうな人に会った場合は、別れた後のフォローが最も大事。そのままにせず、すぐにお礼状を出しましょう。メールのあとで書面を送るのがベスト。また、前職を退職する際の挨拶文がそのまま求職依頼にもつながりますので、たとえ理由がリストラであっても、挨拶文は工夫して出してみてください。(新刊では、退職挨拶文も丁寧に解説されているようです。)
やってはいけない
ただし、「やってはいけないコネもあります」と砂山先生。
例えば、公務員のコネ採用は法律違反です。その他、採用と引換えに一定金額以上の商品購入や企業への参入許可などといった見返りを暗黙で約束するケースや、占い師や悪質な金融ブローカー、総会屋、闇金融といった人たちからの紹介なども、あとでトラブルになる可能性が高いので、避けた方が賢明です。
コネを使う前に、「やってはいけないコネ」(こちらも、詳細は新刊171ページをチェック)についても、最低限の知識を身につけておいた方が良さそうです。
めでたく入社できたあとは
コネ採用は、入社後も不安がつきまといます。
採用が決まったものの、いざ入ってみると仕事内容や社風が自分に合わなかったり、人間関係がうまくいかなかったりしたらどうしよう、口を利いてくれた人の手前、辞められないのではないか、と心配してコネを敬遠する人も多いのではないでしょうか。
「確かにそういうトラブルは多いですね」と先生も苦笑い。でも、次の2点に気をつければ、入社後のトラブルを大部分は防ぐことができます。
1.とにかく一生懸命仕事をして成果を出すこと
いくら内密に進めたとしても、なぜか「コネ入社」であることは社内に広まることが多いそうです。「あの人はコネ入社だから仕事ができない」と陰口を言われる人も。
「とにかく、一生懸命仕事をして成果を出すことが大事」と砂山先生。
「頑張っていれば入口など関係なくなります。それに、人のうわさも75日。仕事でしっかり成果を残していれば、いつのまにかうわさはなくなります」
2.紹介者への連絡を欠かさないこと
紹介してくれた人には、定期的に報告をするようにしてください。「めでたく入社できたら終わり」ではありません。
いま、どんな仕事をしているのかという現状報告と、さらに失敗したこと、人間関係でうまくいかないことなど、マイナスなことも、その都度報告します。日頃から話をしていれば、退職することになったとしても、トラブルになることは少ないのです。
「入った人の大部分が自分の実力で入ったような顔をするんです。人は助けてもらったことはすぐに忘れてしまう。それじゃあ、二度と助けてもらえないでしょう」
はい、先生! 肝に銘じます。
助けてもらったら、今度は自分が助ける
いまは、生涯転職5回の時代。現在勤めている会社でサラリーマン生活を終える人は少ないはず。だからこそ、人間関係を大事にしなければなりません。
これを先生は「GT(=ギブアンドテイク)残高」という言い方をしています。
「このGT残高を増やすことが大切です。人生には浮き沈みがあるでしょ。助けるときもあれば、助けてもらうこともある。助けてもらったら、今度は自分が助ければいいんです。コネとは『お互い様』の精神から生まれるものなんです」
そう話す砂山先生に、いままさに転職活動中の方にアドバイスをいただきました。
「コネを使うことは、勇気がいることです。でも、今は甘い時代じゃない。使えるものは全部使わないと。私はコネだけを使えと言っているわけじゃないんです。職安や求人広告を使うように、コネも使った方が成功率が高くなる。コネで入社しても、自分の価値が落ちるわけではないんだから。一歩踏み出す勇気を持ってほしい」
最後まで砂山先生節が炸裂でした。
しかし、先生の心の中には、「厳しい時代を何とか知恵を付けて生き抜いて欲しい」という若者に対する叱咤激励と愛情が溢れていることを感じました。
コネとは、決してラクやズルをして就職する手段ではなく、他の就職手段と同じように、努力してつかむものだということがよくわかりました。就職のチャンスを広げるために、コネを転職活動の選択肢に加えてみてはいかがでしょうか。
(尾越まり恵)