Appleが先日発表した新サービス「iTunes Radio」注目を集めたものの「ものすごく目新しいもの」ではなかったため、世間の目はすぐに別の話題に移ってしまいました。

表面上は確かにその通りなのですが、Appleが強みを発揮すれば同サービスはもっともっと輝く可能性を秘めています。ここでは、磨けば光る原石であるiTunes Radioの魅力についてお伝えします。

編注:2013年6月18日現在、iTunes Radioが日本で利用できるかはまだアナウンスされていません。米LifehackerのAlan氏が「米国でのサービス内容」について解説しているので、これを元に日本版がどうなるか予想してみましょう。

iTunes Radioに秘められた可能性

iTunes Radioに秘められた可能性

当初、一部のファンからは有料サービスの「iRadio」が出るのではという期待がありましたが、iTunes Radioはそれに反するものでした。

でも、考えれば考えるほど、私はそのすごい可能性に気付かされ、「もしかして、もっとワクワクしてもいいのでは? 」と思うようになったのです。

問題は、Appleがその可能性をきちんと伝えようとしなかったこと。なぜか、ごまかすようなプレゼンしかしなかったのです。代わりに私が、iTunes Radioの基本情報をお伝えしましょう。

  • 広告付きの無料ストリーミングラジオサービスである:自分のライブラリやiTunes Music Storeから曲を選んだり、iTunes Musicチームが用意するステーションを開くことで、自分だけのステーションを作成・カスタマイズできます
  • iTunes Matchの登録ユーザー(年間25USドル)は広告なしに
  • スキップは無制限。「play more like this(こういうのをもっと)」「never play again(もう聞かない)」を選択することで、ステーションを微調整できる(というウワサ):ほかのインターネットラジオサービスにも同様の機能があるので、そんなに新しいことではありませんが、これがなければ始まらないと言ったところでしょうか
  • iTunes Radioは、iTunesライブラリに含まれる曲やiTunes Music Storeで購入した曲に合わせてステーションのクオリティを向上する:これはスゴイ! Appleによると、「あなたのステーションは、プレイした曲やダウンロードした曲に合わせて進化します。iTunes RadioやiTunesを使えば使うほど、あなたの音楽の趣味がわかり、よりあなた向けの選曲ができるようになるのです」。iTunes Radioは基本的に、ストアでの傾向だけでなく、あなたのiTunesでの傾向にも注目します。個人的には、そこにGeniusも考慮に入れてくれるともっと素晴らしいと思うのですが、これは憶測にすぎません。とにかく大事なことは、あなたのライブラリとiTunes Storeの両方から音楽の趣味を予測し、ステーションを作っていくことです

上で紹介した機能のほとんどは、正直「普通」と言えるでしょう。多くのストリーミングラジオサービスが提供しているものと変わりありません。しかし、最後の項目である「既存の音楽コレクションと過去の再生の傾向を活用する」ところが、iTunes Radioの最大の強みです。

ほかにも便利な機能はたくさんあります。

  • Siriの統合
  • 完全な再生履歴:以前聞いて頭から離れない曲を買わせるための戦略であることは明らかですが、ほかのラジオサービスにはない機能です
  • 「人気」のステーションや「新規開拓」のステーションを選べる:流行りの曲を聴きたいときや知らない曲を聴いてみたいときなど、気分に合わせてステーションを選べます

磨けば光る原石

磨けば光る原石

iTunes Radioは今のところ堅実な音楽ストリーミングサービスのように見受けられます。他を圧倒する機能があるわけではありませんが、十分に競合にはなり得るそうです。

その理由は、スペックシートやAppleのプロモーションページには書かれていません。ほかがやっているからやるという理由ではなく、Appleがその強みを生かして本気になれば、iTunes Radioは本当に素晴らしいものになると思います。その理由は、以下の通りです。

Appleは、世界最大のデジタル音楽ストアを持っています。それはつまり、世界の人々の音楽の趣味だけでなく、何にお金を払うかという最大のデータベースを持っているということなのです

選曲アルゴリズムにこのデータベースを活用することで、Pandoraなどが採用している「Music Genome Project」や、Spotifyのラジオ機能が採用しているカスタムアルゴリズムに対抗できるでしょう。

Appleは、あなたが聞いている曲だけでなく、あなたが付けた評価やお金を払う傾向、実際に買った曲を知っています。iTunes Matchのユーザーなら、所有している曲やiCloudに保存している曲も、選曲の参考にされます。これらの膨大なデータをうまく活用すれば、最高のラジオ局が構築できるはずです。

唯一の問題は、本当にそれを実現させるかです。豊富にあるデータを活用するのか、それとも、手間を省いて他社製のアルゴリズムを採用するのか。できれば、前者を選択してほしいものです。そうすれば、最終的にはきっといいものができるはずですから。

本当にそれを実現させるか

好き嫌いは別として、iTunesは世界最大の音楽ストアであるだけでなく、WindowsとOS Xのどちらにおいても最大級のインストール数を誇ります。

AppleはiTunes Radioの発表時に、すでにiPhoneとiPadのユーザーを手中に収めることができるばかりか、Apple TVの所有者、さらにはiTunesがインストールされたMacおよびWindowsユーザーもとらえることができるのです。これらのユーザーは、新しいアプリをインストールする必要はなく、ただ既存のものをアップデートするだけで済みます。

Appleは、ユーザーを軽くつつくだけでiTunes Radioの虜にすることができます。彼らはすでにそれを持っていて、完全に無料なのですから。

さらに、音楽は高音質(聞いた曲を買わせたいのだから高音質なはず)。かなりの強者であることは間違いないでしょう。対象にならないとすれば、iTunesをまったく使っていない人か、Androidユーザーぐらいなものです。AppleがGoogleとの溝を埋めようとしているというウワサの真相は、疑わしいと言わざるをえません。

iTunes Radioは、機能面ではそこそこです。その機能については、批評家による酷評をすでに耳にしているかと思います。でも私は、Pandoraの広報チームがiTunes Radioについて「既存のサービスと同等に過ぎない」と発表したのを見て、嬉しくなりました。

そんな必要のないPandoraが、なぜわざわざ攻撃ののろしを上げたのか。もちろん、健全な競争の一環かもしれませんが、違う見方をすると、Pandoraなどの競合にとって、iTunes Radioが脅威となり得るからではないでしょうか。「Appleが本気になるとやばいぞ」と。

かつての二の舞にはならないのか

かつての二の舞にはならないのか

iTunes Radioをヒットさせるために、Appleは本気にならなければなりません。彼らは以前、音楽ストリーミング市場に参入し無残にも失敗した経験があります。さらにiTunes Radioには、他のサービスでユーザーが愛用している機能が不足しています。Appleが成功するためには、まだまだ努力が必要なのです。

iTunes Radioにはソーシャル機能が皆無です。と言っても、友人の好みに合わせて曲を勧めてくれる機能が必要だと言っているわけではありません。そのような機能はたくさんのサービスが提供していますが、うまくいっているのはほんの一握りにすぎません。

それよりも、Pandoraでお互いをフォローしたり、Twitterや自分たちだけのステーションで曲を共有したりするのが流行っているようです。Spotifyのいちばんの強みは、ソーシャルなこと。Facebookと接続してプレイリストを共有することで、あなたとあなたの友達に、一日中おすすめの曲を聴かせてくれます。Google Music All Accessの新しいラジオでは、次に流す曲を自分でコントロールでき、Google+で共有もできます。

Appleは現在、FacebookやGoogleとはあまりいい関係ではありませんが、情報サイト「Verge」によると、Twitter #Musicとはうまくやっているようです。ひとつだけ明確なことは、人々が音楽について話したり情報共有したりするのが好きだということ。Appleはこのことを受け入れる必要がありそうです。

Appleはこのことを受け入れる必要がありそうです

iTunes Radioは、最先端であり、業界の中心でなければなりません。iTunesにはすでにラジオ機能があり、ほとんどのインターネットラジオ局、Shoutcast局、Live365局、Digitally Imported局が網羅されています。これはこれでなくなっては困るサービスですが、正直最先端であるとは言えませんね。

もしiTunes RadioがGeniusやPingのように、誰も気にも留めないようなバックグラウンドの一機能になってしまったら。そうなったら、もう絶望的だと思います。Appleが別のプロジェクトに目移りして、iTunes Radioが忘れられてしまわないことを祈るばかりです。

彼らはいつも次々に新しいプロジェクトを展開し、古いものは熟す前に枯らしてしまうか、競合他社がやっているからという理由で中途半端に続けるかのどちらかです。今回もそれをやるようだったら、PandoraやSpotifyのユーザーが乗り換えを検討することもないでしょうし、iTunes MatchやiTunes Storeの売上が伸びることもないでしょう。

Appleが本気になりさえすれば、同社の売上が伸びるだけでなく、私たちも新しい音楽を一層楽しむことができるはずなのです。

Alan Henry(原文/訳:堀込泰三)

Photos by Charli Lopez, Bruno Pedro, mario anima.