3人の会計士が、基本的な数字とビジネスの背景となるストーリーを読み解きつつ、グローバル企業の実体を解き明かしている書籍が、『ビジネスモデル分析術 数字とストーリーでわかるあの会社のビジョンと戦略』(望月実、花房幸範、三木孝則著、阪急コミュニケーションズ)。

「フェイスブック vs. グリー」「グーグル vs. ヤフー」「アップル vs. ソニー」「サムスン vs. パナソニック」「アマゾン vs. 楽天」と競合企業を並列し、沿革、経営理念、ビジネスモデル、経営戦略、決算書などを具体的に比較していく、ありそうでなかったユニークな内容です。

経営者の発信する情報から報道記事までを、売上高や営業利益などのデータと絡めて分析しているため、客観的なスタンスが貫かれている点がポイント。本記事ではその根幹をなす基礎であり、あらゆる企業のビジネスモデルを探る際の手段が記された第7章「ビジネスモデル分析術」から「情報収集のポイント」を引き出してみます。この項で、ビジネスモデル分析時に不可欠だとしている情報源は次の3つ。

1.サービスを利用する(311ページより)

ビジネスモデルを理解するためには、その企業が提供しているサービスを体験することが大切。フェイスブックやグーグル、アマゾンなどのサービスはもちろん、グリーのソーシャルゲームなども実際に試してみればわかることが多いといいます。

また、その商品が販売されている現場を見ることも重要。たとえばアップルストアやビックカメラなどの家電量販店で、アップル製品とソニー製品がどのように販売されているかを見に行けば、各企業のメッセージを読み取れるからだといいます。同じように、電通のアド・ミュージアム東京、ソニー歴史資料館など、無料で資料を閲覧できる施設を利用することも勉強になるそうです。

2.本を読む(313ページより)

本を読む一番のメリットは、情報を体系立てて理解できること。インターネットから断片的な情報を大量に入手するだけでは頭のなかが混乱してしまうため、インターネット利用と並行して、本を読みながら情報を整理することが大切だとか。ちなみに企業分析に使うべき本は、次の3種。

(1)公認本

公認本とは、社長が自分の名前で出版している本、あるいは著者が会社公認で多くの社員にインタビューを行なって執筆した書籍。社長や社員の考えを直接知ることにより、その会社のストーリー(組織風土や企業行動の核となる考え)を理解できるといいます。

(2)分析本

公認本には「ライバルとの関係」「会社が抱える問題点」などは書かれていないため、分析本を使ってその会社が社会のなかでどのように位置づけられているかを理解することも大切だそうです。

(3)業界地図

公認本や分析本だけを読んでいると、その会社やその業界という狭い視点から企業を分析してしまいがち。しかしさまざまな業界はお互いに影響を与え合っているため、多くの会社の売上高や業界シェアなどを知っておいた方が、バランスよく情報収集ができるはず。そこで著者は、市場規模マップや世界経済地図、スマートフォン、SNS、デジタル家電などの分析資料が掲載されている『会社四季報 業界地図』の利用を勧めています。

3.インターネットから情報を収集する(315ページより)

(1)企業のホームページ

企業ホームページ内の「投資家情報」「IR情報」のページからは、決算短信、決算説明会資料、アニュアルレポート、有価証券報告書など企業分析に役立つ資料を入手可能。投資家に積極的な情報提供を行なっている企業は、決算説明会資料をダウンロードできるだけでなく、その内容を音声や動画でも公開しているそうです。

(2)財務情報が入手できるホームページ

上場企業約4,000社の会社内容を検索できる「企業価値検索サービスUllet(ユーレット)」、すべての上場企業の有価証券報告書をダウンロードできる「EDINET」、米国証券取引委員会の開示の仕組みである「EDGAR」のホームページなども有用だとか。

(3)その他お役立ちホームページ

もちろん、「ウィキペディア」「グーグル検索」「Yahoo!ファイナンス」「日経ビジネスオンライン」などのサービスも利用価値大。

本書の執筆に際し、著者もこれらのサービスを積極的に利用したそうです。そんなところからも、的確な情報収集がいかに重要であるかを理解できるはず。つまり本書も、そうした情報収集の集大成だというわけです。企業を読み解くための鍵が、きっと見つかります。

(印南敦史)