いさかいの解決、顧客や業者とのやりとり、昇給の申し出など、考えてみれば、私たちは毎日のように、さまざまな形で「交渉」をしています。大事なのは、自分の希望や要求を満たしながらも、相手をあざむいたり、相手の希望や要求を無視したりはしないことです。ですが、これを両立するのはとても難しいものです。Ed Brodow氏の『交渉のブートキャンプ―12回特訓プログラム』は、交渉術を磨きたいと考えている人にうってつけの参考書です。おそらく、ほとんどの人が上達させたいと思っているのではないでしょうか。
2カ月前にマネー系ブログ「Three Thrifty Guys」に書いた記事の中で、私は上司に30%の昇給を願い出たことを話題にしました。その時には触れなかったのですが、この上司は私がかつて出会った中で最強の交渉の達人でした。
彼はフォーチュン500企業を相手に、日常的に数百万USドル規模の契約のための交渉をしていたのです。ですから、私の昇給は希望した通りの結果にはなりませんでした。でもその代わりに学んだことがいくつかあります。
私はその道の専門家ではありません。そこで、Brodow氏の著書に書いてあることと、前述の上司から学んだことを紹介しようと思います。交渉力を磨けば、あなたの希望や要求を通すのがずっと簡単になるはずです。
1.話を聞く
Brodow氏が著書で挙げている最初のポイントは、話を聞くことです。これは現代社会ではひどく過小評価されているスキルかもしれません。思い込みで相手の話を聞いたり相手の話を勝手に終わらせてしまったりするのは簡単で、人の話を聞くのはほかのことに比べておろそかにされがちです。筆者は平均的な聞き手だと思いますが、誰かが話している時にぼんやりしてしまう傾向があります。相手の言うことを聞き、情報を処理するには、よほど集中しなくてはいけません。
Brodow氏は、話を聞くことで得られる結果を2つ挙げてその重要性を力説しています。こちらが話を聞けば、相手は尊重されていると感じ、相手との間に信頼が生まれるというのです。信頼の構築は、あらゆる交渉にとってきわめて重要な要素ですよね。ここで「話を聞く」というのは、今聞いたことが本当に正しいか確かめる作業を含んでいます。前述の上司は、その点がとても巧みです。彼はいつも、相手の言ったことをそのまま正確に繰り返し、自分がきちんと理解しているかどうか確認していました。
2.WinWinの解決策を目指す
交渉の際に自分の希望にばかり気を取られて、相手のことをまったく考えていなかったという経験はありませんか? Brodow氏が交渉では常に「WinWin」の解決策を目指しているという一節を読んだ時はちょっと驚きました。そうした解決策は交渉の目的に反するように思われます。相手をノックアウトして取れるだけ取ってこいと教わったことはありませんか? でもどうやら実際には、「WinWin」を目指した交渉こそが、もっとも大きな成果を得られるらしいのです。
息子にこのアプローチをしてみたところ、たしかに効果がありそうでした。例えば息子は干渉されるのをひどく嫌います。親にはできるだけ「自分の人生に関わってほしくない」と思っています。彼を扶養し、衣食住の代金を払っているのは私たち親ですから、その希望を完全に叶えるわけにはいきません。それでもWinWinの解決策を目指すことはできます。そこで「私たちに関わってほしくないのなら、〜しなさい」と言うようにしました。そうすれば、息子は希望の「親に干渉されず、さらなる自由と独立を得る」を叶え、こちらの要求「ルールを守らせる、するべきことをさせる」も満たされます。WinWinの解決策こそ、まさに交渉の最良のアプローチなのです。
3.共通点を探す
交渉のもうひとつのポイントは、自分と相手の共通点を注意深く探すことです。ヒストリーチャンネルの『眠ったお宝探し隊 アメリカン・ピッカーズ』という番組を見たことがある人なら、マイクとフランクの「お宝探し隊」が、実に効果的にお宝の買い取り交渉をしているのをご存じでしょう。マイクのお気に入りの収集品のひとつが、古い自転車です。別の自転車愛好家と交渉する時、マイクは古い自転車への愛を語りあおうとします。同じものに興味を持っているとか、共通の下地があるということが伝われば、相手も対決姿勢をとりにくくなります。
4.反論や異論を認める
あなたの交渉相手は、あなたの希望や要求を認めずに交渉を終わらせようとして、あなたの提案に反論したり、難色を示したりするかもしれません。実際、それであきらめてしまう人は大勢います。
あきらめずに反論に対抗したいなら、相手の言い分を認めるのが効果的です。反論を受け入れれば、相手は自分の話を聞いてもらえていると感じるでしょう。議論の打ち切りは避けられます。こんな電話セールスの経験はありませんか?
あなた:「今は、そんなものを買う余裕はありません」
相手:「現時点で余裕がないのはよくわかります。では、分割払いではどうでしょうか? 4分の1だけ前払いで、残りは後払いでけっこうです。クレジットカード番号を教えていただければ、ご注文を処理できますよ」
これはセールスの常套手段です。嫌うのではなく、自分の武器のひとつにしてしまいましょう。
5.パイを大きくする
交渉をしていると、ひとつのことに集中するあまり、別の可能性もあることを忘れてしまいがちです。「ひとつのパイを分け合う」ような交渉ではなく、「パイを大きくする」ことを考えてみようとBrodow氏は書いています。つまり、決まった枠組みにとらわれずに交渉してみるわけです。
私が昇給を願い出た時、上司はその希望を受け入れることはできませんでした。ですが「昇進や職責の拡大という方法で昇給を実現できるように協力する」と言ってくれました。枠組みにとらわれない考え方をすれば、もともと交渉のテーブルにはなかったものを差し出せるようになり、交渉成功の可能性が高まるのです。
Aaron Shepherd(原文/訳:梅田智世/ガリレオ)