私たちは、何かと生産性向上を迫られる文化の中で暮らしています。自分の時間内でアウトプットを増やし、さらに多くの仕事に取り組むことができれば、それに越したことありません。ところが、『Be Excellent at Anything』の著者であるTony Schwartz氏によると、そのようなアプローチは生産性を下げるだけなんだそう。この記事では、その理由に迫ってみます。
きちんとした休息を取らずに1日を過ごそうとすると、エネルギーの「ペース配分」ばかりが気になり、(故意に)力をセーブしてしまいます。これをやると、驚くほどポテンシャルが低くなります。本来、身体の自然なリズムに合わせれば、集中力は瞬発的に90%にまで高められるはずなのに、1日を通して25%程度に抑えられてしまうのです。その結果、自分のすべてを出し切れないばかりか、回復のための休息を取ることもできなくなってしまいます。
「生産性を高めるには、ひたすら一生懸命やりなさい」という、古臭い言葉に取りつかれているのかもしれません。デスクで長い時間を過ごしたにもかかわらず、振り返ってみると「いったい何をしたんだっけ」という経験、あなたにもありませんか。
Schwartz氏によると、「安心して集中力を90%に高められないことが、最大の障害。真の生産性は望めず、ベストな仕事はできません」。真の生産性は、単にデスクに長時間いることではなく、エネルギーをうまく管理することで生まれるのです。
1日のエネルギーレベルの推移
ノリノリの時でも、ヘトヘトの時でも、エネルギーレベルの感覚は、誰もが持っています。ただ、気付かないフリをしているだけ。それが仕事に与える影響を認識している人はほとんどいません。でも実は、私たちのエネルギーは、1日のうちに何度もアップダウンのサイクルを繰り返しているのです。心理学者Peretz Lavie氏は、これを「ウルトラディアン・リズム」と名付けました。
Lavie氏は、こんな興味深い実験を行いました。まず若い成人に、15分起きて5分寝るというサイクルを、午後4時から午前0時までの計8時間続けてもらいます。そして、6~7時間の睡眠をとった後、再び午前7時から、15分起きて5分寝るサイクルを午後の早い時間まで続けさせます。Lavie氏は、この変則的な睡眠スケジュール中に、被験者が眠りに落ちた時と眠れなかった時を観察しました。そして、驚くべき発見に至ったのです。
午後から夜にかけて眠くなるのは、午後4時半と午後11時半の2回でした。一方、午前中には、90分おきに眠気が訪れることが分かったのです。この90分のサイクルこそ、ウルトラディアン・リズム。この間、私たちは、自然と目が冴え、生産性が高まります。眠気と眠気に挟まれたこの時間は、仕事がはかどるのです。
自然のリズムに同調するには
世界レベルのバイオリニストを対象とした研究から、ウルトラディアン・リズムに逆らわずに仕事をしている人ほど、高い成果を上げていることが分かりました。一般的には、最高のバイオリニストになるには、指から血が出るほどの練習が必要だと思われています。でも、それは違います。トップレベルのバイオリニストは、90分単位で練習を行い、長くても合計4時間半以内で練習を終えるのです。さらに、レベルの低いバイオリニストよりも、睡眠時間が長いことも分かっています(特に、20~30分の昼寝を午後にしている)。
これは、エネルギーレベルが高いときに集中せよと言っているだけではありません。同様に、エネルギーレベルが低いときには、休息をとることが非常に大事なのです。Schwartz氏がよく引用している研究を紹介します。アメリカ連邦航空局が長距離飛行のパイロットを対象に行った研究で、エネルギーレベルが低いときの休息の重要性を示したものです。
パイロットを「昼寝グループ」と「昼寝なしグループ」の2つに分けます。昼寝グループには、フライト中に40分の昼寝時間が与えられます。実際の睡眠時間は、平均26分でした。昼寝後に反応速度テストを実施したところ、反応速度の中央値は16%向上しました。
一方の「昼寝なしグループ」に同様のテストをフライト中に実施したところ、反応速度は34%悪化。さらに、フライトの終盤30分間に、2~10秒のマイクロスリープが22回も観測されたのです。なお、「昼寝グループ」ではマイクロスリープは観測されませんでした。
このように、エネルギーが低い時間帯に仕事を続けようとしても、グロッキーな状態から回復できず、成果は上がりません。生産性を維持するには、身体の自然なリズムを把握し、仕事時間と休息時間をそのリズムに同調させることが大事です。
自分を高めるには、エネルギーの低い時に無理をせず、徹底的な訓練を
Malcolm Gladwell氏は、著書『Outliers』において、ある分野で専門家になるには、10000時間の「集中的訓練」が必要だという考えを提唱しました。心理学者Anders Ericsson氏による集中的訓練に関する研究でも、専門性を築くには、真の試練と「摩耗」が必要であることが示されています。
「フロー」(精神が高揚し集中力が高まっている状態)に入れば、気分は高まります。一方、同じ「フロー」という言葉は、あまり無理をせずに時が流れていく様子を表す際にも使用されます。でも、自分を高めるには、厳しい訓練こそ必要なのです。例えば、ジムでのウェイトリフティングを思い浮かべてください。ウォーキング30分と軽量のフリーウェイトだけでも、「フロー」に入ることはできます。でも、腹筋をくっきりと6つに割りたいのであれば、必ず痛みが必要なのです。
そこまでの筋肉を作りたければ、不快な領域まで踏み込まなければなりません。これが、Schwartz氏や著名作家のCal Newport氏が、「何も抑制しない」時間に固執するゆえんなのです。その時間は、次々やって来る困難に立ち向かいながら、徹底的に自分の弱さと対峙することが何よりも大切になります。
集中力が高まっている時間に集中的訓練を行えば、自分の弱さを知り、それを克服し、そしてベストな仕事をすることができるでしょう。
エネルギー管理に役立つ3つのコツ
1.仕事時間を90分単位に区切る:筆者がこれを試したところ、90分間に全力投球するという一見無茶な奔放さが非常に心地よく、「後のために力を残しておこう」なんて思わずに、自然と生産性があふれ出てくることに気が付きました。予期せぬ心の柔術とでも言うべきでしょうか。90分しかないと分かっているからこそ、エネルギーを最大限に発揮することができるのです。 2.90分のセッション終了後、15分の休息を取る:Schwartz氏によれば、15分の休息を取ることを念頭に置いて仕事を90分単位に区切ることは、1日のエネルギーと回復のバランスを取るのに最適だといいます。すぐに、15分の休息時間がある。そう思うことで、ペース配分や燃え尽きることを心配せずに、90分間に集中できるのです。忙しいことと生産的であること(実は相反する概念なのですが)にプライドを持っている人には、そのような休息を取ることは不可解かもしれません。でも、Schwartz氏の助言を信じてやってみてください。その他の研究でも、これを裏付ける結果が出ています。 3.昼寝をする:原文著者にとって、昼寝は最大の関門でした。でも、同僚のLeo Widrich氏による昼寝の科学を見て、やることを決意しました。そして、やってみて本当によかったと思っています。午後3時に30分の昼寝をすることで、午後4時の生産性の「急降下」はもはや過去のものとなりました。Schwartz氏は、一例として次のようなスケジュールを提案しています。Nickは、90分連続で集中した後、15分の休息を取ります。12時15分からは、45分のランチ、もしくは近所のジムでトレーニングをします。
午後3時、デスクで目を閉じて身体を休めます。ときには、15~20分の昼寝になることもあります。さらに、午後4時半から5時の間に、15分の散歩に出かけます。
さあ、次はあなたの番!
上記の研究結果について、どう思われましたか。Schwartz氏のアプローチは、あなたの仕事の進め方に役立ちそうですか?
The science behind why better energy management is the key to peak productivity | iDoneThis blog
Gregory Ciotti(原文/訳:堀込泰三)
image via DeeperDish image via K. A. Ericsson, Krampe, R. T., & Tesch-Römer, C. (1993). The role of deliberate practice in the acquisition of expert performance. Psychological Review, 100(3), 363-406