食にまつわる話の中には、根拠がないものもあります。それっぽく聞こえるけど、ほんとなの!? そんな都市伝説を前回の記事に続き検証してみました。

1. 塩分は健康に悪い(らしい)

この伝説、塩分が単純に善玉、あるいは悪玉というレッテルを貼られがちだったことがややこしさを生んでいます。

米ボストンの栄養学者で健康カウンセラーのAlannah DiBona氏はこう説明しています。「1940年代には、デューク大学のWalter Kempner医師が、高血圧患者の治療に塩分を制限する手法を用いて有名になりました。平均的なアメリカ人の食生活に、加工食品やできあいの品が増えるに従って、塩の過剰摂取が避けられなくなり、塩分はあっという間に悪者にされてしまったのです」

ほかの多くのものと同様に、塩についても、ほどほどの摂取を心がけるのが肝心です。

この伝説の問題は、塩分の絶対否定につながってしまう所です。もちろん高血圧症の人は、管理、制限して自分の血圧をコントロールするべきです。でも血圧が正常値に収まっている人なら、神経質になる必要はありません。塩分が単なる悪者ではないことを示す証拠も、実は山ほどあるのです。

ただ、ここまで聞いて、「もう安心」と塩の容器に手を伸ばすのはちょっと待ってください。さっき「ほどほどの摂取」が肝心と言いましたよね? 塩分が人の血圧制御機能に影響を与えるのはまぎれもない事実です。家庭やレストランで提供される料理のほとんどは驚くほど塩分過剰ですし、保存食品や加工食品にもかなりの量が含まれています。

2006年に発表されたある研究論文の指摘によれば、通常量の塩分を摂取しても高血圧につながらないケースがある一方で、食事の塩分増加が高血圧を引き起こす要因の1つになっている疑いもあるとのことです。これは特に、高血圧予備軍の人において顕著だといいます。

米国立衛生研究所付属の国立心肺血液研究所も、1998年に声明を発表し、大半の人はナトリウム摂取量を減らす必要があると呼びかけています。

自分の塩分摂取が多すぎるのでは、と不安に思う人に対して、DiBona氏はこうアドバイスしています。「20年ほど前から、カリウムにより体内のナトリウムの量を保てることが知られています。カリウム(ほうれん草やブロッコリ、バナナ、豆類などに多く含まれています)の摂取を増やせば、血圧を抑える効果が期待できます」

ただし、このバランスはとても微妙なものです。あまりにナトリウムを摂る量を減らすのも、カリウム摂取量をむやみやたらと増やすのも、健康には良くありません。適量がいいでしょう。すでに血圧が高いと診断されている人や、高血圧症や心臓病の予備軍に属する人は、ナトリウム摂取量をしっかりと管理し、個々の症状について医師に相談してください。いずれにせよ、むやみやたらに塩分を恐れる必要はありません。賢く味わえばいいのです。

2. 動物性タンパク質は植物性のものよりも優れているので、菜食主義だとタンパク質不足に陥る(らしい)

どんなものに由来していようが、タンパク質はタンパク質です。動物性のタンパク質が植物性よりも優れているという伝説には何の根拠もありません。事実、すべての動物性タンパク質は食物連鎖のどこかで植物に由来しています。動物の肉以外にもタンパク源はたくさんありますし、カラダへの吸収率にも違いはありません。こうした高タンパクの食品としては、豆類やチーズ、ナッツ、さらにはブロッコリなどが挙げられます。

シアトルの登録栄養士Andy Bellatti氏も、「油類と一部の果物を除くと、すべての食品にはタンパク質が含まれています。調理後のオートミール240mlに含まれるタンパク質は、MSサイズの卵に匹敵します」と説明しています。「アーモンド1食分(正確には23粒)には、裂けるチーズ1本と同量のタンパク質が含まれています。豆類も高タンパクですね。また、ほうれん草やブロッコリ、ジャガイモにもタンパク質が含まれています」

DiBona氏も同意見です。「この話を聞かされたら、多くのボディビルダーや運動選手は卒倒してしまうかもしれませんが、筋肉細胞の基本的な構成要素であるアミノ酸をつくるのは、動物ではなく植物なのです。動物の肉からもタンパク質を摂取できますが、葉物やその他の野菜、ナッツ類、果物、穀物をバランス良く食べていれば、筋肉の発達に必要な量のタンパク質は十分に摂れるはずです」

ハーバード公衆衛生大学院(HSPH)も、タンパク質は全部同じだとの見解を示し、さらに重要なのは「タンパク質のパッケージ」だと説明しています。

つまり、タンパク質と一緒に摂取するほかの栄養素や脂肪が大切だということです。HSPHも指摘しているように、上等のステーキはおいしいし、タンパク源としても優秀ですが、高脂肪でもあります。調理済みのレンズ豆なら、1カップでステーキと同等のタンパク質が摂れるのに、脂肪はほんのわずかです。

3. 不飽和脂肪酸は善、飽和脂肪酸は悪(らしい)

脂肪は、DHAなどに代表される「不飽和」と、その対極にある「飽和」の2種類に分けて考えられています。不飽和はカラダに良く、飽和は悪いと言って片づけてしまえればいいのですが、それほど単純な話ではありません。今では、「飽和」と「不飽和」という言葉はすっかり食品業界のマーケティング用語と化しています。実際には、摂取する脂肪の種類、脂肪のもととなる食べ物、摂取する量によって、良し悪しは変わってくるのです。

「不飽和脂肪酸の中でも、モノ不飽和脂肪酸(アボカドやオリーブオイル、ピーカンナッツ、アーモンドなどに含まれる)やオメガ3脂肪酸(亜麻や麻、脂肪分の多い魚など)は非常に健康に良いです。一方で、オメガ6脂肪酸(トウモロコシや大豆、綿実油に特に多い)を大量に摂取すると、多くの慢性病の主要因と考えられている細胞の炎症が引き起こされます。トランス脂肪酸が含まれず、飽和脂肪酸が少ないタイプの油脂を使っていることをさかんに宣伝するお店があります。でも残念ながら、こうしたところで使われている油はたいてい、オメガ6脂肪酸が多く含まれています」と、Bellatti氏は述べています。

また、「ココナッツやココア(甘味料の入っていない純ココアの粉末や、ココア含有量が80%以上のチョコレートに限る)に含まれる飽和脂肪酸には、心臓を健康に保つ多くのメリットがある」のだそう。飽和か不飽和で、健康によいか見分けるのは難しいみたいです。

Alan Henry(原文/訳:長谷睦/ガリレオ)