筆者のTony Schwartz氏は、企業に活力を与えるコンサルティング企業The Energy Project社の社長兼最高経営責任者(CEO)です。彼の会社にはフルタイムの社員がわずか14人しかいませんが、世界的な大企業に対してコンサルティングを行ってきました。それを実現させたのは「コミュニティ」の力だと言っています。なぜ、そう思うようになったのでしょうか?
2年ほど前から、The Energy Project社では、定例の「コミュニティ・ミーティング」を開いています。そこでは、仕事だけでなく個人的なことも含めて、お互いの近況を報告し合います。ミーティングは、ひとりずつ順番に「今日の気分はどうですか?」などの質問に答えることから始まります。ほかのメンバーは黙って耳を傾けます。
私がこのミーティングの大切さに本当に気づいたのは、チームに危機が訪れたときでした。昨年10月のある週末、チームメンバーのひとりが、23歳になるご子息を亡くしました。大変残念で悲しい出来事でした。月曜日の朝、チームメンバーは会議室に集まりました。チーム全体を、痛み、悲しみ、困惑、恐れが覆っていました。誰もが命の儚さを知り、愛する者たちを想い、悲しみに打ちひしがれた同僚に、同情を寄せていました。
数週間後、休暇をとっていたその同僚が職場に復帰しました。初日にコミュニティ・ミーティングを開きましたが、チームの感情はまだ高まった状態にありました。全員が痛みを感じており、傷ついた同僚の心に寄り添っていました。メンバーは感情をシェアし合うことで、心の重荷を降ろしていきました。私たちは同僚を支えようとしており、そのことが私たちを支えていました。ミーティングのあと、チームの感情は穏やかになっていました。メンバーたちは再び仕事に集中することができたのです。
私はこの日、はっきりと気づかされました。自分の感情を素直に話し、黙って耳を傾けてもらうことが、どれほどパワフルで、心を解放してくれるかということを。私たちがコミュニティ・ミーティングを開くきっかけとなったのは、精神科医のSandra Bloom氏が開発した「サンクチュアリ・モデル」です。このモデルは、おもにメンタルヘルスの世界で、慢性的なストレスを抱えている人や困難な状況に対処するのをサポートする目的でつくられたものです。
昨今では、企業生活がますます人々を追いつめています。家庭のストレスや睡眠不足に加え、メールの洪水、絶え間ない会議、長い勤務時間...まさに息つく暇もない状況です。これでは苦しくてあたりまえです。さらに悪いことに、多くの職場では感情を持ち込まないことが暗黙の了解となっています。
何のことだかわかりますよね? 誰もがオフィスのドアを開ける瞬間、仮面をかぶります。「調子はどう?」と同僚から声がかかりますが、単なる決まり文句です。本当に尋ねているわけではありません。あなたも自動的に「元気ですよ」と答えますが、本当に感じていることとは関係ありません。
前述のBloom氏も次のように言っています。「今までに社会の中で本当の安らぎを感じたことはありますか? つまり、気遣われ、信頼され、非難を恐れず本音を言え、見捨てられたり誤解されることを恐れず、絶え間ないプレッシャーや競争に巻き込まれずにいられたでしょうか? 思いやりをもち、創造的で、自然体でいることができたでしょうか?」。
社会からの要求が増えるにつれ、人々はより不安になり、孤独を感じ、傷つきやすくなっています。人間にはある転換点があります。私たちは疲弊しきったと感じると、サバイバルモードに落ちてしまいます。自己防衛的になり、創造的に考える能力を失い、他者に思いやりを持てなくなり、長期的な視点で物事を判断できなくなります。そのかわりに「とにかく今をサバイバルしなければ」という考えで頭がいっぱいになります。
私は、コミュニティこそが助けになると信じています。コミュニティは、私たちを守り、安心をもたらし、励ましてくれる聖域になってくれます。日常の困難さに対応するうえでのオアシスになってくれるのです。コミュニティは、目先の欲望に振り回されず、他者と分かち合い、公共に貢献し、長期的な視点を持つことを助けてくれます。
The Energy Project社のチームが高いパフォーマンスを保っているのは、コミュニティの強さゆえだと私は信じています。お互いに安心と信頼があってはじめて、自分のミッションに集中できます。わが社にはフルタイムの社員がわずか14人しかいませんが、世界的な大企業に対してコンサルティングを行ってきました。それができる理由のひとつは、社内政治でエネルギーを浪費していないからです。私たちは常に一体となり、助け合って働いています。
私たちのチームは、いわば実験室です。刷新のパワー、1つのことに集中する力、紛争の解決など、顧客にコンサルティングするテクニックを自らにも使ってきました。そしてわかったことは、他者に打ち勝てと尻をたたくよりも、思いやりと信頼のコミュニティを築くほうが、成功しやすいということです。変革はみんなで行うものです。ひとりきりではできません。
What If You Could Truly Be Yourself at Work?⎪Harvard Business Review
Tony Schwartz(原文/訳:伊藤貴之)