自宅で仕事をすることについて、私は同僚からいつもこう言われます。
「でも、会社で仕事をしないと生産性が上がらないでしょ?」
以前はどうも腑に落ちずにいたのですが、最近ようやく理解できました。こうした意見の根底には、生産性ばかりを重視する考え方があるのです。
自宅での仕事の生産性が、会社で仕事をするのに比べて低くなったとしても、私はあまり気にしません。というのも、「生産性」は複雑な方程式の中のひとつの変数にすぎません。重要な変数はほかにもあります。人生の価値を変える「方程式の変数」、それは個人の幸せです。
私は生産性を上げたいと思う一方で、幸せになりたいとも思っています。そして、ふたつの思いがぶつかり合い、一方のために他方を犠牲にしなければならないこともあります。自宅で仕事をするときには、幸せと引き替えに生産性が犠牲になる場合もあるわけです。
勘違いしてほしくないのですが、ここで私は、「自宅で仕事をすると確実に生産性が落ちる」と認めているわけではありません。生産性だけを大切に思っているわけではない──これが今回の話のポイントです。
そんなに生産性が大事なら、脳のドーピングに明け暮れていればいい
注意欠陥多動性障害ADHDの治療薬のひとつである「アデロール」を健常者が飲むと生産性が上がる、とよくいわれます。長時間のハードな勉強をこなせるようになるので、アデロールを成績向上薬として使い続ける大学生はたくさんいます(例えば、『WIRED』のこの記事では、"脳のステロイド"という表現で、仕事の現場に浸透しつつある薬物使用のことが紹介されています)。
多くの頭脳労働者がアデロールを飲んで生産性を上げれば、大きな利益になるという意見も出てくるかもしれません。米国ではアデロールは法律で規制されている薬物であり、医者の処方なしに所持していると逮捕されますが、その点はいったん置いておいて、もしあなたの会社の社長が、毎朝アデロールを渡すようになったらどうでしょうか? あなたは「いえ結構です」と言うでしょう。ですが、社長はこう言います。「しかし、アデロールを飲まないと生産性が上がらないぞ」
私は、「生産性を最大にするためには会社で仕事をしなければならない」という意見も、これと同じだと思うのです。もし「会社のために生産性を最大にすること」がすべてだとしたらどうでしょう? 酒を飲んではいけないし、良質な睡眠を毎晩とるべきだけれども寝過ぎてはダメだし、アデロールとカフェインを毎日決まった分量だけ飲まないといけません。子どもを持つことはおろか、病気で苦しむ身内さえも見捨てなければなりません。まったくバカげていると思いませんか? 仕事の生産性が人生のすべてではありません。そして私にとっては、自宅で仕事をすることが、生産性と幸せのバランスをとる方法なのです。「Hacker News」でなかなかいい議論がされているのですが、予想通り、自宅で生産性が上げられるかどうかに関する話がほとんどです。
「より生産性が上げられるか?」を問うのではなく、「より幸せになれるか?」で考えましょう。その問いに対する答えがノーなら、自宅で仕事をすることは、おそらくあなたにメリットはありません。イエスなら、生産性が自分の幸せに比べてどれくらい価値があるかをよく考えてみてください。Working from home is like saying no to drugs | Micah's Musings
Micah Wedemeyer(原文/訳:齋藤新/ガリレオ)
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