『海賊のジレンマ ──ユースカルチャーがいかにして新しい資本主義をつくったか』(マット・メイソン著、玉川千絵子・八田真行・鈴木沓子・鳴戸麻子訳、扶桑社)は、時代とカルチャーとの関係性を把握するうえでとても刺激的かつ重要な書籍です。
著者が訴えているのは、「今日の<海賊(パイレート)>は、明日の<開拓者(パイオニア)>」であるということ。既成概念に捕われず、アイデアを凝らした自由な精神で神出鬼没に跳梁する人物たちを「海賊」と称し、彼らが社会にもたらす影響力の大きさを説いているのです。登場する「海賊」は、アップル創業者のスティーブ・ジョブズやスティーブ・ウォズニアック、LINUX開発者のリーナス・トーバルズ、ウィキペディア創業者のジミー・ウェールズ、アンディ・ウォーホル、マルコム・マクラーレン、ヴィヴィアン・ウェストウッド、パンク・カルチャーのオリジネイターであるリチャード・ヘル、そしてパブリック・エネミー、50セント、ファレル・ウィリアムス(ネプチューンズ)などなど実に広範。
緻密な内容なのですべてを取り上げるのは不可能ですが、たとえば印象に残ったのが第3章の「我らがリミックスの発明者 カット&ペースト文化が新たに生み出す公共の基盤」。言うまでもなく既存の作品を作り替える「リミックス」についての考察ですが、ここに書かれていることがとても興味深いのです。
リミックスとは、どんな発想でも魅力的な考えにする、クリエイティビティを引き出すための料理方法である。そしてリミックスをするには、以下の材料が必要だ。
- すごいアイデア(自分で考えなくとも、他人のを拝借してもいい)
- 現場(ダンスフロア)の人たちのアイデア
- たくさんの他人のアイデア(細かく刻んでおく)
- オリジナリティを少々
(同136ページ)
そしてごていねいにも、「手順」まで紹介されています(137ページより)。
1.なんでもいいから、まずは「自分がこれだと思うもの」を用意し、それを「主成分」としてリミックスすると考える。ここから始まります。
2.素材を、構成する成分にまでバラバラに解体。次に表層をはがし、内容を分析して、素材のよい部分と悪い部分を見つけます。
3.次に、実際にそれを使う人について考えましょう。彼らがどういった人間で、なにを欲しているのかを見極めることが大切だということです。
4.ここでまた主成分に戻って、全体を俯瞰します。こうすることで、最初は思いつかなかったような新しい考えが浮かぶかもしれないからです。
5.現場に戻り、いままで考えなかったようなアイデアを探し集めてきます。そしてもっともいいと思う部分を入念に選び、残りは捨てます。集めたものを精製して無駄のない状態にしてから、新しい材料をどう使うかを分析するのです。
6.独創的なアイデアが加わると、他から取り入れたアイデアはいっそう輝いてきます。上手にリミックスすることで、新たな価値が加わるわけです。
さて、お気づきになったでしょうか? ここではダンス・ミュージックのリミックスについて語られているわけですが、すべてはそれ以外のものごとにもぴったりとあてはまります。たとえば、新たな企画を考える際の発想法などに。
他にもヒントになりそうなトピックが数多く掲載されていますので、ぜひ読んでみてください。必ず役に立つと思います。
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(印南敦史)