人間の脳はすばらしく興味深いものである一方、状況次第では私たちのことを「邪魔」するものでもあります。今回は、心理学と効果的なマーケティングの関係を扱うブログ『Sparring Mind』の創設者、Gregory Ciotti氏による「脳に目標達成を妨げられないようにする方法」をご紹介します。1. 脳が期待しすぎることで、目標が妨げられる
未来に対してポジティブな考えを持つことには大きなメリットがある一方、過度の期待はひどい結果につながる可能性があることがわかっています。
ある心理学の研究において、「充実感を持てる仕事を探す」という課題に、複数の被験者がどのように取り組んだか調査されました。その結果、「夢を描く」ことに最も時間を費やした人たちの成績が一番悪いことが判明。そうした人々には以下のような特徴が見られたそうです。
・最も応募数が少なかった・最も採用された数が少なかった
・仕事を見つけられたとしても、給料が低かった
ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの心理学研究者であり、『PsyBlog』のブロガーでもあるJeremy Dean氏は、これについて以下のように説明しています。
「前向きな夢想」の問題は、「今・ここ」での成功を私たちに期待させてしまう点にあります。その結果、私たちは訪れるかもしれない問題に対して油断するようになると同時に、モチベーションを保つことが難しくなるのです。「捕らぬ狸の皮算用」の気分になってしまうのです。
脳は未来のシミュレートが上手です。しかし、それが現実的な目標遂行の際には裏目に出てしまうこともあるというわけです。
目標を思い描くことが必ずしも悪いわけではありません。大切なのは、過度の期待は禁物だということをきちんと意識することです。将来得られるものに心を躍らせるのではなく、「今・ここ」にある課題に取り組みましょう。そのためには日々の進捗と、実現可能な「チェックポイント」に目を向け、その達成を楽しむことが肝心。壮大な夢のなかで迷子になってはいけません。
2. 脳は最悪の部分を想定し、大きなプロジェクトを遅らせる私たちはどうしたら「仕事の遅れ」という強敵を倒すことができるのでしょうか。それを考えるに当たって、ロシアの心理学者、Bluma Zeigarnik氏の研究を見てみましょう。
彼女はまず、パズルなどのシンプルな「脳作業」を被験者に取り組ませました。そして作業を途中で遮り、やり終えていないこと、やり終えたことの両方の詳細を彼らに尋ねたのです。すると、被験者はやり終えたことに比べ、やり終えていないことの方を2倍も詳しく覚えていることがわかったのです。
また、ミシシッピ大学のKenneth McGraw氏も上記と関連する実験を行いました。彼はまず被験者たちに、ある厄介なパズルを解くように指示しました。時間制限はなし...にしていたのですが、彼は全員がパズルにまだ取り組んでいる途中で実験終了の合図をかけたのです。しかし驚いたことに、被験者の90%近くがその後もパズルを解こうとし続けたのです。
2つの実験結果をまとめると、「人間は一度何かを始めると、終わるまで忘れず、またそれをどうにか終わらせようとする」ということが言えます。となると「遅れ」を生じさせないためには、とにかく手を付けてしまうべきだということになります。
私たちの脳は、これから行う仕事がもたらすであろう膨大な作業量に思いを向けてしまう傾向があります。同時に、その最も厄介な部分に注意を注いでしまいがちです。しかし、それこそ「遅れ」が生じる原因。私たちの脳は未来の重労働を遠ざける方法を模索し、「自分は忙しい!」と思い込もうとするのです。
実際に物事を始めてしまえば、脳は違った方角を向きます。それはTVドラマシリーズで使われる「クリフハンガー」の手法のようなものです。「続きはどうなるんだろう?」と、1つの回が終わるごとに思いますが、要するに脳は「結末」を欲しがるものなのです。それは仕事でも同じこと。
「始めること」は大きなハードルのようには思えないかもしれませんが、実は「遅れ」を作らないためには非常に大切な事です。それに一度始めてしまえば、「思っていたよりたいしたことなかった」と思うものなのです。
また、脳は関係ありそうな些末なことをグズグズとやって、ニセの達成感を味わわせることにも長けています。それに従っていては望む結果にはたどり着けません。メインとなる仕事に素早く取りかかることを意識しましょう。
3. 脳は雲行きが怪しいと見るや、すぐ逃げようとするここではまず、心理学者Janet Polivy氏による、ある実験をご紹介します。
彼女はダイエットをしている人とそうでない人を研究室に集め、それぞれに同じサイズのピザを食べさせました。その後、被験者たちにクッキーを食べて、点数を付けるように指示しました。
しかし彼女がここで観察していたのはクッキーの点数ではなく、誰がどれだけクッキーを食べるかでした。実は被験者のうち何人かは、ほかの人々より大きなピザを食べたと思い込まされていました。「その日のダイエットの目標達成に失敗した」と思わせるためです。
その結果、ダイエットに失敗したと思った人の方が、ダイエットをしていない人より、クッキーをたくさん食べたことがわかりました。それも50%近くも多くです。一方で、ダイエットに失敗していないと考えた人は、ダイエットをしていない人と同じ量のクッキーを食べていました。
脳は一度目標達成に失敗すると、すぐ「諦めてしまえ」というサインを出してくるのです。短期目標に失敗したときに、「諦めてしまえ」とささやく脳に対抗するためには、起きた失敗を冷静に見直す必要があります。そこでポイントとなるのは、うまくやってきたそれまでの道のりを思い出すこと。短期目標の失敗が目標全体の失敗というわけではないのですから。
さらに、失敗してしまった場合に備えて、バックアップとなるプランを立てておくのも良いでしょう。食べ過ぎてしまった次の日には「罰として」翌朝15分ランニングをする、といった感じで。この「罰」には、立ち直りを早くする効果もあります。
How our brains stop us from achieving our goals (and how to fight back) | Buffer Blog
Gregory Ciotti (原文/訳:河西良太)